2016 Fiscal Year Research-status Report
高速中性子を利用したがん治療用放射性同位元素Y-90の合成・分離・精製研究
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15K04744
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
塚田 和明 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究主席 (30343916)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 量子ビーム医療応用 / 治療用RI合成 / 高速中性子利用 / 加速器中性子 / 分離精製研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
核医学用放射性同位体(RI)は、高感度の診断(癌、脳神経疾患、心疾患等)や治療のために医療の現場で非常に多く使用されている。本研究では、治療用RI として最近利用されてきたY-90 (半減期:2.7日)を、加速器で得られる高速中性子(数MeV 以上)を用いて①効率的な合成方法の検討、②分離・精製法の確立、③副生成物及び不純物の同定、④標識実験などによる評価研究を行い、現在、全量輸入で供給されているY-90と比較し、実用レベル(約数百kBq~1GBq)の大量製造・分離技術の確立を目指すとともに、本手法を用いた合成・分離等によって国内で代替可能であるか評価する。平成27年度には合成研究として、先行研究から実施してきたZr-90(n,p)反応を引き続き利用し、高速中性子発生用の炭素標的をBe標的に変更した際の高速中性子発生量の増加実験を行い、Y-90の生成量が2倍に増加することを確認した。また、Nb(n,α)反応を利用した合成研究も平行して行い、Zr(n,p)とほぼ同量の合成が期待できることを実証した。H28年度には重陽子エネルギーを40MeVから50MeVに上げ、生成量の増加を確認したが、Y-88などの副生成物の影響が大きくなり、最終的に得られるY-90の放射能純度に影響があることが明らかになった。これにより、Y-90合成においては40MeVでの照射が最適条件であることがほぼ実証できた。このような成果から、現在はより容易な濃縮Zr-90試料の調整方法や、化学分離手法の自動化と、自動化に際して最適な化学分離手法の再構築など、最終年度に向かった取り組みを続けている。また、本研究の今後の展開のために、Y-90だけでなく他の医療用RI合成への応用についても検討を進めつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
合成研究としては、Zr-90(n,p)反応及びNb(n,α)反応におけるY-90の合成量測定及び副生成物の影響について40MeVおよび50MeV重陽子における違いなどを確認すると共に、高速中性子発生用の標的を炭素からBeに変更することで約2倍の中性子発生が可能であることを実証するなど着実な実績を得てきている。分離生成方法としては3段のイオン交換分離手法を利用し高効率かつ貴重な濃縮Zr-90標的の回収まで、一連の操作が自動化可能な手法の開発に成功するなど、その成果は最終的な自動化に向けて着実に進歩している。このように、合成及び分離手法の開発に関して、期待した進捗を得ており、おおむね順調に研究が進められていると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
成研究は基礎研究がほぼ終了し、現在大量合成時に問題となっている、照射機器への中性子対策などを進めている。実際に大電流の加速器を利用可能となった場合に同様な問題が考えられるため、中性子の角度分布など必要な情報を得ていく予定である。また、大量合成に必要なターゲットの大型化に必要な形状の最適化などPHITSなどの計算コードを利用してシミュレーションすることを検討している。 化学分離においては自動化を更に進めてセル内での利用が可能なように遠隔化できるよう装置開発を行う。また、酸化ジルコニウムとしてのみ入手可能な濃縮Zr-90を、その後の化学分離に最適な化合物(硝酸塩)とするため、乾式の塩化物方を経て硝酸塩を得るような化学プロセスを、高効率化できるよう研究開発を進める。
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Causes of Carryover |
現在、合成手法を2つの反応(Zr-90(n,p)反応及びNb(n,α)反応)で検討している。Zr-90(n,p)反応を主たる合成反応と考えて実施しているが、Zr-90(n,p)反応に利用する濃縮Zr-90が酸化ジルコニウムとしか購入できず、化学分離手法の出発物質としては十分でない。現在、化学反応の出発物質として酸化ジルコニウムを塩化ジルコニウムに効率よく転換する手法を検討しており、この手法が完成してから濃縮Zr-90の購入をすることに研究計画を変更したため、次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上半期に上記転換に利用する化学手法を決定し、出発物質として適しているか確認後、計画通り濃縮Zr-90の購入を行う、
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