2016 Fiscal Year Research-status Report
倍数体作成と植物ホルモン処理による体細胞分裂観察実験の改良
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15K04482
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
佐野 史 群馬大学, 教育学部, 教授 (30313018)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 体細胞分裂観察実験 / 倍数体 / 中学校 / 高等学校 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、細胞を大きくすること、分裂領域を拡大することの2つのアプローチで体細胞分裂の観察実験により適した材料を調製することを目的としている。 前者については、実験用モデル植物であるファストプランツで、根端分裂組織において分裂細胞が大きい四倍体の系統を作出できたため、予定を前倒しして、高等学校において実践を行った。その際、高等学校においては体細胞分裂の観察実験は細胞周期を理解を深める目的で行われることを考慮し、この単元全般で四倍体の内容を取り入れ、授業前後および期末考査において、細胞周期の進行に伴う核内DNA量の変化に関する理解を確認した。実践では、二倍体、四倍体のファストプランツと、この実験の試料として汎用されるネギ、ニンニクの4種類の根を材料に体細胞分裂の観察を試みた。結果として、授業時間内に分裂細胞を発見できた生徒の割合は、四倍体ファストプランツよりも、ネギ、ニンニク、さらに二倍体ファストプランツの方が高かった。原因として、ファストプランツの細胞核が酢酸オルセインなどの染色剤によって染まりにくく、教科書と異なる染色像であるため、生徒が混乱したことが考えられる。ただ、単元を通じて四倍体の内容を取り入れた第一学年では、期末考査の結果から、第二、第三学年よりも細胞周期の進行に伴う核内DNA量の変化の理解が高かったことがわかった。 後者については、ニンニクをオーキシン(IAA)で処理して組織化学的に分裂組織と伸長組織の境界領域の位置を計測したところ、無処理のものでは根端から約1 mmであったのに対し、2 mm程度まで遠位となっており、この処理により分裂細胞の存在する領域を広げることができることがわかった。この結果の再現性とともに、ネギなど他の材料での効果も確認中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
細胞の大きさを大きくするアプローチでは、計画していた複数の材料のうち、ファストプランツで順調に四倍体を作出することができ、予定より早く高等学校において実践授業を行うことができた。しかし、この材料を用いた高等学校における実践では、残念ながら芳しい効果が認められなかった。原因の一つとして、この材料ではこの実験で汎用される酢酸オルセインを用いたときに細胞核の染色が薄く、ネギやタマネギなど教科書に載っている染色像と著しく異なるため、生徒が細胞を認識しづらかったことが考えられた。他の染色試薬も試してみたが同様であり、結果的にこの実験に適した材料を得ることができなかったことになる。しかし、これまでこの材料に注力してきたため、他の材料では倍数体の作成自体がまだ条件検討の段階にあり、実践に使える状況ではない。 分裂領域の拡大については、ニンニクの鱗茎由来の根をオーキシン(IAA)処理して組織化学的に解析することにより、無処理のものに比べて分裂領域が二倍程度広くなることがわかったが、再現性に若干不安があり、他の材料での効果の確認とともに再検討中である。 また、計画として、無処理の試料での体細胞分裂観察実験の成功率を調べる予定であったが、実践を予定していた学校のカリキュラム変更などから実施できなかった。 以上のように、材料の再検討が必要となったことを主な理由として、当初の予定では平成28年度までに終える予定であった倍数体作成と植物ホルモン処理による新たな材料の調製を引き続き平成29年度も行輪なければならなくなり、それらの材料を用いた実践が平成30年度以降にずれ込むことになってしまったため、やや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
倍数体の作出が順調だった材料(ファストプランツ)が体細胞分裂の観察にはあまり適していないことが判明したため、今後はネギなど、この実験に汎用される材料に対象を絞って、改めて材料の調製を試みる。 倍数体作成に関しては、発根させた根をコルヒチン溶液で処理することによる調製を行う。予備実験では無処理のものに比べて大きめの細胞が根端分裂組織の一部に認められたが、分裂像は確認できなかったため、濃度、処理時間などの条件の検討が必要である。 分裂領域の拡大については、まずニンニクにおけるIAA処理の効果の再現性を確認する。確認には、これまで用いてきた組織化学的な方法に替えて、根の断片を押しつぶし法で観察する方法を使い、迅速に結果を得るようにする。同様の方法により、ネギなどの材料でもIAA処理の効果を確認する。また、学校現場での実用性を考慮し、より安価な合成オーキシンによる処理の効果も検討する。 学校における実践は、平成28年度の予定からずれこんでしまったが、まず無処理の材料での実験の成功率などを平成29年度に確認するための実践を行い、調製した倍数体や分裂領域を拡大させた材料の効果を調べる実践を平成30年度に行う予定とする。
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Causes of Carryover |
実践の結果、それまで注力してきた材料が体細胞分裂観察実験にあまり適していないことが判明し、改めて材料の調製から行う必要性が出てきた。材料の調製では試薬や器具など物品費の支出が継続して見込まれるが、当初の予定では平成28年度までに材料の調製を終える予定であったため、平成29年度以降は物品費を含めて全体的に少なめに見積もって要求してしまっていた。そこで、上記の必要性を把握した段階で経費の使用を抑え、平成29年度の材料調製用の経費を少しでも多く確保するようにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は材料の調製のための試薬や器具などの物品費として使用予定である。
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