2016 Fiscal Year Research-status Report
分子構造分析を目指したファイバーレーザー励起中赤外光によるリアルタイム分光
Project/Area Number |
15K04699
|
Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
鈴木 将之 愛知医科大学, 医学部, 准教授 (60622371)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | Ybファイバーレーザー / 中赤外光生成 / 光パラメトリック増幅 / 超高速分光 / アップコンバージョン分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、Ybファイバーレーザーを励起源とした高出力、広帯域中赤外光源の開発と中赤外光スペクトルをリアルタイムで計測できるアップコンバージョン分光システム開発を進め、蛋白質の構造解析を目指した分光研究へ展開することである。 加齢黄斑変性症は網膜細胞の変性に起因することが知られているが、それらの病態の機序については十分には解明されていない。ごく最近、加齢黄斑変性症の病態において、生体内に存在しないアミロイドβ(Amyloidβ:Aβ)が存在することが報告された。これはアミロイド前駆体蛋白質(Amyloid precursor protein: APP)の構造変化による可能性が指摘されているが、その発現は明確となっていない。そこでAPPとAβの吸収分光やポンププローブ分光を行い、その構造解析を通してAβ化の要因を明確化できれば病態の新たな治療法の手がかりとなる。 光を用いた分光法の利点は、試料を非破壊かつin vivo、リアルタイムで分析することができる点である。これにより同一試料における経治時的変化の追跡が可能となるため、例えば薬剤投与による長期変化を知ることができる。しかしこの中赤外域においては高感度の検出器と高性能の光源が存在しかったため、Aβ分光研究は大きく進んでいない。そこで周波数混合を利用して中赤外光と近赤外光のアップコンバージョンにより可視光に変換することで、リアルタイムで中赤外光スペクトル再構築することが可能と考えた。 前述の研究背景に基づき本計画は、Yb添加ファイバーレーザーを励起源として広帯域中赤外光生成し、これを用いたアップコンバージョン分光システムの開発し、APPとAβの吸収分光スペクトル計測とポンププローブ分光研究を行う。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は①SFGおよびOPAのための励起源となる出力4W級ファイバーレーザーの開発、②SFGによるアイドラー中赤外光生成、③時間領域のフーリエ変換による超高速分光システムの開発を行った。①に関しては波長975nm、出力9WのLDとポンプコンバナー、光アイソレーター、Y-DCFを用いてシステムの構築を進めた。パルス伸張にはシステムの簡便化を考慮して、長さ20mのシングルモードファイバーを用いて、パルス幅を5psまで伸張した。この光を長さ2.5mのYb添加ダブルクラッドファイバーを用いた増幅器を開発して、出力3Wを得ることに成功した。しかしファイバー中において非線形効果が観測され、さらにスペクトル形状が方形形となった。SFGやOPAの励起源のスペクトル幅は狭いほうが好ましく、このスペクトル幅の光を使用することは困難と判断したため、狭帯域化を進めた。はじめにシングルモードファイバーの長さを100mに変更してパルス幅を85psまで延長した光を種光に使用した結果、出力3.5Wでガウス形状のスペクトルを得ることに成功した。②関しては、波長1040nmの光を励起光そして波長1250nmの光を信号光として、AgGaS2の結晶に入射して差周波生成により波長6000nmの中赤外光生成させるビームラインの構築を行った。現在スペクトル形状の最適化を進行中である。またOPAを実現するための回折格子とシリンドリカルレンズで構成されるビームラインの構築を進めた。③に関しては、当初は回折格子とラインセンサーを用いて分光システムを構築する予定であったが、これらの素子は波長依存性が大きいことが課題であった。そこでこれらの問題が解決できる時間伸張フーリエ分光システムの開発を行った。これによりレーザーの繰り返し周波数100MHz動作で分光データの取得に成功した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は①中赤外光源の高度化、②中赤外分光試験用ビームラインの構築、③中赤外光によるAβの超高速分光試験を行う。①に関しては昨年度から開発を進めている中赤外光源の出力特性を高度化する。具体的には励起光と信号光のタイミング調整および信号光の分散補償を行い、高出力な中赤外光の生成を行う。前述の方法を用いて、スペクトル帯域が十分に広がらない場合は狭い場合は、ZBLANガラス非線形ファイバーを用いてスペクトルの広帯域化に取り組む。ZBLAN非線形ファイバーに関しては、調達の見込みを得ている。項目②の中赤外光源を用いた高速分光実験を行うためのビームラインと試料となるAβに中赤外光と紫外光が同時に集光できるように2つのビームラインを用意して時間的な超高速ポンププローブ分光も実施できる光学配置の開発を進める。なお、光励起用光源となる紫外光はYbファイバーMOPAシステムと非線形ファイバーを用いて開発を進める。このシステムについては一部前年度に開発を進めており、基礎的な試験は終了している。最後に開発したビームラインを用いてAβの超高速分光を行う。はじめにポリスチレンなどの標準試料を用いて開発したシステムの校正および特性評価を行う。そして市販のAαとβを用いて分光試験を行い、最初の試験として紫外光をAαに照射したときの分光スペクトル計測を行い、光励起によるAβ分光への応用へ展開する。
|
Causes of Carryover |
当初予定していた光学部品の性能を大きく上回る高品質かつ低価格の光学分品が市場で購入できることが判明した。この光学部品は納期が長いが、システムの性能を向上させるために必要不可欠と判断し、導入の準備を進めた。しかし納期が年度を超えてしまったため、次年度使用額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の光学素子はすでに発注済であり、円滑に使用できる見込みを得ている。
|
Research Products
(5 results)