2017 Fiscal Year Research-status Report
脱濡れ現象による自己組織化を用いた機能性ナノ薄膜材料の創製
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15K04620
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
神子 公男 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (80334366)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ナノ材料 / 自己組織化 / 結晶成長 / マイクロ・ナノデバイス / 脱濡れ / 微細加工 |
Outline of Annual Research Achievements |
スパッタリング法により脱濡れ(熱凝集)現象を用いた自己組織化ナノ構造薄膜を作製した。高機能ナノ材料を作製するためには、自己組織化によるナノ構造の緻密な制御が不可欠であり、目的とするナノ構造体が高均一に表面に形成される作製技術が必要とされる。そのため、用いる薄膜系(システム)の自己組織化に至るメカニズムを詳細に検討する必要がある。平成29年度においては、シード層と機能層からなる多層構造薄膜の熱処理(脱濡れ)による自己組織化のメカニズムを詳細に解析し、作製プロセスにフィードバックさせ、良質なナノ構造薄膜の作製を行い、ナノ薄膜材料の高機能化を図った。 具体例として、MgO(001)等の単結晶基板やSi酸化基板を用い、Ti、Feをシード層として、その上にAg、Auを機能層とした二層薄膜を熱処理による脱濡れにより自己組織化させ多様なナノ構造薄膜を発現させ、その微細構造を詳細に解析し、自己組織化のメカニズムに関して検討した。その結果、用いる薄膜系(システム)により、脱濡れのメカニズムの主要因は異なり、表面エネルギーの利得、熱応力の差、熱拡散の促進、酸素親和性や界面での化合物の形成による組成の変化など、様々な要因やそれらが絡んだ複合要因によるものであると判明した。これにより、高機能化のための高品質な自己組織化を再現性良く生み出すには、作製条件の厳選化が不可欠であることが分かった。 多層化による高機能化の具体例の一つとして、L10型Pd/Fe多薄膜の脱濡れを用いた自己組織化ナノドットの形成による磁気光学素子の検討を行った。実際には、Fe層をシード層として活用し、Au層を蒸着し、熱処理を施すことで脱濡れを施し、その上にPd/Fe多層膜磁性層を積層させ、再度熱処理を施すことで、多種多様なPd/Fe多薄膜ナノ・ドットを作製したが、今のところ低次元化による磁気光学効果の増加は得られていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、特異な形状や良質な結晶構造を有することで、光学特性や磁気特性といった機能性の向上が期待されるナノ材料を、脱濡れ(熱凝集)現象を用いた自己組織化により作製する。本研究において、目的とする機能層と基板との間に、シード層と呼ばれる脱濡れ現象を促進する薄膜層を挿入することで自己組織化を促進させ、余分な蝕刻工程等を必要としない、ボトムアップ型のナノ材料創製技術の確立を主眼として研究を行っている。 研究期間内の具体的な目標は、(1)シード層促進型の脱濡れ現象を用いて多彩で良質なナノ構造薄膜を作製すること、(2)その形状や密度等の構造制御を行い、均一性を向上させること、(3)結晶成長メカニのズムを詳細に検討することでナノ材料創製技術を確立すること、(4)本手法を応用して高機能ナノ薄膜材料を作製することである。 既に今までに、多岐にわたる実験パラメータを変化させることで、多彩なナノ構造薄膜が得られている。また、脱濡れによる自己組織化ナノ構造形成のメカニズムに関して、これまでより多くの情報が得られたが、実用化に向け、本手法のメカニズムの詳細については再度検討する必要性が生じている。このため、より緻密なナノ構造制御や均一性の向上までは至っておらず、作製したナノ構造薄膜の高機能化に関しても未だ十分な成果が得られていない。 平成29年度も海外共同研究者である韓国・光云大学の河在根教授のグループとともに共同研究を行ってきたが、昨年度に引き続き光云大学にある試料作製(スパッタリング)装置が度々不具合を起こし、長期にわたって作動出来ない状態であったため、試料作製を十分に行えなかった。そのため、メカニズムの詳細な検討や、ナノ構造薄膜の高品質化や高機能化に向けた研究が十分に行うことが出来なかった。 以上、研究目標と照らし合わせ、本年度の本研究の進捗状況はやや遅れ気味であると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
作製条件の選択が多岐にわたるため、引き続き、脱濡れを用いて自己組織化ナノ構造薄膜の作製とその構造制御、及びその形成メカニズムの詳細について更なる検討を行い、作製プロセスにフィードバックさせ、ナノ構造薄膜の品質の向上と高機能化を図る。今後は、特異な形状を有する機能性ナノ材料を、より高品質に、且つ均一的に基板上に配置できるような自己組織化を用いたボトムアップ型の作製プロセスの確立を目指す。 具体例の一つとして、本手法を用いて作製したナノ磁性多層膜の高機能化を図る。今までに、L10型Pd/Fe磁性多薄膜の脱濡れを用いた自己組織化に成功しているが、十分な磁気光学効果が得られていない。L10型Pd/Fe多層膜は垂直磁気異方性を有するため、低次元(ナノドット)化により大きな磁気光学特性を示すと期待されている。従って、磁気光学素子への応用を目指し、自己組織化L10型Pd/Feナノ多層膜の磁気光学特性を向上させるため、作製条件の最適化を図り、薄膜の表面・界面構造を緻密に制御することで高機能化を図ることを目標として研究を進めて行く。 もう一つの具体例として、通常の薄膜作製工程において、開口径が数μmの既存のメッシュを単結晶基板上部に置き、薄膜を蒸着させて径が数μm以下になるような膜を基板上に成形し、脱濡れを行うことで基板の対称性を反映した新奇なナノ構造の創製を目指す。既に、この複合プロセスを用いたナノ構造物の作製を行っているが、表面積がμmオーダーの膜の脱濡れ過程は制御が困難で、意図した形状を有する良質のナノ構造を得ることに至っていない。このような脱濡れ過程のメカニズムを更に詳細に解析し、意図する良質のナノ構造を得るための作製条件の最適化を図る。この複合プロセスにより作製した良質のナノ構造を有する自己組織化膜の光学特性について、分光光度計を用いて測定し、光学素子としての高機能化を図る。
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Causes of Carryover |
(理由) 物品費に関して、当初の予定では金属の高純度ターゲット(20万円程度)や単結晶基板(30万円程度)を購入する予定であったが、本年度も試料作製(スパッタリング)装置の故障が相次ぎ、当初計画よりも試料作製ができなかったため、ターゲットや基板の消却が進まなかった。平成29年度は原著の学術論文を複数投したが、予想よりも英文校閲料や投稿料等が少なかったことで支出が抑えられた。一方で、国際学会への出張費や会議参加費が予定よりも高額になってしまったこと、また、薄膜の構造をより詳細に解析する必要に迫られ、オージェ分光法を用いた表面分析を外注したため、旅費やその他の支出が当初の予定よりも増えてしまったが、トータルで40万円程度の次年度繰越金が生じた。 (使用計画) 試料の微細構造を詳細に行うため、次年度においても必要に応じてオージェ分光法等の表面構造解析を外注することを検討している(10-15万円程度)。次年度も主に国内の会議に参加して研究発表する予定である。更に、本研究におけるメカニズムの解明のため、計算器シュミレーションの実施を検討している。次年度は、このシュミレーションの研究打合せを行うために国内出張を予定している。これらの出張費や学会参加費として15万円程度の支出を想定している。次年度は論文投稿を行う予定であり、それにかかる校閲料と投稿料の費用として10万円程度の支出を見積もっている。
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