2016 Fiscal Year Research-status Report
道徳の教科化に対応する社会科シティズンシップ教育における道徳性指導の改革
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15K04427
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Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
水山 光春 京都教育大学, 教育学部, 教授 (80303923)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉村 功太郎 宮崎大学, 大学院教育学研究科, 教授 (00270265)
上地 完治 琉球大学, 教育学部, 教授 (50304374)
藤原 孝章 同志社女子大学, 現代社会学部, 教授 (70313583)
田中 曜次 京都学園大学, 人文学部, 准教授 (90511064)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | シティズンシップ教育 / 社会科教育 / 道徳教育 / 品格教育 / character education |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,シティズンシップ教育の本質としての「道徳性や価値(観)」指導のあり方を,近年の道徳教育改革との関連において究明するとともに,社会科シティズンシップ教育における道徳性指導モデルを作成することを目的としている。本年度の実績は以下の通り。 1)理論研究…社会科における「価値」の扱いについて整理した。社会科授業において根本となる倫理的価値は主に4つに大別される(功利主義,自由主義,社会契約主義,共同体主義)。これらの価値は,個々の価値判断や意思決定の背後にあって判断や決定を支えているが,そこでの価値の扱いは,既存の価値を所与として価値判断を事実判断に置き換えようとするものと,価値の整序を問うものに大別される。しかし,いずれにおいても実践レベルでは,価値そのものについての本質的な吟味が不十分であることが明らかとなった。 次に社会科教育における「徳」の扱いを検討した。価値の質を問い質し,価値を方向付けるものに「徳」がある。中でもシティズンシップ教育では,その内容に重点を置いて「責任」と「尊重(あるいは涵養)」が重視されてきたが,徳を価値のベクトルと捉えると,「包摂の徳・純化の徳」,および「省察の徳・先導の徳」の二つの軸で整理できることが明らかとなった。 2)海外調査…「徳(virtue)」を視点として,シティズンシップ教育と品格教育(Character Education)の関わりについて,英国における品格教育研究の中心拠点の一つであるバーミンガム大学Jubileeセンター,同大学附属中等学校,及びアジアにおける先進拠点であるシンガポールの国立教育研究所(NIE)を視察し,インタビューならびに資料の収集を行った。両者はいずれも,品格教育を民主主義社会に適応した「良き市民」を育成しようとする包括的な教育であり,学校改革でもあると捉えている点で共通していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016(平成28)年度当初には,次のような研究計画を立てていた。 1)シティズンシップ教育における道徳性に関して,3つの本質的要素(「知識と理解」,「スキルと技能」,「価値と性向」)の視点から整理する。2)海外調査に関して,シティズンシップ教育における主にナショナルな側面との関わりについて,シンガポールや英国において調査を行う。3)教材開発に関して,子どもの思考の成長・発達を踏まえた道徳性・価値観形成のためのフレームワークを作成する。 これらの計画に対して,本年度は,以下のように研究を進めた。 1)理論研究については,3つの本質的要素のうちの「価値」に重点化し,シティズンシップ教育における倫理的な価値は功利主義,自由主義,社会契約主義,共同体主義の4つに集約されること,ならびに「価値」についての考察に「徳」の議論を加味することによって,シティズンシップ教育はより豊かなものになることを明らかにした。2)海外調査においては,シンガポールおよび英国における品格教育の実態を調査した。シティズンシップ教育におけるナショナルな側面は,学校教育全体にとってのカリキュラム構成原理との関わりが大きいこと,すなわち,どのような人を育てるのかに関わっての地球市民か,国家公民か,社会の構成員か,個人的人格者かの議論と密接にリンクしていることが明らかとなった。3)教材開発においては,「徳」を二方向のベクトルとするフレームワークを作成し,それに基づいた教材作成の可能性について検討した。 以上に示すように,研究は理論研究が先行し,授業研究がそれに対して後追い傾向にあるものの,概ね予定通りに進行しつある。よって(2)「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年次である第3年次(平成29年度)には,理論研究においては,シティズンシップ教育における道徳性を価値や徳との関わりから整理するとともに,政治的リテラシー,コミュニティへの関与,社会的道徳的責任といったストランドとの関わりについても整理し,道徳性に着目したシティズンシップ教育フレームワークを確立する。 併せて発達段階を踏まえたシティズンシップ道徳性育成授業モデルを作成し,実践・評価することで研究を終結させる予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは主として旅費に関する部分である。その理由は,本年度に実施した海外調査(英国,シンガポール)日程の決定から実施までの期間が,先方からの連絡遅延によりともに短くなり,調査は予定通り行われたものの,調査参加者数が予定よりも減少したことにある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
海外調査地域,人数および回数を当初計画(1地域2人)より増やし(3地域6人),スタンダード等の意図されたカリキュラムのみならず,教員インタビュー等による実際に実施されたカリキュラムにも対象を広げた重層的な調査を実施する。加えて,最終成果確認のための合同検討会を数回,追加実施する。
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Research Products
(3 results)