2016 Fiscal Year Research-status Report
特別活動で社会的資質を育成するための指導内容と指導方法の開発に関する基礎研究
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15K04484
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
林 尚示 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (10322124)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 樹 鎌倉女子大学, 教育学部, 教授 (00410027)
安井 一郎 獨協大学, 国際教養学部, 教授 (80200492)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 特別活動 / 学級活動 / 指導内容 / 指導方法 / 学級会 / 小学校 / 社会的資質 / 開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
特別活動で社会的資質を育成するための指導内容と指導方法の開発を行う4年間の研究の2年目の段階である。本年度の研究実績の具体的内容は,大きく2つに区分できる。 1つ目は,OECDが検討している資質・能力との関連,生徒指導及び道徳教育の機能に着目して社会的資質の育成について検討できたことである。具体的には,日本の教育の特徴である特別活動で育成される社会的資質とOECD Education 2030における社会的資質・能力には,共通点を見いだすことができ,日本の特別活動でOECD Education 2030における社会的資質・能力を育成することができることがわかった。また,日本国内の具体的な事例から,特別活動では生徒指導の機能を伴って社会的資質の育成が図られていることが指摘できた。小学校,中学校,義務教育学校の特別活動の教育実践から,(1)人格尊重・社会的資質型,(2)個性伸張・社会的資質型,(3)行動力・社会的資質型の指導方法のタイプを確認することができた。さらに,特別活動と道徳教育は,「児童生徒が人間としてのよりよい生き方を考え,実現させる活動」としての共通の基盤を有していることもわかった。 2つ目は,特別活動で社会的資質を育成するための教育課程と教育方法について海外の事例及び国内の事例をもとに検討を深められたことである。検討の結果,フランスや台湾での実践をもとにした社会的資質の育成方法の多様化について示唆が得られた。また,神奈川県川崎市の公立中学校の事例から,人権教育を基盤として社会的資質の育成を図る教育課程についての示唆が得られた。 本研究の意義は,次期学習指導要領で教科横断的,汎用的な資質・能力の育成が目指されている中で,特別活動の役割を明示できたことである。特に,フランスや台湾など海外の教育との比較において日本の特別活動の特徴と意義を示していくことに重要性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の進捗状況をおおむね順調とした理由は3つある。それそは,研究者への研究成果の提供,教育実践家との連携の強化,海外の教育状況との比較による本研究の位置の明確化である。 1つ目の研究者への研究成果の提供については,日本特別活動学会で2年連続での発表,教育実践学会で2年連続での査読論文としての掲載の決定,東京学芸大学総合教育科学系紀要への掲載などである。研究成果の一部は,CiNiiからインターネットでダウンロードできるようになっている。これらで,OECDのコンピテンシーを基盤とした次世代の日本の教育にとり,態度・価値の育成の側面から,特別活動の重要性がますます増していることを示した。 2つ目の教育実践家との連携の強化については,東京都小金井市の小学校の校長,主幹教諭,神奈川県川崎市の中学校の校長,教諭,石川県珠洲市の中等教育学校の校長,副校長等と,複数回にわたる継続的な意見交換ができている。このことは,今後の本研究課題の推進への大きな推進力ともなっている。 3つ目は,本年度,台湾の嘉義市にある小学校と中学校を視察することができ,特別活動に類似する活動を観察することができた。台湾では,日本以上に教師のリーダーシップが発揮された生徒指導型の学級活動の内容が実施されていた。その一方で,学級会型の学級活動やキャリア教育型の学級活動については,日本の方が相対的に充実していることもわかった。また,台湾ではスポーツにかかわる学校行事も充実していた。さらに,日本の特別活動の勤労生産・奉仕的行事の「奉仕」の部分にも相当する活動が,台湾の場合国際情勢の影響を受け,学級単位で「軍事教練」として実施されていた。「軍事教練」については日本にはない台湾の独自性である。 このような3つの理由から,指導内容と指導方法を開発するプログラムの4年計画の2年目の成果としてはおおむね順調であると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年4月からは東京都小金井市立小学校にご協力いただき,小金井市の特別活動研究会等と連携して,主に学級活動で社会的資質を育成する指導プログラムを開発する予定である。 指導内容については,学級活動,ホームルーム活動,児童会活動,生徒会活動,クラブ活動,学校行事の中から,特別活動の中核的な時間である学級活動に絞ることとした。学級活動は義務教育段階で年間35時間実施されるものであり,この活動が他の活動の基礎を形成しているためである。学級活動の中で,社会的資質の主要要素である「人間関係形成」「社会参画」そしてそれらを基とした「自己実現」という資質・能力の視点をどのようにしてプログラムに組み込むことが最適であるかを,教育実践家とともに検討する。その際,児童生徒が「自己実現」を意識し,自己と他者との関係の中から「人間関係形成」について学べ,自己と集団との関係の中から「社会参画」について学べる指導内容とする予定である。より具体的には,学級活動を(1)学級会,(2)生徒指導,(3)キャリア教育と区分し,学級会での話合い活動のプログラムを開発したい。つまり,「人間関係・社会参画・自己実現を内包した指導内容モデル」の完成を目指す。 指導方法は,主体的な学び,対話的な学び,深い学びといった学習指導形態として,主体性重視型指導,対話重視型指導,深化重視型指導という3つの方法をもとにした組み合わせを考案していきたい。具体的には,学級会での話合い活動で,児童生徒が主体的に問題を発見・確認できる主体性重視型指導から始まり,解決方法の話し合いと合意形成による対話重視型指導を展開し,決めたことを振り返る際に深化重視型指導をおこなう指導方法モデルを考えている。これらを「主体・対話・深化指導モデル」として,精緻化していく作業を行う。 まとめると新規の指導内容と新規の指導方法を組み合わせたプログラム開発を実施する。
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Causes of Carryover |
4年計画の2年目が終了した段階であり,海外調査を当初は3名で実施する予定であったが,人数を絞って調査して情報を共有することとした。海外調査については,台湾の小学校と中学校で実地観察,校長インタビュー,教員養成大学の副教授へのインタビューを実施した。その際,事前に研究分担者の安井一郎教授,鈴木樹教授から,質問項目と参観の観点を受け取り,必要な情報をすべて林が収集した。これは,データ収集よりもその活用が重要であり,収集したデータの分析等に時間を割くことが研究推進のためには効率的であると判断したことなどが主たる理由である。 その他,研究の1年目に購入した消耗品のうち,文具等の再利用可能なものについては再利用して本年度の使用金額を抑えた。また,国内調査のための出張等についても可能な限りコストを抑えて実施している。そのため,3年目の研究を推進するために必要な,次年度使用額を増加させることに成功した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度に実施する指導内容と指導方法についての開発研究については,東京都公立小学校などを対象として,授業観察,ビデオによる分析,短縮版民俗誌的インタビュー(エスノグラフィー),質問紙調査,個人面接(非形式的面接),フォーカスグループ(グループインタビュー)などによって指導内容と指導方法の効果測定をしたい。 そして,指導内容と指導方法について人権教育の観点から再構造化を図る。指導方法については,これまでの個別指導,グループ別指導,繰り返し指導,学習内容の習熟の程度に応じた指導,児童生徒の興味・関心等に応じた課題学習の指導,補充的な学習や発展的な学習の指導,教師間の協力的な指導なども視野に入れて,適切にモデル化する。平成30年度は英語版の指導内容と指導方法を作成して,インターネット等を活用して全世界を対象とした普及啓発の活動を行いたい。そのための国内調査や学会発表等も,実施する計画である。
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