2015 Fiscal Year Research-status Report
複雑な立体形状に適応した大気圧非平衡プラズマの安定化メカニズム
Project/Area Number |
15K04715
|
Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
三沢 達也 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70346873)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 大気圧熱非平衡プラズマ / 立体形状プラズマ / 水-誘電体多層電極 / プラズマ応用 / 放電メカニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者が新たに開発した「水―誘電体多層電極」を用いて生成される,立体形状を持つ大気圧プラズマ生成技術のメカニズムの解明を行う為に、誘電体の誘電率,導電率,電気双極子モーメント等の電気的特性を放電中にリアルタイムで計測し,放電挙動と比較することにより,本技術のメカニズムの解明と応用技術の開発を目指している。上記電極を用いた放電形式では,大気圧非平衡プラズマを生成する際に用いられる誘電体に,水などの液体を併用することにより,電界の不均一が発生しやすい立体形状の大気圧非平衡プラズマの生成が可能である。 平成27年度は、上記技術を用いた放電装置の開発、放電挙動に強く影響していると予想される液体誘電体(水など)の誘電率、導電率、電気双極子モーメント等の放電中のリアルタイム計測技術の開発および放電の基礎特性の解明を進めた。放電実験では、電極、液状誘電体、冷却装置、計測装置に常時、数~10kV程度の高電圧が印可される為、高電圧に耐えられる回路および装置構成が必要となる。平成27年度の計測システムの製作において、実験装置の1次循環系ポンプ及び2次循環系のペルチェ式循環冷却装置及びが、高電圧の漏電によると思われるトラブルで破損しており、現在、修理および装置構成の再検討を行っている。また、使用する電源回路の再検討を行う必要があり、当初予していた計測器の購入を変更し、適用可能な電源を平成28年度に購入する予定である。 計測システムの構築に並行し、既存のガラス容器などを用いた水―誘電体多層電極を用いた大気圧放電メカニズムの定性的な解明を進めた。水の温度を氷、湯などを利用した簡易的なウォーターバスを用いてコントロールし、放電の構造や動的挙動について解明を行い、水の温度に依存して放電のストリーマ構造が変化し、温度の上昇に伴ってストリーマが動的に移動する様になることなどを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
放電装置の製作では、ガラス製対向平板電極を用い、電極の法線方向から放電の様子を直接観測することが出来る様にした。放電電極のガラスとアクリル部材で囲まれた領域に水を循環させ、水温をコントロールする。循環系は、放電電極からガラス製熱交換器、誘電率測定セル、ポンプからなる1次循環系と、熱交換器からペルチェ式循環冷却装置からなる2次循環系に分けられる。放電電極間にガスを流した後に交流高電圧(Vp-p=10kV、f=10kHz)を印可することで電極間にプラズマを生成する。 想定では、ガラス製熱交換器を介すことで電気的絶縁が保たれ、機器へのダメージを与えないと考えていたが、ペルチェ式循環冷却装置が漏電とみられるトラブルで破損した。この問題は、誘電率の計測セル、循環ポンプでも発生すると予想される為、平成28年度に実験装置に改良を加える。 以上の実験と並行して、既存のガラス容器を用いた、水―誘電体多層電極の放電メカニズムの定性的な解明を進めた。ガラス容器には直管形のガラス製冷却器を用い、被冷却対象が通る部分に棒状電極を、ガラス容器外側に帯状電極を設置し、冷媒が通る部分に水を注入した後、棒状電極周辺にアルゴンガスを流し、両電極間に交流高電圧を印可してプラズマを生成する。水の温度を氷、湯などを利用した簡易的なウォーターバスを用いてコントロールし、放電の構造や動的挙動について解明を行った。水の温度の上昇に伴って放電のストリーマ構造が変化し、ストリーマが動的に移動する様になることなどを明らかにした。高速シャッタースピード(1/1000秒)による撮影により、温度を70℃程度まで上昇させると、ストリーマ構造が200~500mm/s程度の高速で放電領域を移動する様子が観察されており、人間の目の追随スピード(10~15 frame/s相当)で見ると、一様なプラズマである様に見えることが分かった。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究を通して、実験に使用する放電電極へ供給する水の電気絶縁性が十分でないことにより、計測装置および冷却系へダメージを与えることが分かっている。高電圧電源メーカーへの問い合わせ、ディスカッションを行い、いくつかの対策を講じることで、計測可能になると考えられる。 当初計画では、放電中の水の誘電率の計測では、誘電率計測セルを循環系の途中に設置し、LCRメーター(当初、予算で購入予定)を接続して、放電中のリアルタイム計測を実施する予定であった。しかし、漏電によって高電圧が直接印可され易い回路であり、LCRメーターがダメージを受ける可能性が高い。そこで当面は、水の誘電率は、温度がコントロールされた水循環系と誘電体計測セルの計測系で事前に計測しておき、放電中の水の温度から放電中の誘電率を類推する。LCRメーターには、既存の備品を利用する。リアルタイム計測が可能な計測回路については、平成28年度中に絶縁アンプ等を用いた絶縁計測回路の開発を進める。水温については、放電中でも計測可能であることが分かっている。 同様に、水の1次循環系及び2次循環系の耐電圧対策としては、当面、水の導電率の増加を抑えて水の純度を高く保つ様、経路途中にイオン交換樹脂フィルタなどを設置すると同時に、放電電極からガラス製熱交換器までの1次循環系、計測装置及び冷却装置までの2次循環系までの長さを、断熱樹脂チューブを用いて長く保つことにより解決する。 また、接地電位にある各装置と水との電位差を小さくして漏電の影響を抑制する為に、交流高電圧電源を、3線単相式のものに変更する。具体的には、電源の出力トランスにセンタータップを設けて接地することによって、接地電位に対する電極電圧を半分に減少させる。電源については、高電圧電源メーカーの製品を改造して使用することを想定しており、新たに購入を予定している。
|
Causes of Carryover |
本研究では、水循環系に、放電に用いる交流高電圧が直接印可されるため、水循環系に接続されているペルチェ式循環冷却装置が漏電によって破損するトラブルが発生した。誘電率計測セルとLCRメーター、ポンプ、熱電対などの機器においても、十分に電気的絶縁性を高める対策をする必要がある。また、電源側の対策として、接地電位に対する放電電極への印可電圧を下げる方法があり、この為には、回路を変更した新規の電源を購入する必要があった。 よって、予定していたLCRメーターの購入を取りやめ、絶縁対策を施した計測回路を開発すると同時に、新規の交流高電圧電源の購入することに変更した。交流高電圧電源装置については、新規に購入する場合、1台140万円以上し、平成27年度予算だけでは購入することが出来ないことが分かった。よって、平成27年度予算の残額と平成28年度の予算を合わせて、対策を実施することとした。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
使用計画としては、特に交流高電圧電源の新規購入及び改造、高電圧環境下で誘電率を計測する為に計測方法の開発に用いる。具体的には、交流高電圧電源の出力トランスにセンタータップを設置して接地電位とする電源を採用し、放電電極の接地電位に対する電圧を、放電電極間の放電電圧の半分にすることで、以上のトラブルを防ぐ構成とする。電源回路については、既製品に改造を加えて開発する予定としており、購入の際に、電源メーカーに改造を依頼する予定である。また、誘電率計測については、当面は既存の古いLCRメーターを用いて、放電していない条件での計測をあらかじめ行い、放電実験中はLCRメーターを外した状態で実験を行う。最終的には、絶縁対策を施した絶縁アンプなどを併用した計測装置を開発し、放電中のリアルタイム計測を行う予定としている。
|
Research Products
(3 results)