2015 Fiscal Year Research-status Report
膜蛋白質構造解析を可能にする新奇パルス中性子回折強度積分法の開発
Project/Area Number |
15K04737
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
友寄 克亮 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 任期付研究員 (10455909)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 数理科学 / 生物物理 / 中性子回折 / 原子核物理 / データ処理 / 生体高分子結晶 / 創薬科学 / 酵素反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
中性子はX線では困難な水素原子の直接観察に長けたプローブであるため、蛋白質構成原子の約半数を占め、その機能発現に重要な役割を果たしている水素原子の挙動を知るのに優れた手法である。加速器を用いた大型パルス中性子源施設の稼働に伴い、生命現象に欠かせない役割を果たしている膜蛋白質、蛋白質複合体も中性子結晶構造解析の対象となりつつある。しかし、これらの蛋白質は分子サイズが大きく、大型単位格子結晶として析出するため平均の回折強度は減少し、水素原子由来の非干渉性散乱によるバックグラウンドも高いため、弱い反射の信号強度を精度よく評価することが今後重要な課題となる。
平成27年度は、多次元空間における弱い反射や反射幅が可変な場合においても、バックグラウンド評価可能なStatistics sensitive Nonlinear Iterative-Clipping(SNIP)アルゴリズムの適用を蛋白質結晶のデータセットに対して試みた。SNIPはウィンドウ値を増加/減少することによりウィンドウ範囲にある局所的な平均強度や最小値を計算することによりベースラインを評価するものである。この手法は、原子核のγ分光や、ラマン分光、マススペクトルデータなどの分光学の分野でのバックグラウンドの評価にも使用されている実績がある。特にTOF方向については、長波長側での非対称度が大きくなるため初期値の最適化が必要である。TOF値に対する反射幅(FWHM)から最適なウィンドウ値を検証した結果、反射幅に対して約1.5倍のウィンドウ値が、最適なベースラインを得るのに必要であることが分かった。本成果を、まとめた論文はJournal of Physics 誌に受理、掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
強度を加えたX, Y, TOFの四次元蛋白質データを、TOF方向に切り出し反射の半値幅に合わせたベースラインを決めるための最適なウィンドウ値を評価することに成功し、その成果を国際誌に発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度検証を行ってきたSNIPによるバックグラウンド処理の初期値を用いて、バックグラウンド除去処理を行い3Dピークのボックスの指定や、TOF方向に射影したスペクトルをLandau/Vavilov関数あるいはその畳込み関数でフィッティングをおこない積分強度を算出するコンポーネントを作成する。最終的には、SNIPのウィンドウ値を変化させながら積分値の評価をさまざまな波長および散乱角に対して実行する。個々のプロファイル関数およびバックグラウンド処理法以外にも、現在のデータ処理プロトコル全体を見直し、これらのコンポーネントの組み込みフローも考案する。 申請者らは、これまでに類をみない250Aを超える大型格子結晶からの中性子回折データ収集を可能とする新たな生体高分子専用単結晶中性子回折装置をJ-PARCに置いて進めている。建設状況により可能な場合は、新装置を用いた蛋白質データの測定を行う予定である。
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Causes of Carryover |
平成28年度からの所属研究機関の異動(JAEA→QST)に伴う研究環境の変更を考慮し、機関を異動した後に解析を行った方が、効率的に研究を進めることができると考え、研究計画を一部見直しを行い、当初計画において平成27年度に実施予定だったの実験の一部を 平成28年度に変更することとした。これにより、当初計画で平成27年度に支出予定であった、解析に係る費用を平成28年度に支出することとしたため、次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に行う解析に係る費用(物品費)と今年度国際会議参加費用に係る費用(旅費)として使用する。
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