2015 Fiscal Year Research-status Report
星間空間におけるアミノ酸生成ネットワークの総合的解明に向けた分光学的研究
Project/Area Number |
15K05027
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
尾関 博之 東邦大学, 理学部, 教授 (70260031)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 かおり 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 准教授 (80397166)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アミノ酸 / サブミリ波分光 / グリシン / 星間物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
星間空間において、生命素材物質の中でも最も重要なアミノ酸はまだ決定的な検出報告はなされていない。そのため、アミノ酸に至る化学反応ネットワークを総合的に検討した上で、アミノ酸生成に深くかかわる可能性のある分子(前駆体)の探索がアミノ酸自体のそれとともに重要度を増してきている。本研究では、もっとも単純なアミノ酸であるグリシンの生成反応機構として古くから提唱されているストレッカー反応にまず着目している。この反応経路において、グリシンの直接的な前駆体はアミノアセトニトリルという物質である。我々はこの分子の基底状態における分光データをこれまでに整備してきたところであるが、本研究の第一段階として、アミノアセトニトリルの振動励起状態の帰属を目指している。 アミノアセトニトリルは温度換算で200-300K程度の低エネルギー振動励起状態が3種類存在することが分かっている。もしこれらの星間空間における検出が基底状態のそれと同時に可能になれば、アミノアセトニトリルの存在領域の物理温度の推定が可能になる。実験室での純回転スペクトル測定において、基底状態のものとして帰属ができなかったサテライト線を中心にサーベイ測定を行ったところ、これまでに6種類の振動励起状態のスペクトル線の同定に成功した。各振動励起状態について得られた回転定数および相対強度の情報を基にすると、これらの内訳は、前記3種類の振動励起状態の基音、倍音、および結合音由来のものであると結論できた。 今後はストレッカー反応以外のグリシン生成機構に焦点をあてる。化学反応ネットワークを考える上で重要度は高いが分光学的情報の不備が観測を妨げている分子に着目し、それらの同定作業を試みていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題を開始する上での第一着手と考えていた、アミノアセトニトリル振動励起状態の帰属に成功したため、おおむね順調に進展していると判断している。この成果の概要は昨年度のThe 70th International Symposium on Molecular Spectroscopy(Champaign-Urbama, USA)、および第9回分子科学討論会(東京)において報告した。一方、振動励起状態として帰属できた遷移は、ミリ波帯に限っても2000本を優に超えており、今尚分光測定実験の進捗とともに増え続けている。今後測定の収束に向けた検討と、追加測定に関するより迅速な作業が必要であると考えている。当面の方針としては、本研究でこれまでに得られたすべての成果を一度に報告するのではなく、帰属が完全に確定し分子定数も十分精度良く決定した3種類の振動励起状態の報告を先行させる予定である。これらについては現在Astrophysical Journal誌に投稿準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況の欄でも述べたとおり、アミノアセトニトリル振動励起状態の測定を速やかに収束させ、成果として完全にまとめたい。そのうえでこれらの情報を天文コミュニティーに対してデータベースとして広く提供することにより、星間空間におけるアミノアセトニトリルの探査に貢献することを目指す。 実験室分光では、ストレッカー反応以外のアミノ酸生成機構に着目する。概要でも述べたところであるが、グリシン生成ネットワークを構成する分子の中でも分光学的な情報が不足しているために観測をすることができない分子が少なからず存在する。研究二年目の平成28年度は、これらの分子のうち、メチレン(CH2,CHD,CD2)、ヒドロキシルアミン(NH2OH)、およびアミノメタノール(NH2CH2OH)を候補とする。メチレンおよびメチルアミンの分光学的情報は、現在までにある程度提供されているが、観測に適した周波数帯のカタログ値の精度が必ずしも良くないため、これを改善していく必要がある。また、アミノメタノールに関しては分光データは我々の知る限り存在しない。以上の課題について、海外共同研究者(フランス リール第一大学原子分子物理学研究所 Stephane Bailleux博士)とも連携を取りながら、進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
当初の支出計画では、スペクトル測定にあたり試料導入のための実験器具の製作・購入、試料の調達、および検出器を極低温の動作状態に保つための寒剤(液体ヘリウム)の購入に充当する予定であった。しかし、研究初年度のスペクトル測定は、当初常温で動作する固体検出器を用いたため、年間の液体ヘリウムの使用量が結果的に少なくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
常温動作の固体検出器は取り扱いが容易ではあるが、感度的には十分なものではないので、今後は冷却検出器を連続的に使用する予定である。次年度繰り越し分は、もっぱら液体ヘリウムの調達に充当する予定である。
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