2016 Fiscal Year Research-status Report
すばる望遠鏡超広視野観測で探る近傍銀河の形成進化史
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15K05037
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
小宮山 裕 国立天文台, ハワイ観測所, 助教 (20370108)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 画像処理 / 銀河天文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は主に「PSF測光パイプラインの構築」を目指し、HSC標準画像処理パイプラインで問題となっていた、大きな構造の天体があった場合の空の明るさの推定およびその差し引きとゴーストの除去について精力的に開発を進めてきた。 HSC標準画像処理パイプラインは、空の明るさを一定のグリッドから推定しているために大きな構造の天体がある場合には局所的に空の明るさを過大評価してしまうことが分かっていた。そこで空の明るさは視野全体でなめらかに変化することを使って、大きな構造の天体がある箇所でも空の明るさを適切に推定する手法の開発を行ってきた。この手法により、大きな構造の天体、特に近傍銀河の周辺でも空の明るさを適切に推定し差し引くことができるようになり、今まで検出ができていなかった天体も測光できるようになった。 HSC画像には強度が強く広がっているゴーストが発生することが知られており、これらにより局所的に天体の検出効率が低下したり、測光精度に影響を与えることが分かっている。ゴーストが視野内のどのような場所にどのような形で出現するかは光線追跡から計算することが可能であり、強度の強いものは星の周辺に広がる円形ゴースト、視野内に写っている明るい星と光軸を挟んだ位置に発生する彗星状ゴースト、視野外の明るい星が視野周辺に作るアーク状ゴーストが主要な三種であることが分かった。これらは明るい星の位置が分かればあらかじめどこに出現するかが分かるため、自動的にその発生位置を推定して合成前の個々の画像でマスクすることが可能である。このような原理でゴーストの除去法の開発を行った。またこれらのゴースト除去法はHSC標準画像処理パイプラインにも標準として採用されることとなり、現在導入が進められている。このように、本研究がHSC標準画像処理パイプラインの改良にも大きく貢献することとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究開始時の年次計画では平成28年度までに画像解析手法とPSF測光パイプラインの開発を進める計画であった。平成27年度には「画像処理パイプラインの最適化と最終画像PSFの検討」と「PSFの安定性の検討」は完了しており、平成28年度に開発を進める予定であった「PSF星選択の自動化の検討」についても先行して取り組んだ。そのため、平成28年度には「PSF測光パイプラインの構築」の一環として、大きな構造の天体があった場合の空の明るさの推定およびその差し引きとゴーストの除去法の開発を入念に進めることができ、HSC標準画像処理パイプラインへの導入にまでこぎつけることができた。研究計画は当初計画通りに進捗しており、十分な達成度で本研究が進められてきたと考えている。 また、本測光手法の開発とともに実データへの適用を通して、手法自体の発表および本手法を通して得られた結果の発表も行ってきた。手法の発表として、彗星状ゴーストの除去法(天文学会秋季年会、すばるユーザーズミーティング)、アーク状ゴーストの除去法(天文学会春季年会、すばるユーザーズミーティング)の発表を行った。同時に科学成果の発表として、こぐま座矮小楕円体銀河の星種族の研究(第7回すばる国際会議)、近傍うず巻き銀河NGC4631のハロー構造の研究(第7回すばる国際会議)等の発表を行っており、後者についてはアメリカ天文学会誌への投稿を行った(共著論文)。国内研究会のみならず国際研究会でも発表を行うことにより、近傍銀河研究者を含めた多くの研究者に広く画像解析手法を知ってもらうことができ、特にゴースト除去については多くの研究者から期待と好評を持って受け止められている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画の最終年度である平成29年度は、これまでに確立した画像解析手法とPSF測光パイプラインを実データへ適用し、測光カタログの作成を通して近傍銀河の形成進化史研究を進めていく。特に、今まで詳細には調べられてこなかった銀河周辺部に着目し、どのような星生成史を持つ星種族で構成されているか、それらの星種族が銀河全体の中でどのような分布を持っているかなどを明らかにすることで従来とは異なる観点から研究を進めていく。また、今まで観測が行われてきた銀河本体・中心部についてもHSC画像の深さを生かした研究を進めていくことができる。例えば主系列星の色-等級分布から連星系割合を求める研究や淡く広がったHII領域の研究など、従来の研究からさらに一歩進んだ研究を行うことが可能である。このような研究の広がりの可能性も考えて、広い視野を持って研究を進めていく。そして研究成果は論文としてまとめ、学術専門誌に投稿する。 また本研究の成果は日本天文学会で発表するとともに、世界各国の近傍銀河研究者が会する海外研究集会においても発表を行う。特に海外研究集会においてはすばる望遠鏡にはない観測データへのアクセスを有する研究者との議論・情報交換を通じて今後の共同研究への進展を図り、近傍銀河分野の研究の活性化・発展を目指していく。 また本研究により開発された画像解析手法とPSF測光パイプラインは近傍銀河研究のみならず、星やクエーサーなどの点光源天体に関する様々な研究に利用することが可能と考えられる。このため、すばる望遠鏡やHSCデータ解析サポートなどのホームページに情報を公開し、多くの研究者に利用してもらえるように普及活動を進めていく。 最後に本研究の成果を文書としてまとめ、報告書を作成する。
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Causes of Carryover |
本年度予定されていた研究会に参加することが難しくなったため、旅費として確保された分を次年度へ繰り越すこととしたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度には国際研究会2件に参加する予定であるため旅費の不足が予想されるため、旅費としての使用を計画している。
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Research Products
(3 results)