2015 Fiscal Year Research-status Report
原子数制御されたサブナノクラスターとセリア・ジルコニア担体との相互作用と触媒活性
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15K04594
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Research Institution | Toyota Technological Institute |
Principal Investigator |
安松 久登 豊田工業大学, 工学部, 教授 (20281660)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 排ガス触媒 / CO酸化 / 白金クラスター / セリア / ジルコニア / 質量分析 / クラスター衝撃 / ターンオーバー頻度 |
Outline of Annual Research Achievements |
自動車排ガス触媒の飛躍的な性能向上と貴金属使用量の低減を目指して、セリアやジルコニアに担持された金属微粒子触媒による一酸化炭素(CO)の酸化反応を調べた。既存触媒の大問題の一つに、エンジン動作の変化に伴う排ガス組成変動により、金属微粒子の分解と再凝集が繰り返されて触媒活性が低下する現象が挙げられる。そこで、構成原子数(サイズ)が正確に定まった白金クラスターをセリアやジルコニアに担持することで、酸化雰囲気で分解された金属微粒子断片を模したモデル触媒を合成し、その触媒特性を計測した。参照試料として、シリコン基板担体に担持された単一サイズ白金クラスターを採用した。 触媒試料の調製:研究代表者が開発したマグネトロンスパッタ法により超高純度の白金クラスターイオンを気相合成し、質量分析法でそのサイズを正確に定めた。クラスターイオンの基板への衝突エネルギーを白金原子あたり1 eVに精密制御し、担体基板に衝突(クラスター衝撃)させて担持した。担体上でのクラスターの重畳を避けるため、クラスターの担持数密度は1平方マイクロメートルあたり5万個以下に制御した。 触媒活性計測:CO酸化反応の原料であるO2とCOを触媒に連続的に供給し、触媒温度を毎秒0.2 Kで昇温しながら、触媒作用で生成されたCO2を質量分析により定量することで、定常状態での触媒能力、すなわち、一個の白金原子が一秒間に酸化処理できるCO分子数の絶対値(ターンオーバー頻度)を求めた。さらに、排ガス組成変動に対する応答を調べるために、CO分圧を変化させた直後のターンオーバー頻度の過渡計測も行った。CO酸化の反応速度微分方程式を数値積分して、反応速度の数値解を求めるためのプログラムコードを開発した。これを用いて実験結果を数値シミュレーション解析することにより、素反応過程の反応速度定数を決定した。さらに、触媒の高温耐久試験と再活性化も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本実験研究の成否の要となる触媒計測装置の改良を行い、触媒生成物の検出感度と計測の再現性を飛躍的に高めた。その結果、背景雑音を正確に除去し、白金重量が数十ナノグラムという極微量の触媒試料に対して、ターンオーバー頻度の絶対値を計測することに成功した。 これを用いて、まず、参照試料であるシリコン担体に担持された単一サイズ白金クラスター(サイズは10、30、60、71)を調べた。O2とCOの連続供給による定常状態でのCO酸化ターンオーバー頻度の絶対値を、触媒温度や原料分圧の関数として決定した。さらに、ターンオーバー頻度の過渡計測にも成功した。 数値シミュレーションでは、単結晶白金表面でのCO酸化反応に対して提唱されているLangmuir-Hinshelwood機構に基づいて、4つの素反応過程、すなわち、COの触媒への吸脱着、酸素の解離吸着、吸着COと解離吸着酸素の触媒上での分子衝突によるCO2生成、の連立レイト方程式を数値積分するプログラムコードを作成した。原則として、白金(110)単結晶表面の諸パラメータを採用した。その結果、シリコン担体に担持された単一サイズ白金クラスター30量体の酸素吸着確率が、白金(110)表面の1.5倍もあることがわかった。この白金(110)表面はCO酸化効率が高いと認識されているが、シリコン担体に担持された白金クラスターは、これよりもさらに高い活性を持つ。 セリア担体に担持された白金クラスターに関する研究も開始した。サイズを30に固定し、セリア層の厚さに対するCO酸化触媒活性の依存性とその活性が失われる触媒温度を計測した。さらに、加熱で失われた触媒活性を再生する方法も見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、シリコン担体に担持された単一サイズ白金クラスターの触媒活性のサイズ依存性計測を完了させ、学会発表や論文で成果を公表する。次に、セリアやジルコニア担体に担持された単一サイズ白金クラスターのCO酸化反応を中心に研究する。定常状態や過渡状態のCO酸化ターンオーバー頻度、高温耐久性能、再活性化条件のクラスターサイズ依存性を明らかにする。また、失活前と再活性化後、さらに、これを再失活させた後に再々活性化した触媒のCO酸化レイトを比較することにより、活性化後のクラスターサイズや、失活・再活性化機構を推定する。セリア担体とジルコニア担体との結果を比較することにより、触媒活性や失活・再活性化に対する担体の効果を解明する。一連の実験を銅クラスターへ展開し、白金クラスターの結果と比較することで、触媒の貴金属代替に挑む。走査型トンネル顕微鏡や赤外分光を用いたクラスターの担持形態や、そこに吸着した分子の状態を調べる研究にも着手する。
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Causes of Carryover |
白金クラスターの原料である白金円板を新規に購入する予定であった。この円板表面をスパッタリングにより削って白金原子を真空中に飛び出させ、これを凝縮させることで、白金クラスターを形成する。この円板の中で実際に使用できる白金の割合は約30%程度しかない。そこで、これまで別の研究で白金クラスターを生成するために使える部分は使い切った白金ターゲットに対して、不足する白金を補充し、新たに所定の白金円板として成型した。その結果、新規に白金円板を購入するよりも格段に安価であった。このような白金の付け足しと精製・成形加工の費用を本研究費で支出することに問題無いことは、事前に当大学事務局担当者に確認した。なお、本研究では付け足した白金部分のみしか使用できない。さらに、計測装置の高感度化に伴い、反応原料である酸素と一酸化炭素の同位体ガスの使用量を抑えることができたことも、次年度使用額が発生したことの理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
数値シミュレーションの精度向上と計算時間短縮のため、計算能力と主記憶装置へのデータ書き込み・読み出し速度の速い計算機を導入する。本計算機には、計算結果の保護機構も備える。触媒反応計測装置、走査型トンネル顕微鏡装置、赤外分光装置への試料導入と試料位置調整用の超高真空用高精度マニュピレータを導入し、測定精度・再現性の向上や、試料搬送の時間短縮を図る。反応後の試料の状態を解明するために、X線分光などの依頼分析も検討する。
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Remarks |
招待セミナー:Bing Zhang教授 (Wuhan Institute of Physics and Mathematics), Thorsten Bernhardt教授 (Universitaet Ulm), Manfred Kappes 教授(Karlsruher Institut fuer Technologie) 依頼講演:春田正毅 教授(首都大学東京 都市環境科学研究科 分子応用化学域)
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