2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K04778
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
谷川 好男 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 招へい教員 (50109261)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 数論的誤差項 / 短区間平均値定理 / トング型の公式 / ヴォロノイ公式 / 近似関数等式 / ゼータ関数の微分 |
Outline of Annual Research Achievements |
数論的誤差項の平均値定理の研究ではヴォロノイ公式が広く使われるが,私は海外研究協力者とともに,トングが1956年に発表した誤差項の表示式をセルバーグクラスのゼータ関数の場合に拡張・再構成し,それを使って平均値定理を研究してきた.だたトング型の公式を使う場合には,ゼータ関数の2乗平均に関するある種の条件が必要で,それがこの公式の適用範囲を制限していた.今年度は海外研究協力者と書いた共著論文を詳細にチェックし,その条件を外すことができるかどうかを検討した.あと数か所の計算の確認が残っているが,トングの公式を使う際の鍵となる積分評価を, ゼータ関数の臨界線上での一乗平均や二乗平均の言葉で述べることができる見通しが立った. リーマンゼータ関数ζ(s)の2乗の近似関数等式は1929年のハーディー・リトルウッドの論文において確立されたが,彼らの定理における誤差項には (x+y)/|t| の1/4 乗という因子が含まれていた.ところが1938年にティッチュマルシュはこの因子が不要であること示したという歴史的経緯がある.ホールは1999年の論文で,ハーディー関数の零点の研究に応用するためにζ'(s)の2乗, ζ(s)ζ''(s),ζ'(s)ζ''(s) の近似関数等式を導いたが,証明法がハーディー・リトルウッドに従っているため, それらの誤差項にはやはり同じ因子が含まれていた.そこでまずこの因子を取り除くことを目的とした.これらのゼータ関数の積の積分表示には,関数等式のガンマ因子の微分が現れるため扱いが非常に複雑になったが, ティッチュマルシュの方法を拡張しそれらの exact formulas を求め,その近似式から指数和の評価を経て, ホールの近似関数等式からこの因子を取り除くことに成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トング型の公式に必要であった条件はかなりきついもので,それが次数が高いゼータ関数や,あるいは次数が低くても積分路の移動に関して一種の制限になっていた.今回その条件をある程度緩和することができる見通しが立った.これを用いれば積分路をたとえばσ=1/2の臨界線まで移動できるようになる.その意味で今回の結果はトング型の公式を使いやすくしたということができ,より多くの場面に広く応用できるようになる. ゼータ関数の近似関数等式は,ゼータ関数の研究において最も重要な道具の一つである.実際ハーディー・リトルウッドによるζ(s),ζ(s)の2乗の近似関数等式はその後のゼータ関数の平均値定理などにおいて大きな役割を果たしている.ホールはハーディー関数の零点分布のために ζ'(s)の2乗, ζ(s)ζ''(s), ζ'(s)ζ''(s)の平均値定理を必要としたが,その近似関数等式の誤差項を本来期待される形にまで改良したという意味で我々の結果は今後の研究の基礎付けとなっているということができる.この結果は連携研究者たちとの共著論文としてまとめ現在投稿中である.
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Strategy for Future Research Activity |
数論的誤差項のトング型公式については,今回その適用条件を緩和することがほぼできた.まず数点残っている非常に細かい計算をチェックし,その後研究論文としてまとめるつもりである.それと並行して,今回の結果をすでに出版されている X. Cao 氏,W.Zhai 氏との共著論文(On the mean square of an arithmetical error term of the Selberg class in short intervals, IJNT (2016))で扱った数論的誤差項の短区間平均値定理,特に3次約数関数 d_3(n) から生ずる誤差項Δ_3(x)の短区間平均値定理, d_3(n) のいわゆる average of shifted convolution, Δ_3(x) の符号変化等に再度応用し,以前の結果の改良を試みる. 本研究では誤差項の短区間平均値定理が主要な研究課題であるが,以前に行ったζ(s)の2乗の近似関数等式の誤差項の場合には 本橋による表示を基礎にしていた.今回は誤差項はハーディー・リトルウッド関数で表示されているので,それから短区間平均値定理に進む必要がある.まず個々のハーディー・リトルウッド関数を短区間での差にしたときどういう表示になるかを見極め, その2乗平均を考えて行きたい.さらにホールが1999年の論文で扱っていたハーディー関数の研究にも我々の手法を応用していきたいと思っている.
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Causes of Carryover |
平成28年8月には北京に X.Cao氏, W.Zhai 氏を訪れ,その後西安交通大学で開催されたワークショップに参加し,私自身の研究結果も発表した.当初は全てを自分の科研費で賄う予定であったが,北京-西安間の往復航空機代, 西安滞在費を補助してもらうことができた.そのため次年度使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度も連携研究者や海外研究協力者と綿密に連絡を取りあい研究を進展させる.ゼータ関数の微分の近似関数等式の誤差項に関する研究では,2ヶ月に一回以上の割合で連携研究者の南出真氏(山口大学)を訪ね,平均値定理やハーディ関数の研究への応用を議論する予定である.一方トング型の公式の短区間平均値定理への応用については,平成29年度も8月に海外研究協力者を訪れ,論文を完成するとともに,新しく得られた公式を使って従来の結果がどこまで改良できるかを議論していくつもりである.特に平成29年度は最終年度なので,年度末の2月あるいは3月に再度海外研究協力者を訪ね総まとめをしたいと思っている. また日本数学会の年会,秋季総合分科会に参加し,積極的に我々の結果を発表していきたい.
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Research Products
(12 results)