2016 Fiscal Year Research-status Report
高次元波動方程式の基本解に含まれる微分損失が非線形問題に与える影響の解析
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15K04964
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Research Institution | Future University-Hakodate |
Principal Investigator |
高村 博之 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 教授 (40241781)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 半線形消散波動方程式 / 半線形波動方程式 / 半線形熱方程式 / シュトラウス指数 / 藤田指数 / スケール不変消散項 / 有限時間爆発 / 時間大域存在 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度まで高次元空間における波動方程式の基本解に含まれる微分損失が解の最大存在時間にいかなる影響を与えるか調べてきた。その結果、非線形項にある微分損失は本質的ではなく、線形項にある微分損失が決定的に解の最大存在時間をコントロールしていることが判明した。 今年度は、微分損失を取り去った際に微分方程式に外力項として出現する、未知関数の時間微分で構成された非線形項の働きをより詳細に解析することに主眼を置いた。手始めに、その状況を包括的に表現していると思われる時間減衰係数を含む消散項を持った半線形波動方程式を解析対象にした。この方程式の解の性質は、消散効果によって未知関数の時間変数に関する2階導関数の影響が失われ、形式的にそれを削除した変数係数の熱方程式の解の性質に近くなることが以前から知られていた。それは小さい初期値に対して、時間大域解が存在するか否かを分ける半線形項の臨界冪が藤田指数と呼ばれるものになっているという結果である。これは消散項の時間減衰が時間変数に関して1次より低い指数で減衰しているときには完全に知られており、ちょうど1次のときはスケール不変という性質が消散項にあり未知の部分が多かった。線形自由な方程式の解からの類推で、このときは消散項に含まれる定数の大きさが問題になっており、1より大きければ消散効果が効き、解は熱方程式のそれに近くなる、つまり臨界冪は藤田指数になっている、と予想されていた。 本研究では、既存の半線形熱方程式を解析する手法ではなく、未知関数の導関数に特別な変換を施すことによって、半線形波動方程式を解析する手法を採用することに成功し、消散項に含まれる定数が1より大きくても臨界冪が藤田指数より大きくなる場合があり、それが半線形波動方程式の臨界冪であるシュトラウス指数に関係した量になることを示すことに成功した。これは他に例を見ない完全に新しい結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
未だ本研究の目標の1つである初期境界値問題に入ることができていないが、半線形消散波動方程式に対して今まで報告者が発展させてきた半線形波動方程式に対する解析手法を応用することができ、非常に新規性の高い結果を得ることができた。それは未知関数の導関数に簡単な掛け算作用素を施して新しい積分方程式を作るだけの単純なアイディアではあるが、予想をはるかに上回り、非線形消散波動方程式の分野で初めて、明確に解の波動的性質を抜き出したことになった。年度後半に多数の講演依頼を受けて研究発表を行ったことからもわかるように、半線形放物型方程式の研究者たちへのインパクトも大きかったようである。特に、後述の2017年3月に東北大学で開催された国際研究集会での研究成果発表後に、招待講演者の中で特に著名な研究者であるD.Fang氏(中国浙江大学教授)から多数質問を受け、口頭で非常に面白い結果であるとの評価を受けた。以上の状況を踏まえ、この評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は半線形波動方程式の初期境界値問題の解析に入りたい。現在知られているほとんどの解の爆発の結果は、Yordanov&Zhangの重み付き汎関数法を用いている。初期値問題では重みはラプラシアンの第一固有値と時間に関して減衰する指数関数との積と取ることができるので全く問題にならないが、初期境界値問題の場合には重み関数の因子であるラプラシアンの第一固有値の代わりに基本解を取らざるを得ず、特に空間2次元では時間に関して対数減衰のロスが生じる。これは劣シュトラウス冪では汎関数の多項式時間増大に吸収できるため問題にならない。しかし、ちょうど臨界のシュトラウス冪の場合には、この仕組みが働かず、最近になってようやく解の爆発がLai&Zhouによって証明された。しかしながら、その減衰ロスのため、最大存在時間評価が全く得られているない。本研究では初期境界値問題に、報告者が大きな未解決問題を解いた時に用いた評価の逐次代入法を組み合わせることによって、この困難を解消できると予想している。これは是非とも先述のLai氏(中国麗水学院教授)と共同研究で遂行したいと考えており、すでに研究打ち合わせを開始している。 また、もう1つ、半線形消散波動方程式の解析の続きで、消散項が強い減衰をもち、線形自由な解が消散項のない波動方程式の解に漸近するような状態のとき、つまり時間に関して1次より強い減衰をもつ消散項であるとき、臨界冪が消散項のない場合と同じシュトラウス指数になることを示すことも行いたい。こちらは、今まで全く解析のない分野で、これが得られた場合には非平坦計量空間の非線形波動方程式で期待される結果が得られる可能性が出てくるなど、そのインパクトは大変大きなものになると期待される。これも研究の効率を考えて、本報告書の主結果と同様に先述のLai氏との共同研究の中で解決したいと考えている。
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Causes of Carryover |
消散項付き波動方程式への専門家である西原健二氏(早稲田大学経済学部教授)を招聘し、消散波動方程式の熱的性質を扱う解析手法に関する専門的知識の提供を受ける計画を立てていたが、年度末のため氏の定年退職時期と重なり報告者との都合が合わなく止むなく中止したことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記繰越分に関しては、その使用対象である西原氏による専門的知識の提供を今年度内に依頼する予定である。その他の次年度請求分については、当初の計画通り、本研究の共同研究者となったLai Ning-An氏(中国麗水学院教授)を所属期間に中期間招聘してさらに共同研究を進める。その際に、国内の非線形消散波動方程式の専門家も複数招聘して、国際研究集会も開催する予定である。また、ほぼ確実に得られると思われる本研究の成果を、山形大学で開催される日本数学会秋季総合分科会で一般講演で報告し、専門家達からレビューを受ける。同様の目的で、国内研究集会に2回参加し、研究発表を行う予定である。
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