2015 Fiscal Year Research-status Report
ナノ構造伝導体のリアル・スケール・シミュレーション手法の開拓と新機能の創出
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15K04619
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
林 正彦 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (60301040)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉岡 英生 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (40252225)
田沼 慶忠 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90360213)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | グラフェン / ナノ構造 / 電気伝導 / 超伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)tight-bindingモデルで記述されるナノ構造伝導体における電気伝導度を数値的に計算するformalismとして,特異値分解を用いた計算手法を新規に開発して,一応計算結果を得るところまでは到達した。その成果については,現在論文投稿中である。一方,計算を進める中で,ある特殊な状況下(具体的には系を記述する転送行列の固有値に縮退がある場合)で,現在の手法では正しい答えが得られないことが分かった。この点についてさらに検討し,改善方法について,ほぼ見通しが立った。 (2)グラフェンに引っ張り歪みを導入した場合の電気伝導度の変化について,定量的計算を行った。グラフェンは架橋構造を仮定し,等方弾性体のモデルを用いて,内部での歪みを計算した。その結果を用いて,tight-bindingモデルのハミルトニアンを設定し,上述の手法を用いて,電気伝導度の計算を行った。結果は,未だ十分収束していないが,電気伝導度のドーピング依存性には一定の変化が生じることを確認した。 (3)グラフェン型トポロジカル絶縁体および超伝導体とのハイブリッド系について,エッジ状態の準粒子の分散関係に対する近接効果の影響について明らかにした。また,アンドレーエフ散乱の反射率についても計算を行い,電気伝導度の振る舞いについて明らかにした。これらの結果は,tight-bindingモデルを用いて超伝導体を含むナノ構造の電気伝導度を計算するための手法開発において知見を与えるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた研究の一つは,電気伝導度の数値計算のためのformalismの完成と,その歪み導入グラフェンの電気伝導度計算への応用であった。これらの課題に関しては,一定の達成レベルにあると考えている。研究の過程で,1つの不具合(「研究実績の概要」参照)が見つかったこと自体は,大きな進歩であると考えている。この点の改善に関しても見通しが立っているので,いくらかの時間はかかるものの,改善は可能であると考えている。その他の課題として,スピン自由度を持つ系への,現在のformalismの拡張も予定していたが,これについてはまだ具体的な進歩に至っていない。しかし,拡張自体は単純であるため,それほどの遅延はないと考えられる。一方,超伝導などとのハイブリッド系への拡張に関しては,すでにいくつかの成果を公表しており,概ね予定通り進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
ナノ構造体における電気伝導度計算のためのformalismの整備を継続して行う。具体的には, (1)[スピンを持たない系に対する特異値分解を用いた計算手法の完成]これまでに明らかになった,問題点を克服すべく,最も単純なスピンを持たない場合について解析を進める。そして,数学的な面でのformalismの完成を目指す。 (2)[スピンを含む系への拡張]上の成果に基づき,スピンを含む場合への拡張を行う。 (3)[実際の系への応用と新奇物理現象の予言]歪み導入グラフェンやトポロジカル絶縁体に対して,本formalismを適用して,新奇現象の発見を目指す。また,実験グループとも共同でその検証を行う。 (4)[超伝導体を含む系への拡張]まずは,超伝導ギャップを与えた問題について,電気伝導度の計算が可能となることを目指す。
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Causes of Carryover |
本年度は,基本的な理論整備に時間を要した。従って,研究成果の公開および共同研究のために旅費を使用することが少なかった。また,負荷の重い計算を行う必要性があまりなかったので,計算機環境についても既存のものを用いて対応することが出来た。このため,物品費,旅費を中心として未使用が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
計算手法が整備されてきたので,次年度以降は研究分担者や連携研究者との議論の必要性が増えてくると考えられる。前年度の繰り越しは,このために使用する予定である。また,成果公開のための国際会議参加も積極的に行う予定であり,そのための旅費としても使用する。さらに,並列計算の実装のための計算機環境の整備も必要となるが,これに関してはアルゴリズムの整理やソフトウェアの選定に時間を要するので,今年度から次年度にかけて,順次使用を増やしていく予定である。
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Research Products
(4 results)