2019 Fiscal Year Research-status Report
曲がった時空、境界のある時空の物理から見る、超弦理論の特異な性質
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15K05054
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山口 哲 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (90570672)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 場の理論 / アノマリー |
Outline of Annual Research Achievements |
アノマリー(量子異常)は場の理論において非常に重要かつ有用な概念である。アノマリーの研究の1つの重要な方向はアノマリー流入である。これはSPT(Symmetry Protected Topological)相とその境界の理論のアノマリーが関係しているというものである。この関係を明らかにする際に重要になるAtiyah-Patodi-Singer(APS)指数定理について2つの方向から研究を行った。
1つは、以前私が二人の格子ゲージ理論の研究者とともに提案していた、APS指数とドメインウォールの存在下でのフェルミオンについての提案の一般化と、その数学的証明である。これは、2人の格子ゲージ理論の研究者と3人の数学者との共同研究である。以前は平らな時空でゲージ場の背景だけが存在する場合のAPS指数に関するものであった。また、以前は厳密な証明を与えることは出来ていなかった。今回は曲がった時空を含む一般的な状況に定理を拡張し、その数学的に厳密な証明を与えた。
もう一つは格子ゲージ理論でのAPS指数定理についてである。境界のない場合の格子上での指数定理は、カイラル対称性を厳密に保つオーバーラップDirac演算子を用いて非常によく記述することが出来た。しかし、境界がある場合のAPS指数定理に関してはオーバーラップDirac演算子が有限格子間隔では非局所的であるためにうまくいかないと考えられてきた。これに対して我々はドメインウォールとWilson-Dirac演算子による定式化を行い、APS指数をエータ不変量と呼ばれるもので表すことを提案した。これは実際格子間隔を小さくする極限で、連続理論のAPS指数と一致することを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は境界や欠陥をもつ場の理論に関してアノマリーの観点から研究を進めてきた。曲がった時空、あるいは境界や欠陥をもつ時空の場の理論に関して、アノマリーの観点は強力なツールを与えることを再確認し、興味深い成果を得ることができた。
また、これまで場の理論とアノマリーの研究で得られた成果をAdS/CFT対応を通じて弦理論にフィードバックすることを考えている。そのための準備として、高次形式対称性などの新しいタイプの対称性とAdS/CFT対応の関係に関する過去の文献を調べ、情報を得ている。こちらに関しては、まだオリジナルの成果を出すに至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究を通じてアノマリーの観点は非常に有用であることが分かったので、続けてこの方面の研究を続けていく。特に欠陥と関係が深い高次形式対称性を含むようなアノマリーに注目し、その流入や指数定理などについて調べる。また、't Hooft アノマリー整合条件を用いた解析も続けていく。特に有限温度系に適用することは興味深く、新たな結果を出せることが期待できる。
さらに、場の理論のアノマリーの研究の成果をAdS/CFT対応を通じて弦理論にフィードバックすることを考えている。弦理論では、ブレーンが重要な役割を果たす。最近開発されたアノマリーやアノマリー流入の技術を用いて、ブレーンの解析を行っていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
大学での業務が多忙であり、研究発表のための出張に思うように行けなかったため。また、年度末のCOVID-19流行のため、参加を予定していた研究会の多くが中止になったため。
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Research Products
(5 results)