2016 Fiscal Year Research-status Report
非ハーフメタルヘテロ構造が自発的にハーフメタルトンネル接合となる界面新物質の創成
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15K04670
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
西川 博昭 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (50309267)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩田 展幸 日本大学, 理工学部, 准教授 (20328686)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 界面電荷移動 / 還元 / 電子ドープ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、室温において巨大なトンネル磁気抵抗効果を示すハーフメタルトンネル接合の実現を念頭に、研究代表者らが初めて発見したLaTiO3(LTO)/LaFeO3(LFO)ヘテロ界面における電荷移動に伴う電子状態密度(DOS)変化を利用し、非ハーフメタルヘテロ構造が自発的にハーフメタルトンネル接合となる界面新物質の創成を目的としている。平成28年度はLTO/LFOヘテロ界面の電子状態および電荷移動の様子をX線光電子分光(XPS)によって調べることに注力して研究を行った。 原子レベルで平坦な表面をもつSrTiO3(100)単結晶基板上に、パルスレーザ堆積(PLD)法を用いてLTO/LFO/LTOサンドイッチ構造を作製した。そのとき、上下のLTO層の膜厚は2ユニットセルに固定し、中間のLFO層の膜厚を2ユニットセルから18ユニットセルまで変化させた際の、Feの2p電子のエネルギーをXPSで測定した。その結果、LFO層の膜厚が薄くなるに従ってFe3+のシグナルが減少するとともにFe2+のシグナルが増加するという顕著な結果を得た。このことは、LTO/LFO/LTOサンドイッチ構造において、ヘテロ界面近傍のLTOに接しているLFOの割合が増加するにつれてFeがFe3+からFe2+に変化する、すなわちLFO中のFe3+に電子がドープされて還元されていることを示している。この結果がLTOからLFOへの電荷移動であることを確認する目的で、LTOをLaAlO3(LAO)に置換したLAO/LFO/LAOサンドイッチ構造にて同様の実験を行ったところ、この場合はLFO中のFe3+イオンは維持されたまま、Fe2+イオンが現れることはなかった。この結果より、LTO/LFOヘテロ界面におけるLTOからLFOへの電荷移動を明確に観測したことがわかる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において重要な実験として、研究代表者の所属する近畿大学生物理工学部(和歌山県紀の川市)で作製した薄膜試料を、大気に暴露することなく研究分担者が所属する日本大学理工学部(千葉県船橋市)に搬送し、XPSで試料のDOSなどを測定することが挙げられる。平成28年度においては、平成27年度に購入した可搬式試料交換機構を改造し、当初の予定であった超高真空を維持した搬送ではなく超高純度ヘリウム、超高純度窒素など不活性な超高純度ガスを充填させた状況で試料を搬送することを試みた。これにより、試料表面を大気に暴露することなく搬送することを定期的に実行できる設備が整い、多様な非ハーフメタルヘテロ界面の自発的なハーフメタルトンネル接合化を調べる実験に着手できる下地が整ったといえる。 この可搬式試料交換機構を用いて測定したLTO/LFO/LTOサンドイッチ構造におけるヘテロ界面の電子状態は、まさに本研究で調べるべき対象のLTOからLFOへの電荷移動であり、ヘテロ界面における電荷移動とそれに伴う界面新物質の創成を明確に示すことができたという点で、平成29年度に向けて非常に有益な結果を残すことができたと考えている。これは、本研究において平成27年度に導入した可搬式試料交換機構を順調に稼働できるようにしたことがポイントであるといえる。 平成28年度終盤に近畿大学所有のPLD成膜装置が故障し、新たな試料の作製が滞ってしまったが、これは平成29年度に十分挽回可能な程度の停滞であり、可搬式試料交換機能の順調な稼働による進捗を評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は本研究の最終年度であり、ヘテロ界面のDOS変化を研究分担者が所有するXPSで調べた結果と、ヘテロ界面の電気・磁気特性を研究代表者および研究代表者所属機関の所有する電気特性測定装置、磁気特性測定装置で調べた結果を比較し、ハーフメタルな界面新物質の創成を目指す。まずは強磁性金属となるヘテロ界面新物質の創成に注力し、得られた新物質とCoなどスピン分極率が既知である既存の強磁性金属とのトンネル接合を作製したうえで、その磁場中トンネル特性を測定する。得られた結果をJulliereの式に当てはめることで、創成したヘテロ界面強磁性金属のスピン分極率が計算できるので、その温度依存性を詳しく調べるとともに、室温で巨大なスピン分極率が得られるヘテロ界面の組み合わせを調べる。研究分担者の所有するXPSを用いて測定したDOSの結果とスピン分極率を比較した結果について総合的に考察し、ヘテロ界面の電子状態とスピン分極率の相関を明らかにするとともに、スピン分極率を増大させるためにヘテロ界面の電子状態が備えるべき特徴を理解することで、新たなハーフメタル界面新物質を創成するための指針を示したいと考えている。
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Research Products
(2 results)