2016 Fiscal Year Research-status Report
モチヴィックコホモロジーおよび周期とレギュレーターの数論的研究
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15K04769
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
朝倉 政典 北海道大学, 理学研究院, 教授 (60322286)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | レギュレーター / 周期 / 超幾何関数 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度において、代数多様体のレギュレーターの研究を行い、当初の予定していたよりも多くの実り多い成果をあげることができたので、報告する。 研究テーマは、代数多様体のレギュレーターであり、特に超幾何関数をキーワードとした研究である。 代数多様体の代数K理論というものがキレンによって確立された。その後、ベイリンソンによってあるコホモロジー群(ドリーニュ・ベイリンソンコホモロジーという)への高次チャーン類写像またはレギュレーター写像と呼ばれるものが導入された。その上で、ベイリンソンは、このレギュレーターとL関数の特殊値、とりわけ非臨界値とよばれるものとの関係を予想した。これは、古典整数論におけるディリクレの解析的類数公式の広範な一般化に相当するもので、非常に難しい問題であり、いまだ一般解決の見通しは立っていない。 私は、大坪紀之氏(千葉大学)と共同で、レギュレーターを、超幾何関数を使って研究するということを行った。より詳しく説明すると、ある代数多様体のファイブレーションのクラスを導入し、それを超幾何ファイブレーションと名付けた。これは、文字通り、レギュレーターに超幾何関数が現れるようなものになっている。我々は、まず、1次の代数K群のレギュレーターを詳しく研究し、レギュレーターに超幾何関数が現れることを証明した。 次に、2次の代数K群を考え、やはりそのレギュレーターに超幾何関数が現れることを証明した。これによって、L関数の非臨界値に関する上記ベイリンソン予想への新しいアプローチが可能になった。実際、2次の代数K群のレギュレーターについては、そのような例を構成できたし、また、数多くの具体例に対して、コンピューターを使った数値実験を行うことができるようになった。これらの成果は論文として投稿中、または投稿予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在までのところ、研究の進捗状況は非常に良好である。大坪紀之氏(千葉大学)と共同研究を行って以来、いくつかの成果をこれまでに挙げてきたが、当該年度においては、さらに研究を進展させることができた。 より具体的に説明する。大坪紀之氏(千葉大学)と共同で、ある代数多様体のファイブレーションのクラスを導入し、それを超幾何ファイブレーションと名付けた。そのファイブレーションの代数K群、とりわけ1次と2次の代数K群を考え、そのレギュレーターについて詳しく研究した。そして、それらが、超幾何関数で表されることを証明することができた。いずれの場合も、一般超幾何関数とよばれるものが現れる。一般超幾何関数については、関数論の研究者たちによって、多くの研究蓄積がある。それらの研究蓄積を援用することにより、ベイリンソンのレギュレーター(とりわけ2次の代数K群の場合)の研究の新しいアプローチが可能になった。たとえば、ロジャース・ズディリンによる、楕円曲線のL関数の特殊値と一般超幾何関数の特殊値の関係についての定理により、ある楕円曲線のベイリンソン予想を得ることができたし、また、我々の定理によって数値実験ができるようになったため、非常に数多くの具体例について、ベイリンソン予想の数値実験が行うことができた。1次の代数K群についても、著しい成果をあげることができた。こちらの研究では、L関数の特殊値についての成果は得られていないが、一方、一般超幾何関数3F2と対数関数についての新しい公式を得ることができたことは、特筆すべきことである(大坪紀之氏(千葉大学)、寺杣友秀氏(東京大学)との共同研究)。 以上、これらの成果は、現在、論文としてまとめているところである。すでにプレプリントサーバーにおいて公開しているものから、準備中のものまで数本の論文としてまとめてある。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度において、すでに多くの成果を得ることができたが、まだ進展が見込める課題が残っている。 (1)L関数の特殊値に関するベイリンソン予想は、ある楕円曲線の2次の代数K群の場合に、ロジャース・ズディリンの定理を使って得ることができたが、これは、もっと一般化が可能だと考えている。すでにレギュレーターと一般超幾何関数との関係は明らかになっているので、あとは、一般超幾何関数とL関数との関係を明らかにすればよいのだが、最近になって、少しづつではあるが、進展があるようである。これらの研究がより進めば、新しい成果が期待できる。 (2)最近、p進レギュレーターについて、研究成果の見込みが立った。大坪紀之氏と共同で導入した超幾何ファイブレーションをp進体を定義体として考えると、p進レギュレーターが現れる。これを詳しく研究した。キーワードになっているのは、アイソクリスタルと呼ばれるp進接続である。つまり、レギュレーターをp進微分方程式の理論から攻めることにより、著しい進展が見込めるようになった。現在、これは、宮谷和尭氏(広島大学)と共同で研究中であり、現在、最も精力的に研究している課題である。今後もこの研究を推し進める予定である。できれば、年度内に論文として成果を公表したいと考えている。 (3)上記の研究課題に精力的に取り組むほか、すでに得られた成果を論文として投稿し出版する予定である。また、国内外を問わず、研究集会に参加し、得られた研究成果をこの分野の研究者たちに向けて講演発表していく予定である。そこで行う、研究者たちとの議論やアイデアの交換によって、さらに視野を広げ、研究をより深めていく予定である。
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Causes of Carryover |
今年度、昨年度より多くの研究費を必要とする理由は、次の3点である。 [1]今年度9月3日から8日まで研究集会「レギュレーター」を大坪紀之氏(千葉大学)と二人で開催する予定である。その際、講演者および大学院生の旅費援助の一部を当該科研費から支出するつもりである。[2]今年度12月にインドで行われる代数幾何学の研究集会に招待されているので、その渡航旅費を計上している。[3]今年度1月に、ドイツで行われるワークショップ「Periods」に参加し、そこに参加した研究者と多様体の周期とレギュレーターについて議論する。そのための渡航および滞在旅費を計上する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の科研費の主な使用計画は、次である。 [1]今年度9月3日から8日まで研究集会「レギュレーター」を大坪紀之氏(千葉大学)と二人で開催する予定である。その際、講演者および大学院生の旅費援助の一部を当該科研費から支出する。[2]今年度12月にインドで行われる代数幾何学の研究集会に招待されているので、その渡航旅費を計上している。[3]今年度1月に、ドイツで行われるワークショップ「Periods」に参加し、そこに参加した研究者と多様体の周期とレギュレーターについて議論する。そのための渡航および滞在旅費を計上する。[4]その他、国内の研究集会に参加する際の、旅費を計上する。
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Research Products
(5 results)