2015 Fiscal Year Research-status Report
読解力育成を目的とした教材の足場づくりの研究:語彙分析から
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15K04514
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
鈴木 広子 東海大学, 教育研究所, 教授 (50191789)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤枝 美穂 京都医療科学大学, 医療科学部, 教授 (20328173)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | リーディング / 第二言語習得 / 検定教科書 / 語彙分析 / 足場づくり / CLIL |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、英語の読解力育成を目的とした教材にはどのような足場づくりが必要かを明らかにし、学習者が「読む」過程を経験するための教材を開発・評価することが目的である。研究課題は、リーディング教材の分析による難易度の可視化、教育実践を通した学習者英語の特徴および変化の分析、国内外の英語教育の資料収集および授業視察の3点である。今年度は、教科書(高校英語)のリーディング教材としての難易度の分析と海外の英語教育およびCLIL教育の授業視察と資料収集を行った。 リーディング教材の分析対象である英文が学習者に読解過程を経験させるかを明らかにすることを目的として、ケース・スタディによる定性的分析だけでなく、対象教材の英文の使用語彙について定量的分析を行った。教科書の使用語彙の分析結果から生徒にとって本文中の未知語の割合を算出して全体の傾向を把握して、読解過程の可視化を試みた。その結果、検定教科書の英文を日本語を介さず理解し、その主旨や意図、さらには内容に関する判断・評価のできる深い理解をするには、教科書に設定されている質問やタスクに加えて適切な足場づくりが必要であることが示唆された。 また、2015年9月初旬にフィンランドのユバスキュラ、2016年3月初旬にウィーンとブダペストの初等中等教育の視察に行った。ユバスキュラでは通常の英語とCLILの授業を、ウィーンとブダペストではバイリンガル・プログラムの実施校として市から助成金を得ている学校の通常の英語とCLILの授業を見学した。どの学校を見学に行っても印象的だったのは、生徒の主体的な学びである。自分の背景知識を活かして発言する、教科書のタスクに個々人あるいは生徒同士で取り組む、といった風景が多く、教科書の設計・構成が重要であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文部科学省検定教科書の分析について、当初の計画では、Communication English I, II,IIIの教科書、初級、中上級レベルから11 社を分析対象とすることになっていたが、6社の英文の語彙分析およびその英文読解のための教科書内のタスク分析を行った結果、教科書の英文の総語数-リーディングの英文量、教科書内の使用語彙の大きさ(学習指導要領では、中学の語彙数は1,800語、高校の新出語彙は1,200語と定められている)、タスクの量と難易度(認知負荷のレベル)を分析した結果、教科書間に顕著な違いが見られなかった。そこで、教員が設計したプロジェクト型授業用の教材と生徒のワークシートや作品に書かれている英語のデータを収集することができた1社の教材に分析対象を絞り、リーディング教材の英語から生徒が書いた英語まで一貫した分析を行った。 分析の結果、単純にテキストに出現する未知語の割合からみると、生徒は英語を媒介して、日本語を介さず読むことができないと推測された。また、本文の内容理解のための質問・タスクは、ほぼ本文の表現を抜き出せば解答になる形式であった。したがって、語彙分析では本文の使用語彙を再利用する機会になっていることが示されたが、このようなインタラクションでは、本文中の個々の情報を確認するという浅い理解はできても、リーディング本来の目的である、要点の把握、書き手の意図の解釈、読み手の思考を促すような深い理解ができないことが明らかになった。成果については、国内外の学会で口頭発表し、また、論文を投稿中である。 授業視察については、フィンランドのユバスキュラ市の授業観察メモだけでなく、教育課程、ユバスキュラ大学の教育学部と応用言語学研究センターの教授とのインタビュー、収集資料の分析を合わせて、視察報告を代表者の所属機関が発行する研究資料集にまとめた。
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Strategy for Future Research Activity |
教科書分析およびリーディング力を促進する活動と教材の開発、そして、開発モデルの公開が2016年度以降の課題である。高校英語の検定教科書の語彙分析結果をふまえ、プロジェクト学習型の学びが生起することを目的として設計した教材、とくにレッスンの発展学習として作成したリーディング教材とワークシートを対象に使用した語彙の分析を行う。パイロット・スタディーとして1レッスンを選択して分析したところ、文脈を基盤とした関連性のある語彙グループが構成された。この点は、リーディング過程において、未知語の理解がそのような語彙グループの概念によって助けられるというEmbeded Literacyの概念を示している。今後は、全レッスンの発展学習の教材と生徒が書き込んだ英語の分析を通して、Embedded Literacy の有効性を実証的に明らかにしていきたい。 また、大学の基礎科目である「英語リーディング」の授業で使用される教材と活動についても分析を行い、高校英語の分析と同様に、大学生が使用する英語の変化を分析することを通して、リーディング力を育成する教材と活動の設計について考察する。高校、大学レベルの研究成果はそれぞれ国内の学会で口頭発表を予定している。 ウィーン、ブダペストの視察については、現地で交流した校長および教諭とコミュニケーションをとり、現場の教育の特徴と課題を明らかにしていく。その成果を大学紀要あるいは学会の研究ノートへ投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
中間報告として国際学会に参加するために、代表者と分担者2名旅費を計上していたが、分担者は他の研究の国際学会発表のために、別の研究費の旅費を使用したために、海外出張費は1名分の支出となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
学習者のプロトコルの分析を定量的な方法で再分析するために、必要なPCとソフトの購入、また代表者と分担者の打合せ・共同作業のための国内旅費、資料整理・分析補助をする学生アルバイトの謝金に使用する予定である。
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Research Products
(7 results)