2018 Fiscal Year Research-status Report
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15K05062
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
林 青司 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (80201870)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 標準模型を超える理論 / ゲージ・ヒッグス統一理論 / フェルミオン質量の階層性 |
Outline of Annual Research Achievements |
素粒子の諸々の現象をほぼ完ぺきに説明可能で非常な成功を収めた理論として「標準模型」と呼ばれる理論がある。しかし、この理論にはヒッグス粒子にまつわる基本的で重要な(理論的)問題点がある。具体的には、ヒッグス粒子の質量を量子補正の下でいかに小さく保つかという「階層性問題」、また、湯川結合といったヒッグス粒子の相互作用の強さを理論的に予言出来ない、といった問題である。 特に階層性問題を解決すべく、いくつかの代表的な「標準模型を超える理論」が構築されて来た。当該研究課題の研究目的は、魅力ある標準模型を超える理論の候補である「ゲージ・ヒッグス統一理論」を採り上げ、この理論におけるヒッグス粒子が関わる諸々の現象を解析することである。 今年度は、まずゲージ・ヒッグス統一理論の枠内でニュートリノの非常に小さなマヨラナ質量をどの様に自然に生成するか、という基本的な問題に取り組んだ成果を論文として学術雑誌に公表した。 更には、3世代の荷電フェルミオン(ニュートリノを除く)の質量の実測値が示す興味深い特徴的な階層的構造が、この理論に磁気単極子を導入することで自然に説明可能であることを指摘する論文を学術雑誌に掲載した。この理論では、ヒッグス粒子の相互作用はゲージ対称性により強く規制され、そのために、湯川結合の強さに関する理論的な予言が原理的に可能である一方で、規制が強いために、現実と合致する予言値が得られるかどうかは全く自明ではない。フェルミオン質量の階層性の起源は長年の重要な未解決問題であり、ここで提唱した機構により最終的に問題が解決すれば、その意義は非常に大きいと思われる。この研究成果を、論文と並んで、国際研究集会や海外研究機関でのセミナー講演において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べた様に、今年度は“軽いヒッグス”に関わる研究として、ニュートリノの小さなマヨラナ質量、更には、3世代の荷電フェルミオン質量の実測値が示す興味深い階層的構造の起源について、ゲージ・ヒッグス統一理論の枠組みの中で自然に説明や予言を行うことが可能であることを明らかにし、その成果を論文として、いずれも学術雑誌に掲載することが出来た。また、こうした研究成果を、国際研究集会やドイツのDESY研究所・理論部における一時間程度のセミナーにて発表することも出来、研究課題の進展状況としては、おおむね順調と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、今年度の、荷電フェルミオン質量の階層性に関する研究において重要な役割を演じた、磁気単極子に関する研究を遂行したい。ゲージ・ヒッグス統一理論では、磁気単極子を説明する理論として良く議論されるト・フーフト・ポリヤコフ単極子に登場するゲージ群の随伴表現に属するスカラー場が、高次元ゲージ場の余剰次元成分(正にヒッグス場)として必然的に理論に存在する。このことに着目し、いかにしてト・フーフト・ポリヤコフ単極子がゲージ・ヒッグス統一理論の枠内に自然に取り入れられるかを明らかにすると共に、議論の過程で現れるBPS状態のための条件式と、インスタントンを記述する自己双対の条件式との類似性にも着目し、新しいタイプのインスタントン的な、非自明な位相的性質を持つゲージ場の(有限エネルギーの)古典解に関しても研究を遂行したい。 更に、時間的余裕があれば、ゲージ・ヒッグス統一理論の真空状態に関しても考察を行いたい。この理論の真空状態は、ヒッグス場に関して周期的であり、QCD理論におけるθ真空との類似性がみられる。この理論の真空状態はθ真空の場合の様に、縮退した真空の重ね合わせとして構成される必要があるのか、という以前からの疑問点に関し、一定の解答を得たいと考えている。 総じて、今後の研究としては、ゲージ・ヒッグス統一理論の位相数学的側面(ホモトピーといった)に関係する、今まで行われて来なかったテーマに関する研究を遂行したいと思う。
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Causes of Carryover |
(理由) 当該年度においては、実支出額は当該年度の支払い請求額を30万弱程度オーバーしている。しかし、前年度、研究テーマが野心的なもので途中で未知の論点や技術的問題に遭遇したこと、等の理由により論文の学術雑誌への掲載が予想より遅れ、当該の科研費を用いた出張などが当初予定したほどは行えなかった、という理由により未使用額が生じ、それが今年度へ繰り越されたため、結果的に次年度使用額が生じた次第である。 (使用計画) 次年度においては、今年度中に学術雑誌に掲載された論文や、関連する論文の研究成果に関して積極的に講演を行ったり、また、予定されている新しい研究テーマに関する、資料収集や研究討論のための海外・国内出張を積極的に行い、計画的でスムーズな執行により、次年度使用額を有効に使わせて頂く予定である。
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Research Products
(4 results)