2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K04516
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
下田 好行 東洋大学, 文学部, 教授 (70196559)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | シュタイナー教育 / ホリスティック / 感謝 / 愛情 / 義務 / 倫理的固体主義 / 道徳的想像力 / 直観と表象 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の道徳教育が徳目の注入になっている。徳目の羅列は「部分」にこだわり、人間をまるごと「全体」として見ていない。つまり、「部分」と「全体」をつなぐ視点に欠けている。部分と全体をつなぐ視点は「ホリスティック」と呼ばれる。教育ではホリスティック教育となる。この教育の一つにシュタイナー教育がある。そこで、シュタイナーの道徳教育の特質を整理することにした。シュタイナーの道徳教育は「道徳の時間」を設けず、エポック授業や専科の学習を通して道徳を育成する。徳目の注入という「部分」ではなく、学校の教育活動「全体」で人間の自律と意志の形成を行う。これがシュタイナーの道徳教育の特徴となる。次に、七年を周期とした発達段階の言説を基に「感謝―愛情―義務」の三つの基本的な徳を育成することが特徴となる。この三つの徳の背景には「行為に対する普遍的な人間愛」というシュタイナーの哲学が根底にある。「感謝」によって、人間は欲望からくるエゴイズムを解放することができるとしている。さらに、普遍的な道徳を想定せず、道徳性は人それぞれによって違う「倫理的個体主義」もシュタイナーの道徳教育の特徴となる。 次に、シュタイナーの道徳教育の根源的発想をシュタイナーの哲学から考察した。行為に愛を感じるという意識は、どのような認識のメカニズムから生まれるのだろうか。シュタイナーは、「観察―知覚内容―直観・概念―道徳的想像・表象―思考―経験」という認識のあり方を唱えた。この認識のあり方にそって、シュタイナーは「道徳的想像力」を想定した。シュタイナーの「道徳的想像力」とは「直観」で捉えた「概念」を「表象」にまで押しあげるものであった。このようにシュタイナーの道徳教育の発想は、シュタイナーの認識のあり方から生まれたものであり、直観に働きかける認識を重視した教育であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ホリスティックな視点に立った道徳教育の研究として、シュタイナーの道徳教育の特質については整理できた。人間形成においてどうしてホリスティックな視点が重要なのか。それをシュタイナーの考える人間の認識過程のあり方から明らかになった。それは人間の思考の奥にある直観に響き、それを表象にまで高めるからである。この直観の領域に響く道徳教育をしてこそ、人間を根底から動かす道徳教育が可能となる。うわべだけの知識による道徳教育ではなく、生きて働く価値となる道徳教育を志向することができるのである。今回、シュタイナーの道徳教育で、ホリスティックの縦のつながりの視点を追究できたことは研究の成果である。 この研究成果は、下田好行「全体的な視点に立った道徳の授業開発」『関東教育学会第63回大会発表要旨集録』2015.11.8、青山学院大学、pp.17-18.、 下田好行「R.シュタイナーの道徳教育の本質ー「道徳的想像力」とメルヘンとの関係を中心にー」『東洋大学文学部紀要』第69集教育学科編XLI2015年度、東洋大学、2016、pp.71-79、 に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
シュタイナー教育では、人間の思考と直観をつなぐ道徳教育のあり方を捉えることができた。これは人間の「思考」とその奥にある「直観」を結ぶ、ホリスティックの「縦のつながり」である。この視点に立つ場合、内面に響く道徳教育の教材をどのように作成することができるのか、その観点を明確にすることが今後の課題となる。このためにシュタイナー学校の道徳教育に関する教材を収集する必要がある。そこで、ドイツのシュタイナー学校に資料収集と授業参観に行く。 また、筆者はホリスティックにはもう一つの視点もあると考える。それは横の広がりの視点である。「部分」にこだわると「全体」が見えなくなる。全体の中の部分を見通せば、現在の自己の位置づけ、あり方が明確になってくる。このためには直面する物事から一歩引いて、高い視点から物事を捉え直す必要かある。人間形成や道徳教育の教材を作成する場合においても、この横に広がる、ホリスティックな視点を導入することが今後必要となる。具体的には、人間が社会に参画し地球に住む人間全体の意識を高めていくことを目的とした道徳教育である。地球に住む人間お意識の高まりの軌跡を歴史的に地球的に研究し、それを教材化することが今後の課題となる。このために持続発展教育(ESD)やシチズンシップ教育の教材を日本に留まらず、海外においても資料収集する必要がある。ドイツの教育施設に行き、資料収集や実地調査に行う必要がある。 さらに、ホリスティックな視点にたつ人間形成として、他民族が共生する社会において、言葉や文化、マイノリティと貧困を超えて、ホリスティックにつながる共生社会の教育制度と教育施設のありようをドイツ、ベルリンにある幼児教育施設をフィールドとして調査に行く。 こうしてホリスティックな視点に立つ道徳教育、人間形成のありようを今後は追究していく。
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Causes of Carryover |
ドイツのシュタイナー学校に研究協力者と調査に入る予定であった。しかし、研究協力者との予定が合わず、昨年度は予算計上したのにも関わらず実現できなかった。研究協力者はドイツのシュタイナー学校研究の第一人者で、普段シュタイナー学校は調査や授業参観を受け入れていない。しかし、研究協力者と同行すると特別な配慮で、授業参観や面接調査に応じてくれる。そこで、昨年度実現しなかった分を今年度で実現し、シュタイナー学校やドイツの教育施設での資料収集と面接調査を行いたいと考える。ホリスティックな視点では、縦の深まりとともに横のほろ狩りへの視点、多民族社会における共生というホリスティックな視点も加味して、ドイツでの調査を行いたいと考える。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ドイツのシュタイナー学校と教育施設への調査を9月に行う。研究協力者と同行し調査を行うために、2人分の渡航費、宿泊費等を計上した。調査を行う場所はベルリンを中心に行いたいと考えている。
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Research Products
(9 results)