2016 Fiscal Year Research-status Report
エントロピー圧縮による力学系・流体力学の新しい解析手法の開発
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15K04986
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
荒井 迅 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (80362432)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 数値解析・数理モデル / 力学系 / アルゴリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度に引き続き離散力学系の有向グラフによる表現を効率的なデータ構造を用いて改良する研究と、その力学系理論への応用の研究を主に進めた。相空間を表す二分木を簡潔データ構造の一種を用いてコンパクトに表現し、少ないメモリで力学系の大域的計算を実行するアルゴリズムの開発を進めている。本年度はそれらのコーディングを改良し、また力学系的な観点からの効率化と組み合わせることで、応用範囲を広めるための研究を行なった。さらにグラフクラスタリングなど、従来とは別の手法と組合せて、再帰的で分解が難しい構造の理解に繋げるための基礎研究も進めた。 この成果に基づいた複素エノン写像という重要な力学系についての研究も引き続き継続している。本年度は特に従来の計算結果よりもジュリア集合の体積が大きく、メモリ量的にこれまで計算が困難であったパラメータにおいて、新しい計算結果が得られた。これにより、保存系に近い、今までの方法では大域的な計算が困難な力学系の研究にも本研究の手法が応用できる可能性が示された。 理論面においては、力学系が持つダイナミカルな性質が、大域的計算における計算の困難とどのように結びついているかの基本的な関係について調べた。特に、リアプノフ数や不変集合のハウスドルフ次元などの重要な不変量と、計算に必要なメモリ量との間に(かなり強い仮定のもとではあるが)、一定の関係があることを示すことができた。これは従来の数値計算に基づく観察を支持する結果となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最初の段階である、簡潔データ構造を用いたアルゴリズムの開発と実装に成功したこと、さらにその応用として具体的な成果が引き続き得られているので、これらの面では予定通り、もしくは予定よりも順調に進行している。理論面でも力学系的な不変量と計算の関係の理解は進んでいるが、情報エントロピーを理論的に力学系の研究に取り入れる研究の進展は予定よりも若干遅れ気味である。これらを総合的に判断して、進捗状況はおおむね順調といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に特に変更はなく、当初の方針通りに進める予定である。アルゴリズム開発の面では、簡潔データ構造に加えてエントロピー圧縮を用いた力学系の大域的計算アルゴリズムの開発と実装を進める。応用面では離散力学系だけでなく、連続力学系や、流体力学の計算で得られたデータへの適用も目指す。また情報エントロピー理論の力学系への応用については、エノン写像における情報エントロピー・位相的エントロピーの計算例を数多く得ることで、力学系の不変量と情報エントロピーの関係のをより明らかにする。
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Causes of Carryover |
出張の予定を学内用務との兼ね合いで変更するなどしたため、当初の予定よりも旅費が減額された。また招聘予定の研究者の都合により招聘が次年度にずれ込むなどしたため、次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越された旅行や招聘は29年度内に執行予定であり、それにより次年度使用額は使い切る予定である。
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