2015 Fiscal Year Research-status Report
幾何構造に付随した微分作用素に対する恒等式の幾何学への応用
Project/Area Number |
15K04858
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
本間 泰史 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (50329108)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ワイゼンベック公式 / ディラック作用素 / ラリタ-シュインガー作用素 / 幾何構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
リーマン・スピン多様体上においてホロノミー群の表現に付随した一階微分作用素として「gradients」が定義される.これらgradientsに対する様々な恒等式は微分幾何学や大域解析学において重要な道具であり,それらを解明し応用することが主目的である. 平成27年度では,まず研究代表者により既に得られていた「準同型タイプのワイゼンベック公式の一般論」を論文としてまとめ,国際雑誌に投稿した.その際,gradientsとラプラス作用素の可換関係式や,4次元の場合の具体的な公式など,新しい研究成果も付け加えた.なお,論文は掲載が確定している. 次に,上述の恒等式をアインシュタイン・スピン多様体上のラリタ-シュインガー作用素(R-S作用素)へ応用した.R-S作用素とはspin-3/2のディラック作用素と言うべきgradientの一つである.ディラック作用素はラプラス作用素の因子と言えるが,得られた恒等式から,R-S作用素は「ラプラス作用素の2乗」の因子であることが理解される.そして,R-S作用素の固有値が二つの系列に分類されること,固有値がラプラス作用素から計算できることなどを示した.R-S作用素の固有値はBransonの複雑な手法を用いた球面上での計算ぐらいしか知られていない.今回得られた成果はコンパクト既約対称空間に対しても計算できる方法であり,この方面への突破口と言えよう.また,これらの研究成果を学会や研究集会で発表した. さらに,ベルギー・アントワープ大学のEelbode氏,ドイツ・シュトゥットガルト大学のSemmelmann氏らと得られた研究成果の解析学及び微分幾何学への応用について研究打ち合わせを行った.また,慶応大学にて研究集会「非可換幾何学と数理物理学」(研究代表者は主催者の一人)を開催し,国内研究者らと研究打ち合わせを行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で述べたが,gradietnsに対する「準同型タイプのワイゼンベック公式」の論文を書き上げた.この論文は,この方面への新たな突破口となる十分な研究成果と言える.ディラック作用素の主表象が成す代数であるクリフォード代数が,幾何学・解析学 表現論・物理学など多方面への応用をもつことから,得られた研究成果も同様に多方面への応用を持つ可能性がある.実際,ラリタ-シュインガー作用素に対して得られた研究成果は,スピン幾何学への新しい方向性を与えてくれる.しかしながら,研究課題へ費やす時間の不足から,具体的な対称空間上での固有値計算を行うことができなかった.また,研究計画の一つである伝搬問題(prolongation problem)への応用については,あまり進展がなかった.得られた恒等式が理論的には適用可能であることが理解できるが,具体的に書き下すには困難が多く,より深い考察や斬新なアイデアが必要と思われる.
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Strategy for Future Research Activity |
ラリタ-シュインガー作用素(R-S作用素)の微分幾何学へ応用について,スピン幾何学の専門家であるドイツ・シュトゥットガルト大学のSemmelmann氏と共同研究を行う.幾何学または物理学の視点からR-S作用素のzero-modeであるR-S調和切断が重要である.どのような幾何構造を持つときにR-S調和切断を持つか,指数定理との関係はどうなるかなどを考察する. 次に,高次のスピンの場合についてクリフォード解析学の視点から,ベルギー・アントワープ大学のEelbode氏と共同研究を行う.高次スピンの場合には幾何学への応用が難しいことがわかっているので,平坦または定曲率空間の場合を考えることになるが,解析学または表現論の視点から面白い成果が得られるであろう. また,ホロノミー群簡約が起こる場合であるケーラー多様体,四元数ケーラー多様体,G2多様体の場合について「準同型タイプのワイゼンベック公式」を構築する.研究代表者による捩じれディラック作用素を用いた手法は複雑なため,他のホロノミー群には適用が難しいが,すでにそれを克服するアイデアを得ている.特に,四元数ケーラー多様体の場合は,未解決ないくつかの問題へチャレンジするための道具となりうるもので,研究課題を今後推進するために不可欠なものである.
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