2015 Fiscal Year Research-status Report
量子色力学に基づくクォーク・グルーオンの非摂動的性質とハドロンの諸性質の解明
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15K05076
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
菅沼 秀夫 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10291452)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 量子色力学(QCD) / クォーク / グルーオン / カラーの閉じ込め / カイラル対称性 / 格子ゲージ理論 / ハドロン / クォーク・グルーオン・プラズマ(QGP) |
Outline of Annual Research Achievements |
強い相互作用の基礎理論である量子色力学(QCD)に基づいて、クォークの閉じ込め、カイラル対称性の自発的破れ、及び、クォーク・ハドロンの諸性質に関する重要で独自性の高い研究を行い、原著査読論文や査読付きの国際会議論文として公表した。 ①強い相互作用の第一原理計算である格子QCDを用いて、核子などのバリオン中での3つのクォーク間のポテンシャルに対する高精密の計算を行い、バリオン中でのクォーク閉じ込めが“Y型の線型ポテンシャル”になることを確認した。尚、これは2000年頃に我々が世界で初めて示した結果の高統計版である。 ②バリオン中のクォーク閉じ込めに対するアーベリアン・ドミナンスを定量的に検証した。なお、閉じ込め現象とQCDの非可換性との対応は長年の未解決な課題である。我々は、最大可換ゲージにおいて非対角グルーオン成分を取り除く“アーベリアン射影”を行い、高精度の計算を行った。その結果、バリオン中でのクォーク閉じ込め力がグルーオンの可換部分のみでほぼ完全に再現されることを世界で初めて示した。 ③クォーク閉じ込めとカイラル対称性の自発的破れとの対応関係も長年の未解決課題の1つである。我々は、閉じ込めの指標となる“ポリヤコフ・ループ”や“ウィルソン・ループ”とカイラル対称性の破れと直接関連する“ディラック演算子の固有モード”との関係を世界で初めて解析的に導出した。更に、“ポリヤコフ・ループ感受率”のディラック・モード展開の解析的な表式も導出し、有限温度QCDでの相転移に応用した。これらの関係式からは、カイラル対称性の自発的破れの本質的な要素である低ディラック・モードの寄与は、閉じ込め現象に対しては小さいことを示唆するが、格子QCDを用いても その事実を数値的に確認した。この結果は、QCDにおいて“カイラル対称性の自発的破れ”と“クォークの閉じ込め”とが1対1には対応しない事を示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、クォーク・グルーオンという極微の階層から強い相互作用やハドロンの諸性質を理解することを目的とし、量子色力学の非摂動的性質に関連する様々な研究テーマを同時に複数進めている。それら各々のテーマについて、強い相互作用の基礎理論であ る量子色力学に基づいた解析的な定式化も、大型計算機による大規模数値計算も当初の計画通り進んでおり、着実に研究成果を得ている。 その研究成果は、原著査読論文と査読付きの国際会議論文とで計11編の学術論文にまとめられ、そのうち2編は国際的な一流査読誌 Physical Review D誌(アメリカ物理学会発行)に掲載された。また、来年度、早くも2つの比較的大きな国際会議(Confinement XII, CPOD2016)で招待講演の依頼を受けるなど、本研究課題での研究成果は当該分野で注目されている。 この様に、研究の予想通りの順調な展開・具体的な研究成果・学界での注目度の高さから、本研究課題は当初の計画通り順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には今後も従来の方向で研究を進めていく。つまり、強い相互作用の基礎理論である量子色力学(QCD)に基づいて、クォーク・グルーオンのレベルから強い相互作用の基本的性質やハドロンの諸性質を研究していく。 研究方法としては、解析的な理論計算に基づいて定式化を進め、強い相互作用の第一原理計算である格子QCD計算によって定量的に分析を行い、QCDに基づいた非摂動物理やハドロン物理を総合的に理解していく。格子QCD理論のモンテカルロ計算に関しては、引き続き大阪大学のスーパー・コンピュータなどを用いて、大規模数値計算を実行していく。 今年度は更に、超弦理論に由来する“ゲージ/重力対応”を用いた「QCDに対する非摂動的解析」も積極的に進めていき、原子核理論と素粒子論という分野の垣根を越えた学際的な研究を行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
共同研究を築く目的で9月に2週間ほどドイツのミュンヘン工科大学に出張したが、その際の渡航費および滞在費(合計で50万円程度)を、先方が全て負担して下さった。このミュンヘン工科大学の過分な好待遇により、科研費での出費が大幅に抑えられ、その結果、次年度使用額が生じた。このように、研究が計画通り進んでない訳ではなく、むしろ、高い研究成果がもたらした結果と言える。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度は、複数の海外での国際会議において研究成果を発表するので、今年度の繰り越し分も含めて有効に使用する予定である。実際、来年度は早くも、2つの比較的大きな国際会議に招待講演を依頼されている。1つは、Confinement XII という300人規模の国際会議で、ギリシャで開催される。もう1つはCPOD2016という国際会議で、ポーランドで開催される。 また来年度は、海外も含めて頻繁な使用が予想されるので、最新鋭のノートパソコンを購入する予定である。(今年度、購入を控えたのは、Windows OS の移行期だったので、新旧 OS の性能を見定めるためである。) これらの必要経費により、今年度の繰り越し分も含めて、来年度の予算はすべて有効に使用し切ると予想している。
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Remarks |
researchmapと個人のwebページに、発表論文、及び、国際会議や日本物理学会での招待講演などの研究成果を記載している。
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