2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K04892
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
国場 敦夫 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (70211886)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 可積分系 / 確率過程 / 量子群 / 行列積 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子群のテンソル積表現の順序を入れ換える同型を量子R行列という.量子R行列を用いて統計力学における平衡系の可解格子模型が構成できることはよく知られている.一方このような構成法により非平衡系のマルコフ過程の模型を構成するためには,全確率保存など,更に幾つかの付帯条件を満たす必要がある.そのような条件を充足するための一般論は未だ無いが,当研究では,その具体例としてランクnのA型量子群の対称テンソル表現に付随するものを得た.モデルとしては1次元格子の各サイトにn種の粒子があり,確率的な動力学に従うマルコフ過程である.粒子の占有数に制限はなく,一回の遷移で隣接サイトへ多数の粒子が移動でき,その遷移率は出発サイトの粒子の占有数だけに依存する.このような模型は一般に零レンジ過程と呼ばれる範疇に属す.得られた模型はこれまで知られていた可積分零レンジ型模型のほぼ全てを包括するものであることを示した.更にベーテ仮説を用いてマルコフ転送行列の固有値を得た.以上が最初の実績の概要である. 第二の実績は,上記の模型の定常状態に関するものである.定常状態とは時間発展で不変な状態で,平衡系の基底状態に準ずる重要な情報を担う.定常状態における系の各配位の実現確率を定常確率という.本研究では定常確率の行列積表示を得た.これは各局所配位に補助空間に作用する演算子を付随させ,全系の定常確率をそれらの積の跡として表示するものである.先の確率的R行列を構造関数とするZamolodchikov-Faddeev代数の表現を構成することによりこれを達成した.以上の成果は論文4報に纏められ,3報は既に出版されている.またジュネーブでの国際会議で発表し,日本数学会で企画特別講演をした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
量子群の表現論を応用して可積分確率過程の模型を構成し,特にその定常状態に関しては行列積表示を得ること,これが当初主に想定していた研究の目標であったが,それは完全に達成できている.望むべくは研究課題にある四面体方程式や3次元可積分性との関連まで明らかにすることであったが,これに関してはランクが最小の場合以外は今後の課題として残っている.それというのも去年(H28年)5月に模型を完成した後,定常確率の行列積表示を得るためにほぼ2ヶ月を費やしたことが大きい.零レンジ過程では局所状態に制限がないので行列積演算子自体が無限個ある.そのそれぞれが 生成・消滅演算子の級数だとして各係数にスペクトルパラメーターとボゾンの個数演算子の関数の自由度がある.Zamolodchikov-Faddeev代数をこの係数の間の差分方程式に翻訳しながら逐次解き進んで行く必要があった. 苦闘の末書いた最初のプログラムは重たすぎて殆ど動かず,改良の上に改良を重ねたプログラムがようやく解を捉えた時には7月初旬になっていた.以上はn=2の場合に過ぎないが,今から見ればそこが新しく本質的なハードルであったのでやむを得ない事態であったともいえる.実際その後,nを一般にする試みはさほど計算機に頼らずに順調に進み,9月にはほぼ全ての証明を完了し,10月には論文が完成した.その後は暫く新しい問題を模索する時間があったが,12月に行列積の熱力学極限を計算する糸口を発見し現在に至っている.
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Strategy for Future Research Activity |
前項に記したように目下の課題は,我々のn種粒子零レンジ過程の物理的性質を明らかにする事である.具体的には熱力学的極限における定常状態の振る舞いを行列積表示を用いて解析的に記述する事を目指している.その鍵となる方策は平衡系における大正準集団分布に相当する描像に移行することである.非平衡系なのでこのような扱いを正当化する一般論はないが,解析的考察と数値的検証を併せることで十分に信頼に足る方法であることを確かめつつある.行列積演算子自体よりもその母関数を扱い,その積の跡が因子数無限大の極限でどのように振る舞うかが要となる.このような計算は素朴にやると発散の困難に遭遇する.現在それを如何に正則化すべきかについて理論的に考察し,また一方で計算機による数値的評価と照合している段階である.まずはnが1の場合には補助フォック空間における跡をボゾンが0個の状態での行列要素に置き換えるという処方箋で良いことの傍証が得られている.これが十分確認されればnが2の場合に進む.実は既に予備的な計算で,二種の内一方の粒子を固定された不純物とみなすという設定では,もう一方の粒子の分布確率や流れがどうなるかについての結果を得ており,原稿に整理してある.二種類とも完全に大正準集団分布的な扱いをする計算は恣意的な基底で行うと非物理的結果になる.これは所謂無限次元空間の線形演算子のトレースクラスの問題に関与して慎重な解析が必要である.本年度はこれらの問題を出発点とし,総じて前年度得た行列積を物理的性質の探求に応用してゆく予定である.
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Causes of Carryover |
若干の残金がでたが,全体の1%程度の額であり,計画通り消費した後の端数である.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の配分額と併せて当初の計画にそって海外を含めた出張旅費等に充てる計画である.
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Research Products
(13 results)