2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K05051
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉田 健太郎 京都大学, 理学研究科, 助教 (30544928)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 超弦理論 / AdS/CFT対応 / 可積分性 / カオス / 乱流 / 超重力理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
ゲージ理論と重力(弦)理論の双対性(ゲージ・重力(弦)対応)は、超弦理論における中心的な研究課題の一つである。本研究課題では、このゲージ・重力(弦)対応の雛形であるAdS/CFT対応に注目し、その背後に存在する可積分構造とその変形を研究することを目的としている。
本年度の研究においては、1) AdS空間中のIIB型超弦理論の可積分変形、2) 非可積分な背景時空上における古典的な弦のカオス的な運動、乱流的な振る舞い、の二つの点に注目して研究をおこなった。
1) については、Yang-Baxter変形と呼ばれる系統的な可積分変形の手法を用いた研究をおこなった。特に、supercoset構成を具体的に実行することで、R-Rセクターとディラトンも含めて、様々な可積分な背景時空を導出した。この際、通常の超重力理論の解になる背景も得られたし、ある解は一般化された超重力理論の解になることがわかった。本研究成果に関しては、米国、ポーランド、インド、台湾などにおける多数の国際会議で招待講演をおこなった。 2) AdS/CFT対応の文脈で研究される弦理論の背景時空には、可積分な時空が多数存在する。ゲージ理論の閉じ込め相に対応する重力解はその一例である。この時空上の弦の古典的運動について、カオス・乱流的な振る舞いを研究した。またAdS/QCDのセットアップを用いて、D-ブレインのカオス的な古典運動を調べた。このカオス的な振る舞いはゲージ理論側では、量子カオス的な振る舞いを示唆するため、非常に興味深い。この研究成果は、その重要性が評価され、Physical Review Letterに掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
この研究をはじめた当初は、AdS/CFT対応の可積分変形に焦点をおいていた。そのため、可積分変形の研究などから弦理論の基礎的な進展に関係する重要な物理がわかるはずがない、と強く非難する研究者がいたことも事実である。しかし、実際には、そのような批判を覆す結果が得られているため、当初の計画以上に進展していると言える。
可積分変形の研究を通じて、通常の超重力理論の運動方程式を満たさない弦理論の背景時空が発見された。この時空の発見を契機にして、2016年、TseytlinとWulffは超弦理論の最も基礎的な定式化であるGreen-Schwarz型の超弦理論のkappa対称性の拘束条件を具体的に解くことによって、一般化された超重力理論の運動方程式を導出した。この結果は、30年以上に渡って信じられてきた超弦理論の低エネルギー有効理論が書き換えられることを強く示唆する。この一般化された超重力理論は、我々の研究グループ(坂本純一、酒谷雄峰、吉田健太郎)の研究成果であるDouble Field Theory的な描像を通じて、超弦理論の新しい基礎的な側面が解明されようとしている。(論文雑誌に投稿中のため、未だ業績欄には記入されていない)
この一般化された超重力理論については、Domenico Orlando, Susanne Reffert, 坂本純一との共同研究によって、様々な解を具体的に構成できた。この解のリストは、一般化された超重力理論の研究を推進する上で重要な役割を果たしており、Journal of Physics Aの2016年度のハイライトペーパーに選ばれた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果に基づいて、一般化された超重力理論の研究を積極的に推進する重要性が明らかになった。この一般化された超重力理論の研究は、フランスの研究グループと日本の我々の研究グループが中心的な役割を果たしており、激しい競争を繰り広げながら、目覚ましい勢いで進展している。現在、Double Field Theoryに立脚した一般化された超重力理論の研究が進んでおり、フランスの研究グループを一歩リードしていている。今後もこの研究成果を深化させるのみならず、フランスの研究グループとも密な議論をして、国際的な共同研究を展開することで、超弦理論の基礎的な理解に対してパラダイムシフトが起きるようなインパクトのある研究成果を挙げたい。
また、現在継続中のポーランドとスイスの研究グループとの国際共同研究の更なる強化を図ることで、AdS/CFT対応における可積分構造の変形理論についても理解を深めたい。
更に、非可積分な弦理論の背景時空に関しても、古典弦のカオス的な運動に対応するゲージ理論側での複合演算子に対する解釈を明らかにすることにより、ゲージ・重力(弦)対応の背後に潜む基礎的な機構について研究を進めたい。
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Causes of Carryover |
京都大学における全学での大型競争的資金の獲得に成功したため、本年度の基盤Cから支出をする必要がほとんどなかった。本研究課題の内容と同様の内容で申請したため、研究課題の遂行についてはまったく問題はなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の経費と合算すると200万円ほどになるので、この合算経費を用いてポスドク研究員として、宝利剛氏を平成29年5月1日から平成30年3月31日まで雇用する。既に、本学における雇用に関する事務手続きはすべて終了している。
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Research Products
(18 results)