2015 Fiscal Year Research-status Report
超幾何系由来のK3保型形式の研究とその数論への応用
Project/Area Number |
15K04807
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
志賀 弘典 千葉大学, 理学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (90009605)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 虚数乗法論 / テータ函数 / 超幾何函数 / 保型形式 / K3 曲面 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初計画に基づき、以下の研究実績を得た。志村による虚数乗法定理の可視化。1900 年Hilbert によって提出された 「Hilbert の23の数学の問題」中、第 12 問題は未だ未解決であるが、志村五郎による虚数乗法論はこの問題に多大な寄与をもたらした。志村の原論(Annals 1967 年)中で、存在定理として述へられている高次虚数乗法論の主定理を、研究代表者は、数論的三角群由来の 4 元数環の場合に考察し、適当に正規化された 超幾何微分方程式の逆シュワルツ写像が志村の意味の正準模型を与えることを証明した。 2) さらに、その保型関数の一例をテータ函数表示し、上記正準模型定理の適用によって高次虚数乗法体の幾つかに対しその Hilbert 類体の定義方程式を実際計算した。このような意味の可視化された高次虚数乗法論の例は、これが初めてである。 3) 以上の結果は、各種シンポジウムでの講演発表、集中講義、論文の形で公表された。さらに、これら先端的研究の土台となる、一般基礎定理の背景や意義を明らかにする啓蒙講義、また、海外での研究生活、研究指導、発展途上国への学術的支援の実際についての集中講義も行った。 4) これら啓蒙的講義において、洋の東西さらにはイスラム圏の文化から生じた数学が、研究代表者の最近の研究の中で現代化されて再生発展している具体例も紹介された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「平成27年度の研究実施計画」に4項目のテーマを掲げた。このうちの (1)(2) において、初期の結果を得たことになる。第三のテーマは、当初考えていた方法では、解決に至ることはできないと思われる。また、第四のテーマは、部分的な解決を得たので、より一般的な問題への接近の足がかりとなると考えられる。このようにして、ここで掲げた問題は、より高次の保型函数および、より高次の虚数乗法論へと結びつくことが予想される。 すなわち、この第三のテーマを契機として、「基本戦略」の項での (2)(4)(5)(7) の考え方が、「研究計画」欄 (5)(6)(7)(8) の諸問題と結びつき、第4のテーマとして挙げた K3 曲面上の有理点の数論という側面的研究とも呼応して、研究代表者本来の研究グラウンドである K3 曲面族の保型函数の研究へと発展する可能性が見えて来ている。より具体的には、 (a)超球上の K3 モジュラー函数は、数論への応用が見込まれる重要な特殊 K3 モジュラー函数を生み出す。Deligne-Mostow および寺田俊明によって、超球上の保型函数を導く Appell F1 型超幾何函数のリストが与えられている。他のタイプの超幾何ではどうなのかが問われる。 (b)F. Klein は 19 世紀末にレベルの低い合同部分群に関する 1 変数保型形式の詳細な研究を行っている。レベル 5 の場合が正 20 面体群講義として有名である。レベル 7 および 11 の研究も残されており、これらと K3 曲面あるいは超幾何函数との関連を探ると何かが分るのではないかと期待される。 (c)今日、日本固有の数学である算額がしばしば巷間でも話題になるが、これらの多くは平面幾何学の図形における諸量の関係の記述を問う問題である。これらの中には K3 曲面上の有理点の問題を派生しているものがあると思われる。そのような例を新たに見出す可能性が考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
前項で述べた、研究の現状から、将来的な方針を具体化してゆけばよい。すなわち、一変数的古典的保型函数論の発展形と見なせるような、多変数 K3 曲面族の保型函数の構成。より、具体的には19世紀にクラインが研究したレベル7の合同部分群の保型函数の発展形を求めること。1970年代に竹内喜佐雄が得た、数論的三角群の理論の発展形となる、まだだれも考察したことのない、数論的四角群をモノドロミーに持つ微分方程式の研究、およびそこから生じる保型函数を記述し、虚数乗法論に応用してゆくという大きなテーマが自然に生じている。より詳しく述べれば、(1) K3 曲面族から出発して、超球上で定義される 2 変数および 3 変数の K3 モジュラー函数の構成。 (2) Klein quartic は 楕円曲線に 7 分点構造を与えたモジュライ空間である。このモジュライ空間を超幾何微分方程式のシュワルツ写像によって構成するという問題がすでに M. Kato によって考察されている。この観点からの高次元的拡張は何か、という問題の追及。 (3) 数論的四角群の列挙の問題を、Haun 型方程式の記述の問題と関連させ、さらに、そこで生じる逆シュワルツ写像の明示的な記述と、その整数論への応用をめざすこと。が今後の課題として浮かび上がって来ている。以上の研究の推進には、コンピューターを用いたさまざまな実験的な試行錯誤。世界各地の研究者との討議、各種シンポジウムに参加して講演者および討議者として、最先端にいる数学者の多くの知見に接すること。さらには、これらの知識を発展途上国の若い数学者たちに還元してゆく努力を傾けることが重要である。
|