2016 Fiscal Year Research-status Report
歴史的思考と理解の一体的形成を促すエンパシー(共感)の指導と評価に関する研究
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15K04431
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Research Institution | Hyogo University of Teacher Education |
Principal Investigator |
原田 智仁 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 教授 (90228651)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
二井 正浩 国立教育政策研究所, 教育課程研究センター基礎研究部, 総括研究官 (20353378)
田中 伸 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (70508465)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 歴史的エンパシー / 歴史的思考・理解 / 歴史の指導・評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き,歴史的エンパシーに関する理論的研究と実践的研究を並行して行った。 理論的研究に関しては,文献だけでは十分に納得できない点があることから,本年度は当研究の第一人者である英国のリー教授(Peter Lee)とフォスター教授(Stuart Foster)を訪問し,この問題について意見交換を行った。その結果,エンパシー(共感)というのは歴史理解の本質ではなく,歴史的思考の触発・深化のためのツール(仕掛け)と捉えられていることが判明した。つまり,過去は基本的に異文化であり,生徒にとって容易に理解し得るものではないし,また進んで考えようとするほど関心をひくものでもない。そうした認識を前提にすると,歴史学習を促すためには二つの課題をクリアーする必要が生ずる。一つは生徒の関心・意欲を引き出すことであり,もう一つは過去の人々の考え方や感じ方が現在とは異なり,また多様であったことに気付かせることである。この二つの課題に応えつつ,歴史的思考と理解を一体的に深める仕掛けとして,案出されたのが歴史的エンパシーの概念というわけである。 次に実践的研究に関して,エンパシーが生徒の共感に働きかけ,過去の文脈を吟味するための仕掛けであり,それ自体に意味があるわけではないとすれば,エンパシーを働かせた結果,生徒が過去の人物の行為や決断に関心を持ち,その意味や背景を探究する過程で多様なパースペクティブを示す史料を読解することが求められるはずである。こうしたエンパシーの概念が,諸外国の歴史教師にどのように把握され実践に生かされているかを調査するために,米国オレゴン州の中学校・高等学校とドイツのギムナジウムを訪問して,歴史教師の授業を観察しインタビューも試みた。なお,それらのデータを整理・分析し,実態を解明するのは次年度の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一に,歴史的エンパシー研究の第一人者で,関連論文の多い英国のP・リー教授とS・フォスター教授に面会して意見交換する中で,昨年度来疑問を抱いていたエンパシー概念における情意と認知の関係についての謎が解けたことである。つまり,エンパシーに情意と認知に関する異なる二側面があるのではなく,歴史の探究のための問いの真正性を確保するとともに,過去の文脈に迫るための同時代資料の必要性を納得させる操作的概念として,エンパシーが用いられているということである。問いの発見には情意への働きかけが有効であり,また情意により生まれた問いを歴史の文脈で探究するには,過去の人々の見方・考え方を示す複数資料の読解が不可欠だからである。 第二に,昨年度の米国マサチュセッツ州に続き,本年度は米国オレゴン州の中学校・高校とドイツ(シュトゥットガルト)のギムナジウムで歴史の授業を観察し,エンパシーの生かし方について教師と議論したり,関連資料を収集したりすることにより,歴史的思考と理解の一体的形成を促す指導と評価についての一定の見通しが得られたことである。それについて一部は学会や研究会で報告し,日本史上の事例を取り上げて,教材構成と指導のあり方を雑誌等でも紹介したが,本格的な歴史授業・評価モデルの構築と社会に向けた発信については来年度に持ち越すことになった。 以上の大きく二点の理由から、申請時の計画からみて概ね順調に進展しているものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度は本研究の最終年度に当たるため,所期のねらいを達成することを最大の目標とする。それは,歴史的思考と理解の一体的形成のために「エンパシー」を位置付けて指導し,評価するための指導・評価モデルを構築することである。 昨年度までに,歴史的思考を促すための問いと理解を深める資料読解のツールとして位置付けるところにエンパシー概念の意義があることを明らかにした。いわば,平成28年の中教審答申の示した「歴史の見方・考え方」の一つとして歴史的エンパシーを捉えれば,それを活用して思考・判断・表現を促し,確かな知識・技能を習得させるとともに,学びに向かう力・主体性をも育てることになるというわけである。 それゆえ,こうした見通しを理論的に整序すると共に,それを具体的な指導と評価の方法原理として示すことを本年度の最優先課題とする。そこで,まずは昨年度までに収集した米国とドイツの歴史の授業と評価の関連資料・データを分析・整理して暫定的なモデルを構築し,それを具体的に中学校ないし高校の歴史教材を事例に授業計画書として構成する。次いで,その授業計画書とその背景となるエンパシーを活用した歴史指導・評価モデルを全国規模の学会等で発表する。そして,諸氏の批判を踏まえて修正し,より確かな指導・評価モデルの構築につなげていく。これらの一連の動きを,研究分担者と緊密な連携のもとに進めていくのが,今後の本研究の推進方策である。
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Causes of Carryover |
昨年度末に,当初の予定にはなかったドイツのバーデンビュルテンベルク州の歴史教員養成セミナー(シュトゥットガルト市)への参加と,同市内のギムナジウムでの歴史授業参観が可能になったため,研究代表者が参加した。その費用20万円は既に支出されているが,帳簿上次年度に繰り越すことになった。 また,研究分担者も当該セミナーに同行するつもりで予算執行を計画していたが,思いがけない家庭の都合により渡航を取り止めたため,19万円余りを繰り越すことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究分担者の都合が許せば,再度海外調査(これまでの研究面での人的なつながりや歴史的エンパシーの研究的広がりを踏まえ,英国か米国を想定)のための旅費に支出することを第一に考えているが,本科研の最終年度でもあることから,収集した授業データの整理・分析や,国内学会等での発表のための旅費等に充当することも第二案として考えている。いずれにしても,本年9月くらいまでには執行計画を確定し,確実に研究成果をまとめる方向で支出したい。
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