2015 Fiscal Year Research-status Report
星間・銀河間ガスで加速された準熱的粒子による非平衡放射と加熱
Project/Area Number |
15K05024
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
政井 邦昭 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (80181626)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 銀河団 / 乱流加速 / 分布関数 |
Outline of Annual Research Achievements |
銀河団形成の衝突-合体過程で衝撃波や乱流は粒子を加速しガスを加熱する.実際,Mpcスケールに広がる電波ハローは銀河団衝突していると見られる熱的X線光度の大きい銀河団に多く観測される.銀河団衝突の過程で形成される粒子のスペクトルを調べ,放射の特徴を明らかにして,電波ハローと整合的にコアの熱的進化を探る研究を進めている. 平成27年度は,乱流加速された粒子と銀河団の熱的進化との関係を調べるため,熱的粒子から非熱的粒子まで整合的に分布関数を計算するFokker-Planckコードの開発と,サバティカルを利用してフランス・サックレー研究所SApで冷却コアの研究を行った.銀河団コアのガスの放射冷却時間は宇宙年齢より短くなりうるが,電波ハローの起源が銀河団衝突で乱流加速された電子とするなら,乱流の減衰後,加速された粒子が熱化することでガスの温度が上がり,この冷却問題は解決しうる.実際,電波強度とガスの温度には正の相関が観測されている.そこで,冷却コアを統計的に調べてきたサックレー研究所の銀河団研究者たちと議論しながら,この可能性を検討した. Fokker-Planckコードについては,移流項・拡散項それぞれで小角度散乱の効果を入れた定式化を試行し,数値計算上の人工的な加熱を排除する数値解法 (Crank-Nicholson法,Chang-Cooper法) のテストを行った.また,他の電波ハローに関する研究の,乱流の減衰後も加速粒子は非熱的なままである (Dogiel et al. 2007),乱流は始めから高温の熱的分布を形成する (Petrosian & East 2008, Chernyshov et al. 2012) という2つの矛盾した結果を再現することも試み,言及されていない仮定も含め,それぞれの計算条件を調べた.これらのうち,確証を得た結果については学会等で報告した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度の主要課題であったFokker-Planckコードの開発・テストについては概ね順調に進んでいるが,拡散項の積分方法や方程式の解法について方針を確定するには至ってない.いろいろな条件の下でさらに試行する必要がある.また,冷却コアの加熱について,本研究では銀河団衝突を主要因と考えて進めているが,その重要性を示すために,他の可能性,とくに銀河団中心部のブラックホールの活動を適切に評価する必要がある (「今後の研究の推進方策」課題参照). 並行して,乱流加速で生成された準熱的粒子が引き起こす非平衡放射の輝線を観測的に同定するための研究も進めているが,概ね順調である.関連して,銀河団から観測された未同定の輝線の起源に関し,サバティカル期間中パリXI大学IASにも滞在して共同研究を行った.この輝線はダークマター起源の可能性が主張され,候補として,未知の素粒子である不活性ニュートリノの崩壊が考えられているが,この波長域には既知の元素の輝線も混在し,検出器の較正精度によっては同定に疑問が残る.そこで,可能性のある他の輝線についてIASで理論的に調べていたが,一方で,この輝線の存在に否定的な観測結果も報告された.現在,観測的にも理論的にもこの輝線についての結論は出ておらずわれわれの研究も継続中である.
|
Strategy for Future Research Activity |
テクニカルな課題:Fokker-Planckコードの開発・テストについては概ね順調に進んでいる.しかし,われわれのコードに限らず,インジェクション項の無いこの種の計算では,拡散項の積分方法や方程式の解法に依存して,微妙に異なるエネルギースペクトルが得られることが確認できた.分布関数を応用する目的を明確にして,それに最適化した解法を見出す必要がある.本研究では,「研究実績の概要」で挙げた類似研究と違い,非熱的粒子については電波ハローを説明しうる~GeV電子が生成できれば十分で,スペクトルが精確にベキ型になる必要はないが,非平衡放射に関わる熱的粒子~準熱的粒子のスペクトルは精確に求める必要がある. サイエンスの課題:サックレー研究所SApの銀河団研究グループとの議論で,彼らは自身の観測的研究から,冷却コアの問題は,銀河団衝突よりむしろ銀河団中心部の巨大銀河にあるブラックホールの活動で解決できるのではないかと考えていることが判った.しかし,理論的観点からは,このようなブラックホールシナリオがうまく行くには微妙な条件の調整を必要とし,普遍的な描像とは言い難いところがある.また,ブラックホールの活動だけでMpcスケールの広がりを持つのは容易でないため,電波ハローの加速電子については別の起源を要する可能性もある.銀河団衝突シナリオの有効性を示すためには,加速から加熱に移行する過程についてもう少し説得力のある議論が必要である.
|
Research Products
(3 results)