2016 Fiscal Year Research-status Report
医療用α放射性同位体211Rn/211Atジェネレータシステムの高度化
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15K04741
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
西中 一朗 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 東海量子ビーム応用研究センター, 主幹研究員(定常) (70354884)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アルファ放射性同位体 / 核医学利用 / アスタチン / ラドン / ジェネレーター / トレーサー |
Outline of Annual Research Achievements |
α線内用療法による新しいがん治療法の開発を目指し、先行研究で作製したRn-211(ラドン)/At-211(アスタチン)ジェネレータシステムの高度化に取り組んだ。具体的には「Rn分離装置の高度化」、「ジェネレータ装置の高度化」の研究開発を行った。 「Rn分離装置の高度化」の研究開発では、He流量依存性、Rn分離時間についての性能試験を行った。14回のRn分離実験を実施し、20-200 sccmの流量範囲では、流量にほとんど依存することなく、15分以内の加熱時間で分離できることを確認した。本研究課題で目指した「Rn分離装置の高度化」の目標はほぼ達成できた。 「ジェネレータ装置の高度化」の研究開発では、より高い回収率と放射能純度を達成するための鍵となるAt-211とPo-207の吸着、吸着挙動を詳細に調べるため、既存の高速液体クロマトグラフ(HPLC)装置の機能拡張、放射線検出システムの整備、そして全システムの性能試験を行った。HPLC装置機能拡張では、HPLC用流路切換えバルブを増設し、カラムへの吸着成分の定量を可能にした。放射線検出システムについては、マイクロ流路を利用してHPLC溶出液にシンチレーションカクテルを混合し、アスタチンが放出するα線のシンチレーション光をリアルタイムに高感度で検出する新規の放射線検出システムを作製し、Atトレーサーを用いた性能試験を行った。その結果、開発した放射線検出システムを用いたHPLC分析でAtスペクトルが測定できることを確認し、さらにその分解能を改善するための知見を得た。NaIシンチレーション検出器での特性エックス線測定では検出が困難だった微弱なアスタチンの放射能をα線測定によって検出可能にした。これによりジェネレータシステム高度化のための重要な研究課題であり、Atの基礎科学的研究課題でもあるAtの化学形を調べる化学分析が可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「Rn分離装置の高度化」の研究開発では、昨年度実施したコールドトラップ制御法改良後の性能試験を進めた。Rn分離装置内に設置したガンマ線モニターによるオンライン観測によって、Rn分離装置内でのRn-211の吸着、脱離挙動をリアルタイム把握しながら、He流量依存製性、Rn分離時間についての性能試験を十分な試行回数で実施することができた。本研究課題で目指した高度化目標はほぼ達成された。 「ジェネレータ装置の高度化」の研究開発では、Rn-211から生成したAt-211を高い回収率で溶液化すること、ならびに、不純物RIであるPo-211の除去を本研究課題での最重要点と位置づけ、当初の計画にはなかった高速クロマトグラフ装置でのAt-211トレーサー溶液の化学分析のための研究開発を進めた。昨年度まではAt溶液の微弱な放射能をNaIシンチレーション検出器では測定することができず、HPLC分析が不可能だった。この未解決課題についての今年度の取り組みにより、α線のシンチレーション光を検出することによりアスタチンの放射能を測定する放射線検出システムを新規に製作し、研究開発することによってHPLC分析を可能にした。 ジェネレータシステム高度化のための重要な研究課題であり、加えてAtの基礎科学的研究課題でもあるAtの化学形を調べる化学分析の目途が付いた。 これまでの「Rn分離装置の高度化」、「ジェネレータ装置の高度化」の成果により、Rn-211/At-211ジェネレータシステムでは、無担体Atトレーサー溶液が約45%の回収率で調整可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
「Rn分離装置の高度化」の研究開発では、安定かつ再現性良くRnの分離が可能になったため、本研究課題で目指した高度化目標はほぼ達成された。その達成度を確認するため、分離操作後の装置内に残留する可能性のある微量なRnの定量方法を検討し、装置の改良と研究開発を行う。 「ジェネレータ装置の高度化」では、引き続き、高い回収率でのAt-211トレーサー溶液化、ならびに、不純物RIであるPo-211の除去、これら2つの観点から最適な化学分離法の研究開発を進める。これまでの放射線検出システムの開発によって、HPLC装置を用いた化学分析に目途がついた。引き続き、放射線検出システムの高度化を進める。具体的には、α線のシンチレーション光検出に基づく放射線検出システムついては分解能の向上に取り組み、また、NaIシンチレーション検出器による特性エックス線測定についても再検討する。これらの取り組みによって、さらに高度化した放射線検出システムを用いて、実際のAtトレーサー溶液についてHPLC分析を行い、At-211、Po-211の化学挙動を明らかにする。その成果に基づいて、「ジェネレータ装置の高度化」のための措置を実施する。また、この化学分離法の研究開発と並行して、ジェネレータ装置でのAt溶媒抽出時のステンレス管への超音波洗浄機能を付加することでAt抽出効率が改善されるかについても調べる。これらの研究開発の成果に基づいて高度化を進め、これまでに達成した回収率45%について、更なる向上を目指す。 くわえて、本研究課題を推進すると同時に、Atトレーサー溶液の化学分析によって、At化学種に関する基礎科学的研究課題についても取り組む。 Rn-211を製造するタンデム加速器の故障修理のために整備期間が延長され、本年度の運転期間の減少が見込まれる。今後の研究の進捗状況により、研究期間を延長する可能性がある。
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Causes of Carryover |
「Rn分離装置の高度化」の研究開発において、Rn分離装置内での放射性希ガスの挙動をオンライン観測するためのガンマ線モニターの整備について、本研究の助成期間前から研究開発を進めており、本研究計画よりも早く研究成果が得られた。そのため、研究機関初年度に購入計画にあったガンマ線モニター(GR-1ガンマ線スペクトルメータ)の購入を取りやめた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
「ジェネレータ装置の高度化」の研究開発において、当初計画になかった高速クロマトグラフ装置を用いた実験を実施する。このための、装置、検出器の整備、準備ならびに実験研究を遂行するために使用する。
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