2017 Fiscal Year Research-status Report
土を利用した環境負荷の少ない家庭科洗濯・染色教材の開発
Project/Area Number |
15K04472
|
Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
小松 恵美子 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (70550408)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 染色 / 機械力 / 土粒子 / 剣淵粘土 / 染色堅牢度 / 洗濯 / 家庭科 / 教材 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画は落ちにくい汚れである土に着目し、土を利用した環境負荷の少ない洗濯・染色教材の開発を提案するものである。土粒子が布に付着・脱落する現象について、水と力、土や布の組成や構造といった物理化学的な観点から分析・解明を進め、土を落とすための洗濯条件と、土で染めるための染色条件の両者の確立を目指す。
本研究は次の八つの研究項目を立てている:(1)布に対する土粒子の脱落・付着を促進する処理条件の影響の検討、(2)布に対する脱落・付着を促進する土粒子の組成と形態の影響の検討、(3)土粒子の脱落・付着を促進する繊維の組成と構造の影響の検討、(4)土粒子の脱落・付着を促進する布の構造の影響の検討、(5)土粒子の脱落を促進する諸条件の解明および最適洗濯条件の決定、(6)土粒子の付着を促進する諸条件の解明および最適染色条件の決定、(7)小中高を対象とした家庭科洗濯および染色学習の実験・実習教材の提案、(8)小中高における提案教材の授業実践と改善。
これまでに以下七つの項目について研究を進めてきた。土顔料の付着を促進する染色条件の解明(1)。染色装置によって布が受ける機械力の数値化(1)。北海道剣淵町産の剣淵粘土を焼成により赤く顕色化し、繊維に濃く染まるか検討(2、3)。染色布の洗濯堅牢度試験の実施(6)。染色布の色の特徴を色差計で解析、測色値からの付着鉱物量定量を検討(6)。染色布を授業教材用の洗濯実験汚染布に用いる適性についての検討(5、7)。 布(繊維)構造が異なる綿とマーセル化綿の染色実験(4)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
まず、これまで達成できた成果について述べる。(1)(6)では、Rouge土顔料と水酸化ナトリウム緩衝液で布が濃色に染まり、これはカルシウムが土顔料と繊維の間に介在して土顔料の付着を促進していると考えられた[平成27年度繊維学会秋季大会研究発表]。(2)(3)では、焼成した剣淵粘土で、PET、ナイロン、キュプラ、絹、綿の布を染色して未焼成粘土の場合と比較検討した[化学系学協会北海道支部2016年冬季研究発表、日本家政学会第68回大会研究発表]。(6)は、Rouge土顔料染色布の洗濯堅牢度を調べ、簡易土顔料汚染布への応用を提案した[化学系学協会北海道支部2016年冬季研究発表]。(5)(7)では、(6)の土顔料染色布の洗浄実験を行い湿式人工汚染布の結果と比較検討し[日本家政学会第68回大会研究発表]、家庭科教材用汚染布として論文にまとめた[北海道教育大学紀要(自然科学編)68巻2号]。(1)では、染色装置の機械力数値化を試み[日本家政学会第69回大会研究発表、日本家政学会東北・北海道支部第61回研究発表]、染色実験を行った[日本家政学会第70回大会研究発表(確定)]。(6)は、Rouge土顔料染色布の色を色差計で測色して解析し[平成28年度繊維学会年次大会研究発表]、蛍光X線による分析値との相関から付着鉱物量を定量する方法について検討した[日本分析化学会第65年会研究発表、日本家政学会東北・北海道支部第61回研究発表、化学系学協会北海道支部2018年冬季研究発表]。(4)では、平成29年度に布(繊維)構造が異なる綿とマーセル化綿の染色実験を行い試料を得ている。 研究最終年度であったため全研究項目の達成を目標としていたが、研究代表者の事情により成し得なかった。研究計画を完了するため、補助事業期間を平成30年度まで延長する申請を行い承認された。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は研究計画の最終年度であるため、繊維と土粒子のゼータ電位を測定により明らかにして、これまでの研究内容をさらに発展させていきたい。まだ着手していない研究項目(8)についても進めていきたい。また、当初の研究計画にあげた4つの「共通内容」は、平成27年度に一部変更した以下の方向で維持する。 1.土粒子の脱落・付着実験の機械力には、JIS規格に準拠したラウンダーメーターを使用する計画であった。しかしながら、ラウンダーメーターは回転速度が固定されており、機械力の大きさを変える実験はできないため、機械力の影響が検討できない。したがって、ラウンダーメーターの他に、これまでの研究で使用してきた震盪機による実験も引き続き行い、機械力を比較検討していくこととした。 2.繊維内部へ土粒子が侵入しているか確認するために、ミクロトームを使用して、染色布の繊維断面試料を作製し観察する計画であった。しかし本研究の土顔料染色布は、繊維断面試料の作製過程で大きなダメージを受ける可能性があり、その場合は本来の土粒子付着状態が観察できなくなる。土顔料の付着状態は試料によって異なりダメージが懸念されることから、ミクロトームによる繊維断面観察を取りやめることとした。 3.土粒子と布のゼータ電位測定は、脱落・付着の最適条件で行う方向で考えていく。 4.土粒子の布付着量は、計画通り蛍光X線分析により定量し比較評価できているため、今後も続けて行く。
|
Causes of Carryover |
研究代表者の事情により平成29年度は本研究課題の実施計画に遅延が生じ、当初予定していた研究計画を完了することが難しくなった。研究計画を変更せずに遂行するためには、もう1年間必要であることから、平成30年度までの補助事業期間延長を申請し承認された。 平成29年度中に土粒子と布のゼータ電位測定を分析業者に依頼する予定であったが、測定に至らなかったためその金額が未使用となった。繊維と土粒子の結合機構を解明するためにはゼータ電位を測定する必要があるため、その経費に使用する。
|
Research Products
(5 results)