2017 Fiscal Year Research-status Report
正準テンソル模型がつなぐ量子重力とランダムテンソルネットワーク
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15K05050
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
笹倉 直樹 京都大学, 基礎物理学研究所, 准教授 (80301232)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | テンソル模型 / 時空生成 / 量子コヒーレンス / 量子重力 / 正準テンソル模型 / リー群 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は正準テンソル模型の量子論において非常に本質的な進展があった。これは基礎物理学研究所に1年間滞在したオランダ・Radboud大学の修士学生Obster氏との共同研究である。 本研究課題の最も重要な課題は時空の生成を正準テンソル模型から示すことにある。ローレンツ、ドジッター、ゲージ対称性など、現実の時空はリー群的対称性に満ちており、時空の生成とリー群的対称性は密接に関連しあっていると予想される。実際、前年までの研究から正準テンソル模型の波動関数の特異点とリー群的対称性とが関連していることはN=2、3においてその兆候があったものの一般的な議論は皆無であった。今年度我々が気づいたのは、その波動関数はある複素振動積分で表されているため、リー群的対称性をもつ配位に対しては積分が量子論的にコヒーレントに効く一方、外れた配位では強く抑えられることであった。そのため、リー群的対称性をもつ配位が強いピークになる傾向が現れる。このことは定性的には一般的に成立するはずであるが、具体的にその波動関数において示すのは容易ではなかった。簡単のため、まず我々はランダムテンソルネットワークの量子論的分配関数がリー群的対称性のある配位において強いピークを持つことを具体的な計算で示した。次に、正準テンソル模型の波動関数を調べた。この場合、前者の量子論的分配関数との違いは、積分変数が一つだけ多いことであるが、その解析はランダムテンソルネットワークとはかなり異なり非自明であった。何故なのかは、次の物理的に重要な結果で明らかになった。実は正準テンソル模型の波動関数のピークは、正定値符号だけでなく、むしろローレンツ符号のリー群的対称性のピークがより強いピークを持ち、その一つの余分な積分変数は時間方向のような役割を持つのである。これは、正準テンソル模型においては、空間の生成というよりは、時空が生成されることを示す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
思いのほか順調に研究が進展している。量子正準テンソル模型の波動関数が時空的なリー群的対称性をもつ配位において強いピークを持つことを示したことは、本研究課題においてコアとなる研究成果であり、一つの大きな塚を成功裏に通過したと言える。当初の計画では来年度の実行課題であったが、成功裏に先取りすることができた。最終的に示すべき時空間の生成という課題に向けて、その礎となる成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
リー群的対称性を持つテンソルの配位が強いピークを持つことを示したが、これが時空の生成と実際に関連するかは現在不明である。この問題の解決には未だ幾つもの難問があるが、主には次の二つの課題を解決する必要があると思われる。 (1)リー群的対称性を持つテンソルの配位は無数にあるが、ピークの大きさを評価し主要なものを知るにはどうすれば良いのか。 最も可能性の高い解決方法はピーク付近の摂動について系統的に波動関数を評価する方法を確立することである。リー群的対称性がピークにあるため、その摂動はリー群の表現論により分類することができ、系統的な評価も可能ではないかと考えている。ただ、波動関数を評価するための積分が数学的にも難しい振動積分と言われるもので、その取り扱いは難しい。一般論としてピカール・リフシッツ理論があるが、具体的に量子正準テンソル模型の波動関数にどのように適用すれば良いかを理解する必要がある。 (2)テンソルの配位が時空であるとはどういう意味か。テンソルの配位と時空との対応関係を明らかにする必要がある。 この課題については、現在大きく進展しており、近々論文を書き上げる予定である。これまでは、テンソルはファジー空間を定義する関数代数の構造定数を表すという理解であったが、この理解の仕方では具体的な時空描像との関連が抽象的すぎて物理的な把握、すなわち、時空のトポロジーや距離構造の把握が難しいだけでなく、他の研究者への説明も困難であった。最近テンソルはデータ解析や人工知能などの応用で本質的な役割を果たしており、テンソルの解析方法に関する数学的手法の発展も推進されている。我々は、その数学的手法を正準テンソル模型に応用することにより、具体的に時空の相対論的発展方程式が得られることを見出した。この突破口により、正準テンソル模型における時間発展と時空との関係は来年度の主要な研究課題となる予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が20万円ほど生じたが前年度の未使用額からの増加は3万円ほどなので概ね順調に使用している。今後も予定通り研究会への参加や議論のための研究所訪問などに積極的使用する予定である。また、新しい展開として次のような使用の可能性も考えている。(1)共同研究者として学生がおり、学生の研究会参加のための旅費(2)従来からの量子重力の研究会への参加だけでなく、テンソルの解析等に関する応用数学に関する研究会への参加旅費(3)テンソルの数値計算の必要性から数値計算環境の整備費用
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