Outline of Annual Research Achievements |
普遍Hall-Littlewood関数に対する普遍Gysinの公式について
複素向き付け可能な一般コホモロジー理論(例えば, 通常のコホモロジー理論, K-理論, 複素コボルディズム理論など)を考える. 「空間」の間の「射」に対して, 然るべき条件の下で, コホモロジーの間の通常の準同型とは逆向きの写像である「Gysin写像(準同型)」が定義され, これにより, 部分多様体やサイクルの交叉といった, 幾何学的で複雑な対象を, 対応するコホモロジー類の積という, 代数的で扱いやすい対象に転換して考察することができ, Schubert calculusにおいては, Schubert多様体やベクトル束の「退化跡」の研究等に幅広く利用されている. また, Schubert calculusと密接な関係にあるSchur S-, P-, Q-多項式(関数)などの特殊多項式(関数)との関連で言えば, 例えば, 複素ベクトル束に付随する完全旗束の射影から通常のコホモロジーに誘導されるGysin準同型を利用したSchur多項式の特徴付けが知られている(Fulton-Pragacz). さらに, Pragacz氏は最近(2015年), この研究を発展させ, Schur多項式の拡張とも言えるHall-Littlewood多項式についても同様の特徴付けを与えている. 平成27年度は, こうした通常のコホモロジーにおける通常のSchur S-, P-, Q-関数の「Gysinの公式」を, 複素向き付け可能な一般コホモロジー理論の中で「普遍性」をもつ「複素コボルディズム理論」において確立することに取り組み, 以前に定義した「普遍Schur S-, P-, Q-関数」を含んだ「普遍Gysinの公式」を打ち立てることに成功した. これらの成果は研究集会「第62回 トポロジーシンポジウム」(2015年8月, 於 名古屋工業大学)等において発表され, 論文Nakagawa-Naruse「The universal Gysin formulas for the universal Hall-Littlewood functions」(arXiv:1604:00451)として発表された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一連の研究は, 2014年10月頃着手し, ほぼ1年の月日をかけて, 論文にまとめることができた. 研究成果としては,当初の計画(交付申請書に記載した「平成27年度の研究実施計画」の内容)を上回る形で達成できたと考えている(ただし, 論文という形での成果という意味では, 今しばらくの時間を要する). 比較的順調に研究が進展した背景としては, これまでに進めてきた(研究の動機は異なるが)「普遍Schur S-, P-, Q-関数」の研究と, Schubert calculusの分野とはあまり接点がなかった「代数的トポロジー」において古くから知られていた研究結果とを結び付ける, という視点をもったことが大きな要因の一つではないかと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
交付申請書には「平成28年度の研究実施計画」として, 「古典群に対するaffine Grassmann多様体のK-理論(K-ホモロジー)の研究」を挙げているが, 当面は, 平成27年度のGysin写像を利用したSchur関数の研究を続ける予定である. 理由としては, Gysin写像の研究推進中に, 本研究と密接に関連する論文が次々と発表され, それらの研究を含んだ形で研究をまとめる必要が生じたからである. 中でもHudson-Matsumuraによる, 代数的コボルディズム理論におけるSegre類およびSchubert多様体の「Kempf-Laksov分解」から定義される「Kempf-Laksov類」の研究, Darondeau-Pragaczによる旗多様体(古典型)に付随するGysinの公式の研究, Allman-Rimanyiによる, 「無限遠点における多重留数公式」を利用したGysin写像およびSchur多項式, Grothendieck多項式の表示の研究などは, 我々の「普遍Gysinの公式」の観点から, 直ちに複素コボルディズム理論に拡張できるものも多い. 引き続き, この研究を継続し, 一連のGysinの公式の「普遍版」の確立に努める予定である.
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Causes of Carryover |
学内業務との関連で, いくつかの研究集会への参加を見送ったため, および納期の関係でいくつかの洋書の注文を次年度に先送りしたため, 次年度使用額が生じてしまった. また, 研究分担者である成瀬弘氏の出張計画(平成28年4月27日~5月1日にオタワ大学(カナダ)において開催された国際研究集会への参加)の都合により, 分担金10万円の内, 5万円を繰り越した.
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