2017 Fiscal Year Research-status Report
星間・銀河間ガスで加速された準熱的粒子による非平衡放射と加熱
Project/Area Number |
15K05024
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
政井 邦昭 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (80181626)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 2次Fermi加速 / Fokker-Planck方程式 / 準熱的粒子 / 非平衡熱的放射 |
Outline of Annual Research Achievements |
銀河団の形成・進化の過程で銀河団衝突で生じた衝撃波や乱流は銀河団ガスの粒子を加速する.実際,銀河団衝突していると見られる系で,GeV電子放射の電波ハローや電波レリックが観測されている.前者はMpcスケールに広がるので,衝撃波よりも乱流によるin-situ粒子加速を考えるのが自然である.乱流が減衰するに連れ,加速された粒子の一部は熱的粒子と相互作用して加熱に寄与すると期待され,実際,電波強度とガスの温度や熱的X線光度の間には正の相関が見られる.これらの観測事実を踏まえて,銀河団衝突の過程で形成される粒子のスペクトルを調べ,放射の特徴を明らかにして,電波ハローと整合的に銀河団コアの熱的進化を探る研究を進めている. 平成29年度は,乱流で加速された粒子の分布関数が,乱流の減衰とともにどのように変化するか,乱流のカスケードおよび加速された粒子と熱的粒子との相互作用に着目して,熱的粒子から非熱的粒子まで整合的にFokker-Planckコードで計算を進めた.銀河団コアのガスの放射冷却時間は単純に計算すると宇宙年齢より短くなりうる.が,電波ハローの起源が銀河団衝突で乱流加速された電子による放射なら,乱流の減衰後,加速された粒子が熱化することでガスの温度が上がりコアは安定化する.加速された粒子がCoulomb衝突によって熱化されるには,移流項が抑制され拡散項が支配的になる必要があるが,拡散過程をより高次の項まで計算に含めることで加熱されうることを示した.さらに,熱的粒子との相互作用で生じる準熱的粒子によって非平衡放射状態にあるとすれば,衝突励起が抑制されるので放射強度に比して粒子のエネルギー損失が抑えられ,実効的な放射冷却時間が延びてやはりコアは安定化される.この効果を示すため,熱的分布への遷移状態にある非Maxwell分布関数に基づいて非平衡状態の熱的放射過程を調べた.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度の主要課題であった,加熱された粒子の熱的分布への遷移状態における分布関数の定量的計算と,その分布関数に基づく,とくに準熱的粒子が存在する場合の非平衡状態の熱的放射の計算のうち,後者の非平衡放射計算についてはあまり進んでいない.一つには,乱流の減衰後の遷移状態にある分布関数が複雑な形をしており,放射過程の計算がそれほど容易でないことによる.また,もう一つは,本研究で考えている銀河団衝突で生じる乱流による加速・加熱の他に,一般にはそれ以上に放射冷却コアの安定化に働くと期待されている,中心のブラックホールの活動についても並行して研究を始めたことによる.これは,ブラックホール近傍のガスの運動は意外に小さかったという,X線天文学衛星HitomiによるPerseus銀河団の観測結果に触発されたもので,ブラックホールの寄与を定量的に評価することができれば,本研究の科学的意義をより強調しやすいと考えている.
|
Strategy for Future Research Activity |
テクニカルな課題:Fokker-Planckコードによる分布関数の計算はかなり進んだが,分布関数から非平衡の熱的放射計算に研究を進めるうえで影響を及ぼしかねない,まだ不確かな問題点も残っている.遷移状態の分布関数が複雑なため容易ではないが,引き続き近似的な手法も含めて検討を進める. サイエンスの課題:本研究と相補的な意味をもつ銀河団中心のブラックホールの活動について,冷却ガスのふるまいや星形成活動との関係も考察しながら定量的に評価する.平成29年度の研究の見積もりでは,ブラックホールからのアウトフローはせいぜいコア半径の1/10に広がる程度で,コアの熱的進化に大きな影響を及ぼすとは考えにくい.実際,X線天文学衛星HitomiのPerseus銀河団の観測結果もこれと矛盾しないが,活動期が繰り返し起こる回数も含めて,物理過程をさらに詳しく定量的に調べたい.
|
Causes of Carryover |
研究の積み残しが生じたためバックアップ用に予定していた物品の購入を急ぐ必要がなかったこと,ソフトウェアを複数ライセンス購入したため他のリソースを充てたことなどにより残金が生じた.平成29年度内に徒に使うことをせず,当初の予定を延長して研究を継続するため平成30年度に有効に使う判断をした.
使用予定は決まっているので執行計画に大きな変更は生じない.
|
Research Products
(3 results)