2015 Fiscal Year Research-status Report
非線形拡散を伴うSKTモデルに現れる定常パターンの大域分岐構造
Project/Area Number |
15K04948
|
Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
久藤 衡介 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (40386602)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 非線形拡散 / 数理生物学モデル / 楕円型偏微分方程式 / 分岐 / 安定性 / 定常パターン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,交差拡散項(cross-diffusion term)と呼ばれる非線形拡散項をもつ重定-川崎-寺本モデル(SKTモデル)の解析に従事している.このSKTモデルは競争関係にある2種類の生物種の個体群密度の時空的変化を記述する反応拡散系で,それぞれの生物種が競争相手となる種との混雑を避けるように拡散する状況が,拡散の相互作用である交差拡散項によってモデル化されている.SKTモデルの数学解析においては,片方の種の交差拡散係数を無限大としたときの定常解の漸近挙動は一つの懸案と考えられている.1999年のLou-Niによる研究によって,交差拡散係数を無限大にした際の定常解の漸近挙動は2種類に分類されることが知られている.そのうちのひとつの漸近挙動は,競争種同士の棲み分け現象に対応し,その近似問題(第1種極限問題)は四ツ谷晶二教授らの研究グループよって研究が進められている.もうひとつの漸近挙動は,交差拡散効果の保持する種のみが生き残り,交差拡散効果を保持しない種は,競争相手種の増大する交差拡散係数の逆数のオーダーで減衰する状況を示唆している.この減衰を特徴付ける近似問題(第2種極限問題)に関しては解構造がほとんど分かっていなかった. 平成27年度においては,第2種極限問題の解析を行った.その結果として,空間1次元に単純化したケースでは,正値解の大域分岐ダイヤグラムの概観を得ることが出来た.具体的には,交差拡散効果のない種の増殖率を分岐パラメーターとして扱うと,非定数な解は定数解から分岐する非有界な集合を形成することが判明した.さらにその集合は,分岐パラメーターがラプラス作用素の固有値に近づくと,未知関数の1成分を発散させることが分かった.この成果は,第1種極限問題と第2種極限問題の解集合が,ラプラス作用素の固有値において接合することを示唆している.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度においては,SKTモデルに関して,交差拡散係数を無限大にした際の定常解の漸近挙動を研究した.従来の研究成果が乏しかった「第2種極限問題」を中心に解析し,空間1次元の大域分岐図の概要を得た.上述の研究成果は微分方程式分野では国際的評価の高い学術誌 SIAM Jorunal on Mathematical Analysis において誌上発表するとともに,国内外の研究集会において口頭発表を行った.また当該年度の終盤には,第2種極限問題の解の安定性解析を着手している.以上の研究成果や活動は,当該年度の研究計画をおおむね達成しており,その意味で研究は順調に進展しているといえる.
|
Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要で記述したように,SKTモデルにおいては,交差拡散係数を大きくした際の定常解の漸近挙動は2種類に分けられ,それぞれ第1種極限問題と第2種極限問題の解で近似されることが知られている.平成27年度の研究では,従来の研究成果が乏しかった第2種極限問題の空間1次元の大域分岐構造を得た.おのずと, 第1種極限問題と第2種極限問題の解構造の関連性の解明が今後の研究課題となる.第1種極限問題に対しては四ツ谷晶二教授, Wei-Ming Ni教授, Yuan-Lou教授のグループによって研究が進められてきたので,今後は上記研究グループとも緊密な連携を図った方が,SKTモデルに対する国際的な研究活性化に繋がると考えている.
|
Causes of Carryover |
平成27年度において購入予定であった専門書の発刊が延期となったため,28,458円は平成28年度使用額に繰り越した.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額として生じた28,458円は,当初購入予定であった専門書が発刊され次第,必要に応じて平成28年度分として請求した助成金と合わせて購入に充てる予定である.
|
Research Products
(7 results)