2016 Fiscal Year Research-status Report
両極伝導性水素吸蔵体を利用した電荷・スピンの相反型蓄積機能
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15K04648
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
酒井 政道 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40192588)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長谷川 繁彦 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (50189528)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | スピントロニクス / スピン軌道相互作用 / 両極性伝導 / 水素吸蔵体YH2 / スピン流の自律モード / スピン蓄積 / 電荷蓄積 / 共鳴ホール効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
正孔と電子とがほぼ同等のキャリヤ特性を有するYH2やScH2などの両極性伝導体をチャネルとする微小ホール素子において、チャネル長の短縮化(2μm以下)が急務であった。平成28年度から、微細加工及び電子線描画リソグラフィー工程の拠点を「大阪大学ナノテクノロジー設備供用拠点」から、研究代表者所属の埼玉大学と同じ県内の「東洋大学バイオ・ナノエレクトロニクス研究センター」に移すことによって、実験回数をより多く確保することが可能となり、平成28年12月に、27年度目標のチャネル長2μmへの短縮化に至ることができた。 一方、ホール抵抗の定式化では28年度では顕著な進展があった。両極性伝導体へのスピン注入によって生じるアップスピンとダウンスピンの電気化学ポテンシャル分裂は当該微小ホール素子の動作原理の中核を担うが、27年度では、バイアス電流方向(x方向)のスピン分裂を考慮して、輸送係数を定式化し、それを用いて実験結果(チャネル長10μmのホール素子)を解析した。これに対して28年度では、ホール電場が発生する方向(y方向)のスピン分裂も考慮して計算を解析的に行うことによってホール抵抗の解析的表式を導出した。その結果、これまでに知られていなかった重要な知見(共鳴ホール効果)を見い出した。これは、スピン流の自律モードの発生条件が、ホール効果測定における電流境界条件(y方向の電流密度がゼロ)に一致することによって、ホール電場が共鳴的に増大するというメカニズムである。また、この共鳴効果は正孔と電子とが同等のキャリヤ特性を有する両極性伝導体に特有の現象であることも理論的に判明した。チャネル長10μmのホール素子にTbFeCo電極からスピン注入した際に観測されるホール抵抗の増大現象(既に27年度中に観測)は、この共鳴効果を見ている可能性が高いと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の研究計画調書によれば、第2年目(28年度)の目標は、電荷蓄積とスピン蓄積の両方が発生するモードを観測することを目的に、微小ホール素子におけるソース及びドレイン電極の磁化配置を互いに反平行にすることである。現状では、その反平行配置が完成していない。以下に理由・経緯を説明する。 27年11月に日本学術振興会に提出した前倒し支払い請求書に記述したように、本研究の微小ホール素子製作は、27年度までは、文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム「大阪大学ナノテクノロジー設備供用拠点」を利用して実施してきたが、予算的問題を鑑み、28年度の8月以降は、研究代表者の所属する埼玉大学と同じ県内の東洋大学バイオ・ナノエレクトロニクス研究センターの設備を利用して、製作実験を再開して現在に至っている。フォトマスク製作や電子線描画を最初からやり直す必要があったものの、大阪大学での実験回数に比べて、より多くの実験を確保できるようになった結果、27年度の製作目標であったチャネル長約2μmのホール素子が安定に製作できている。しかしながら、電極に当初の目標材料であるTbFeCo(キューリー温度約200℃)を使用するところまで至っておらず、そのため、レーザー照射による磁化反転プロセスに着手できていない。これが当初の予定より遅れていると判定した理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度では、ホール電場が発生する方向(y方向)のスピン分裂も考慮して計算を解析的に行うことによって、正孔と電子とがほぼ同等のキャリヤ特性を有する両極性伝導体のホール抵抗は、スピン流の自律モードに共鳴することを理論的に予測した。この計算に基づけば、正孔濃度と電子濃度に数%以下の僅かな違いがある場合には、ホール抵抗が横方向スピン流に対する境界条件に大きく依存する。ホール電圧検出電極の磁化方向をキャリヤスピンの向きから相対的に傾けるとキャリヤスピンにスピントルクが発生する。それを通じて、y方向のスピン流の強さを制御しながら、ホール抵抗を測定できる実験系を構築できれば、我々の共鳴ホール効果モデルの妥当性を判定できる。また、当初からの目標であったソース及びドレイン電極の磁化を平行配置から反平行配置に転換することは、y方向のスピン流に大きな変化をもたらすため、共鳴の仕方も変化する可能性がある。したがって、今後は、微小ホール素子に接続されているソース・ドレイン電極を含む4つの磁性電極の磁化方向を相対的変化させるのが急務である。また、観測結果の意味を判定するには、正孔と電子のスピン分裂の符号が互いに異なる場合の輸送係数の理論計算も必要である。なぜならば、28年度の計算では、ソース及びドレイン電極の磁化が平行配置に対応して、正孔と電子のスピン分裂の符号が同一としているからである。したがって、29年度は、ホール効果の理論計算と微小ホール素子製作・観測を平行して研究を遂行する。
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Causes of Carryover |
初年度(27年度)に研究分担者に30万円の分担金を配分したが、結晶成長用の消耗品を交換せずに済んだ為、28年度に繰り越した。28年度にはその消耗品の交換が必要になったので、約30万円の分担金を使用することになった。一方、28年度にも当初の予定通り、結晶成長用の消耗品及び施設利用料金として計30万円の分担金を配分していため、現在、その分が残額となっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
主に次の4項目に対して予算執行する。 (1)微細加工及びリソグラフィー工程用の消耗品(研究代表者)、(2)結晶成長実験用の消耗品(研究分担者)、(3)成果発表として、学会旅費及び論文投稿料金(研究代表者)、(4)施設利用料金(研究代表者及び研究分担者)
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Research Products
(12 results)