2016 Fiscal Year Research-status Report
軟X線レーザー時間分解小角散乱法によるフェムト秒レーザーアブレーションの研究
Project/Area Number |
15K04706
|
Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
熊田 高之 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 物質科学研究センター, リーダー (00343939)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | レーザーアブレーション / X線レーザー / 小角散乱 / 反射率測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
軟X線レーザーを用いた斜入射X線小角散乱測定装置の開発、および本装置を用いたフェムト秒レーザーアブレーションにより金表面に生じた欠損(クレーター)の構造研究に関する昨年度の研究成果をInternational Conference of X-ray Laser 2016において発表するとともにProceedingsを執筆し受理された。また、類似の条件でアブレーションされた試料の顕微鏡観測に関する研究も同Conferenceで発表し、そのProceedingsも受理されている。また、派生技術としてレーザーアブレーションによって石英表面に過渡的に生じる自由電子による反射(プラズマミラー技術)を用いた真空紫外光の波形測定技術を確立し、その論文が掲載された。 X線と並行して中性子ビームを用いた小角散乱および反射率測定実験も積極的に進めた。報告者は自身が持つ核偏極技術を用いて、薄膜試料中の水素核スピンを熱平衡の50倍に相当する偏極度10%程度まで高めた上、その水素核偏極度を変化させながら偏極中性子の反射率を測定するスピンコントラスト中性子反射率測定を世界で初めて成功させた。これによってシリコン基板上にスピンコートされたジブロック共重合体のうち、どちらの基が優先的にシリコン基板に吸着するかを見分けられることを見出した。このほか、水素核偏極中性子小角散乱法を用いた自動車用タイヤゴムの構造研究や、時分割中性子小角散乱法を用いて開発された高分子フォトニック結晶の作成手法に関する論文が掲載された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
軟X線レーザーを用いた斜入射X線小角散乱測定装置については赤外光用グレーティングを標準試料を用いて期待通りの散乱プロファイルが得れれることを確認した。その結果は国際会議で発表し、その場において活発な議論が展開されるとともに、Proceedingsが受理されるなどの一定の評価を得るに至った。その一方で、グレーティングのような明確な周期構造を持たない金表面のアブレーション欠損面の測定では、CCDカメラの熱ノイズに隠れて構造情報を反映した微小な散乱信号を抽出することができなかった。問題を解決するにはフォトンカウンティングができる光電子増倍管をベースとした低ノイズ2次元検出器が必要である。しかし現在、軟X線に関してはそのようなデバイスは開発されていないことからその解決策が模索されている。 本研究開発の派生技術として、真空紫外光(波長160nm)の波形計測技術を確立し、論文にまとめた。真空紫外光は、軽元素分子の励起やリソグラフィーによる集積回路作成などの用途から注目されている一方、物質透過性が極端に悪くその計測技術も他の光に対して大きく遅れていた。我々が開発した本技術が将来実用化されることが期待される。 中性子ビームを用いた小角散乱および反射率測定においては、中性子と水素核の散乱能が互いのスピンの向きによって大きく異なることを利用したスピンコントラスト変調技術を用いた研究を展開した。スピンコントラスト中性子小角散乱法を用いて自動車用ゴムタイヤ中におけるシリカ粒子の分散状態を決定した論文が掲載された。また、スピンコントラスト中性子反射率測定を世界で初めて成功させた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後、時間分解斜入射X線小角散乱技術の開発を進めるには、より短い波長のX線パルスが得られるSACRAのような施設にフォトンカウンティング型低ノイズ2次元検出器を組み込まなくてはならない。残された期間と予算の手当てを考えるとそれも現実的ではない。そこで、次年度はスピンコントラスト中性子小角散乱測定および反射率測定に注力する。
|
Causes of Carryover |
実験に用いるパルスNMR実験用機器の納入が大幅に遅れたため、当初計画どおりに実験を行うことができなかったため、実験に係る費用について次年度使用額として生じることとなった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については、平成28年度に行うことができなかった、実験に係る費用として使用し、平成29年度分の研究経費については、当初計画どおり、装置開発及び実験に係る費用及びデータ解析や研究成果についての論文投稿や学会発表に係る費用として使用する。
|