2017 Fiscal Year Research-status Report
多変数複素関数論から見たリーマン面の接続とスパンの研究
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15K04930
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
柴 雅和 広島大学, 工学研究科, 名誉教授 (70025469)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
濱野 佐知子 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (10469588)
山口 博史 滋賀大学, 経済学部, 名誉教授 (20025406)
増本 誠 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (50173761)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 開リーマン面の変形 / 双曲的スパン / 擬凸状領域 / リーマン面の接続 / 周期行列 / ジーゲル上半空間 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の主たる目標は,前年度に出版された種数が1の場合における結果(Kyoto J. Math. 57巻(2017), 165-183)を受けて,種数が2以上の場合を考察することであった.この問題はもともと本研究課題の視野には当初から含めていたものであったが,少なくとも種数が1の場合を厳密に定式化し解決まで進めた上で,その解決が方向付けられるべきものであった. この目標に向かっては,上述した結果に登場していたモジュラスや複素上半平面,さらには双曲的スパンなどを種数が1を超える場合にはどのようなものに置き換えるべきかという問題がまず浮上する.いわゆるリーマン周期行列,ジーゲル上半空間あたりまでは容易に想像されるし,この研究課題の準備として位置づけられる幾つかの結果を代表者は既に得ている(Pitman Res. Notes Math. 212(1989),287-298など).双曲的スパンの自然な一般化の1つとして私たちが得た量とその役割について述べる. 種数gが正かつ有限な(ホモロジー的に印づけられた)開リーマン面Rが固定されているとき,任意の非自明な実gベクトルaに対して,Rのclosingsの周期行列をかなりよく反映するものとしてa-モジュラスと呼ぶ量を定義し,これについて先述した種数1の結果を拡張した.a-モジュラスを用いてg=1における双曲的スパンの自然な拡張としてa-スパンの概念が得られた.他方,a-モジュラスを定義するのに必要な流体力学的正則微分については2階の変分公式が成り立つことも示された.こうして,種数1における既刊の結果の高い種数への一般化が示されたことになる. 以上は周期行列を主題としておりclosingsの全体をいわゆるトレリ空間において考察したことに相当する.このほかにタイヒミュラー空間における状況の解明も進めつつある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画の骨子である種数1の場合はすでに平成28年度内に達成し,学会発表や論文出版の形で公にした.計画に盛り込んであったその他の問題も部分的な解決をみており,その一部については学会で発表した.しかし,種数が2以上の場合には,当初の予想とは異なった形でよりよい結果が得られることが判明しつつあるため,さらに研究を推進し新しい型の問題として解決することに大きな意義を見出した.この理由で研究期間の延長を願い出た. 現在は,a-スパンの等角写像論的な意味が明らかにされ,かつその変分公式が示された段階である.具体的には,1つのRに対しそのclosingsの全体の中で極値性を帯びたa-モジュラスをもつclosingの存在とその特徴づけが示され,この結果はすでに日本数学会で公表され(2017年秋・関西大学),目下原稿の浄書中である.また,流体力学的正則微分に対する2階の変分公式の証明もすでに日本数学会での公表を終え(2018年春),原稿作成の段階に入っている.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に設定した研究目標は一応達成できたものと考えてよい.その一方で,a-モジュラスやa-スパンの複素関数論的な --- 一部は開リーマン面論として1変数的な,別の一部はリーマンの周期行列として多変数的な --- 性質の解明が新たな問題として浮かび上がってきた.これは当初から曖昧な形では認識されてきた問題ではあるが,その半ば独立した興味の対象としてだけではなく,上述した2つの完成しつつある結果との関連にも注意を払いつつ考察することに意義を見出しつつある. 平成29年度に日本数学会で講演した2つの結果をそれぞれ論文として纏め投稿することが,研究期間が延長された平成30年度の主たる遂行計画である.前欄で述べた新しい問題を,論文作成の各段階で相互関連を吟味しつつ,考察することが副次的な遂行計画となる.
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Causes of Carryover |
このことについては,既に今年度の実績報告・進捗状況・今後の計画の欄においてかなり詳しく述べた.ここでは梗概のみを記せば十分であろう. 本研究課題が平成27年度に開始した時点で設定していた目標は,ある意味でほぼ完全に解決したといっても過言ではないのだが,研究課題遂行の途上で生じた幾つかの新しい問題がある.その一部は本研究課題の枠を超えて発展させることが自然でもあり期待もされるが,大部分は本研究課題により近く深く関係するものである.これらの問題については研究期間の延長によって片づけておくことが望ましいと判断するに至った.延長期間における研究活動を支えるために交付された金額の一部を留保する必要があった.
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