2016 Fiscal Year Research-status Report
非線形拡散を伴うSKTモデルに現れる定常パターンの大域分岐構造
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15K04948
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
久藤 衡介 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (40386602)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 反応拡散系 / 楕円型偏微分方程式 / 交差拡散 / 移流 / 分岐 / 安定性 / 極限系 |
Outline of Annual Research Achievements |
交差拡散(cross-diffusion)をもつロトカ・ボルテラ競争系(重定・川崎・寺本モデル,以下ではSKTモデル)の共存定常解の分岐構造と安定性に関する研究を行った.Lou-Ni-四ツ谷(2004)の研究により,SKTモデルにあるふたつの交差拡散のうち,片方の交差拡散係数を無限大に発散させると,共存定常解は「棲み分け」を特徴付ける極限系の正値解に漸近するか,交差拡散効果のない種の「減退」を特徴付ける極限系の正値解に漸近するかの一方が起こることが示されている.したがって,定常問題の見地から交差拡散の非線形効果を数学的に抽出するには,上記のふたつの極限系の研究が有効と考えられている.前者の「棲み分け」を特徴付ける極限系に関しては,Lou-Ni-四ツ谷らによって盛んに研究が進められ,解構造の様相が明らかになりつつある.その一方で後者の「減退」を特徴付ける極限系については,当該研究課題以前までは研究報告がほとんどなかった. 本研究課題においては後者の極限系の解析を行っている.本年度の研究実績として,定常解の大域分岐構造の詳細を解明したことが挙げられる.前年度までに定常解の集合は定数解から分岐し,分岐パラメーター(交差拡散効果のない種の増殖係数)がラプラス作用素の第2固有値に近づくと,定常解の1成分が発散すること(分岐枝の爆発)を証明していた.本年度においては,この分岐枝が爆発する際に,分岐パラメーターは爆発点である第2固有値に大きい方から漸近することを証明した.この研究結果は,爆発点の近くにある極限系の定常解が,時間発展問題の意味で線形化不安定であることを示唆している. また,Wei-Ming Ni教授(ミネソタ大)からの助言で,捕食生物が餌となる被食生物の場所に依存して拡散するような交差拡散項の数理解析を開始した.本年度には定常解の分岐構造の概要を得ている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交差拡散項をもつSKTモデルにおいて,交差拡散係数を無限大にした極限系の一つを解析してきた.定常解の分岐構造の究明という側面では,爆発点近傍の分岐枝の様子など,当初の計画以上に詳細な解構造を抽出できた.その一方で,定常解の安定性解析においては,非線形拡散に由来する解析の困難性により,不安定性の証明は形式議論にとどまっている.その意味で,定常解の安定性解析の側面においては,当初の計画より若干ではあるが遅れている.総合すると,本研究課題の進捗状況はおおむね順調であるといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
交差拡散をもつSKTモデルにおいて,片方の交差拡散係数を無限大にすると,定常解は「棲み分け」を特徴づける極限系の解もしくは「交差拡散効果の弱い種の減衰」を特徴付ける極限系の解に漸近することが知られている.今後の研究においては,とりわけ後者の極限系の解に漸近するような定常解の安定性の判定に注力する.二つの極限系のそれぞれの解が接合するサドルノード型の分岐点付近においては,前者の極限系に漸近する定常解が線形化安定であることが,近年Yuan Louらの研究で判明している.この結果と定常解の分岐構造を考慮すると,後者の極限系に漸近する定常解は線形化不安定であることが予想される.前年度までの形式的な議論を,数学的に厳密化し,上記の線形化不安定性の証明を完成させることが目標である. 被食生物と捕食生物の個体数変化を記述する数理モデルにおいて,餌となる被食生物の分布に応じて,捕食生物の拡散確率が決まるような拡散の相互作用を設定する.この相互作用は分数型の移流で表され,既存の研究で盛んに解析されてきた交差拡散やケラー・シーゲル型の移流とは異なるタイプである.平成29年度においては,分数型の移流が定常問題の分岐構造に与える効果を抽出する.とりわけ,分数型移流の係数が無限大にした際の,定常解の漸近挙動を極限系の解析を通じて明らかにする.分数型移流の解析については,必要に応じて山田義雄氏や大枝和浩氏(早大)との研究ディスカッションを通じて,効率的に行う. なお,SKTモデルの定常解に対する安定性解析や分数型移流の定常問題に対する解析においては,従来の純粋数学の見地からの理論解析に加えて,数値シミュレーションを積極的に実施する.また,本研究課題も後半期に入ることから,前半期にも増して誌上発表や口頭発表を積極的に行う.
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Causes of Carryover |
購入予定であった専門図書の出版が延期になったため,次年度使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究課題に関連する反応拡散系の解の数値シミュレーションを円滑に実施するための計算機の購入に物品費の一部充てる予定である.また,必要に応じて非線形偏微分方程式や関数解析学の専門図書を購入する.また口頭発表予定の,日本数学会秋季総合分科会(山形大学, 9月)や数理解析研究所研究集会(京都大学, 10月)を初めとして,研究情報収集や交換に役立つ国内研究集会参加のための旅費に充てる.必要に応じて,Rui Peng教授(江蘇師範大)らとの国際研究打合せのための渡航旅費にも充てる予定である.また,発表論文の別刷り代や専門知識を提供してくれる国内の研究者招聘の謝金も有効に使用する.
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Research Products
(9 results)