2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K05082
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
原田 恒司 九州大学, 基幹教育院, 教授 (00202268)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 核子系有効場理論 / 繰り込み群 / 格子シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
核子系有効場理論を格子上でシミュレーションを行うことによって、低温高密度の核子系の物理を探り、中性子星の状態方程式を定量的に理解することが本研究計画の目標である。そのための準備として、今年度は主に2つのことを行った。第1に、核子系有効場理論を格子上に乗せてシミュレーションを実際に行うための手順についての一般的な考察を行った。第2に格子上での理論の振る舞いを理解し、実際のシミュレーションを効果的に行うための繰り込み群の解析を行なった。 まず、第1の点として、格子上での非相対論的フェルミオンの振る舞いについて理解を深めた。通常の格子理論では相対論的フェルミオンのみ扱うので、非相対論的フェルミオンの振る舞いについてはよく理解されていないことが多い。特に、温度方向の反周期性の影響が大きく、それをコントロールする方法を理解するのに時間がかかった。 第2に、格子シミュレーションをする際には、格子上での非自明固定点、繰り込み群のフローについての知識が必要になるので、そのための計算を行った。非自明固定点の位置、フローの詳細は、普遍的なものではなく、正則化の方法によって変わってしまうものである。それゆえ、物理系がどのような格子パラメタによって記述されているのかを理解するためには、格子上での計算を行わなくてはならない。有限のカットオフがある理論ではパイオンの効果は摂動論的であることを知っているので、パイオンを含まない理論に対して、数値的なハミルトニアンの対角化によって繰り込み群のフローを求め、非自明固定点の位置を特定した。一般に、格子上では散乱状態の解析が難しいことが知られているが、我々はその難しさを避け、基底状態のエネルギー固有値の有限体積効果を調べることによって、強結合相と弱結合相の相境界を特定した。また、格子上での relevant operator を求めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
元々の計画では本年度には reweighting の方法の良し悪しを定量的に評価することを目標としていた。しかし、そのためには次の問題を解決する必要があることが明らかになってきた。(1) 非相対論的フェルミオンでは、ゼロ温度ではその伝播関数は遅延グリーン関数となる。しかし、温度方向の半周期性から、この境界条件は近似的にしか成立しない。予想以上に境界条件の影響は大きく、それをコントロールする方法を理解する必要がある。(2) 核子系有効場理論のくりこみ群の性質について知られていることは主に連続理論によるものであって、正則化の異なる格子上では、普遍的でない性質、すなわち、肘名固定点の位置、relevant operator の具体的な形などは知られていない。これらはreweighting の方法で重要になるので、シミュレーションを行う前に知っておく必要がある。(3) フェルミオンの局所相互作用を表す結合定数の符号は、連続理論と格子理論では符号が異なる可能性が生じた。補助場を用いてフェルミオンの局所相互作用を書き換える際、結合定数の符号に関わらず、フェルミオン行列式が正定値となるのか。 これらに対し、(1)および(2)については「研究実績の概要」欄に述べたような研究を行い問題は解決された。(3) についても、問題がないことが明らかになった。繰り込み群の計算を行った際に、計算結果に、よく理解できない振る舞いがあったため、時間がかかってしまった。 パイオンを非線形シグマ模型の形で格子上に乗せて核子の場と結合させることについては、予備的な研究を行った範囲では特に問題がない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は元々の研究計画どおり、reweighting の方法の良し悪しを定量的に評価する計算を実施する予定である。 パイオン場を非線形シグマ模型として格子上に乗せる。パイオン場と核子場の相互作用は、共変微分を通じたものと、それ以外とに分類される。このうち、共変微分を通じたものをフェルミオン行列式に含めても、符号問題は起こらないと考えている。(現在証明を行っているところである。)それ以外の相互作用は irrelevant であり、reweighting の方法を用いて扱われる。初めにパイオンを含まない理論に対してシミュレーションを行い、その結果と対比させながら、パイオンを含む理論のシミュレーションを行う。ここまでは、有限温度の効果はなるべく含まれないように工夫しながら計算を進める予定である。 特に、パイオン場をポテンシャルとしてではなく、伝播する場として導入することにより、世界で初めての厳密なカイラル対称性を持った核子系有効場理論の数値シミュレーションが可能になるので、この結果を(ポテンシャルとして扱ってきた)先行研究と比較するのは興味深い。 次に、有限密度効果を化学ポテンシャルを導入することにより取り入れる。今考えている非相対論的核子系の理論では、化学ポテンシャルは符号問題を引き起こさない。時間があれば液相・気相転移を調べて、その物理を明らかにすることを考える。 以上のような数値計算を行いながら、少しずつ大規模計算へと移行していきたい。現在は手元の計算機を用いて行っているが、共同利用のスーパーコンピュータの利用へと移行したいと考えている。
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Causes of Carryover |
次の理由で次年度使用額が発生した。(1) 当初計画では、多くのコアを持った計算機を1台購入する予定であったが、計算する内容を精査した結果、コア数が多い計算機であっても実質的な速度の向上には効かないことが明らかになり、購入する計算機のスペックを大幅に下げて、2台とした。そのために結果として計算機の購入代金が下がった。(2) 連携研究者との研究連絡のための旅費を用意していたが、連携研究者が長期間海外にいることになったことと、研究内容が変更されたために、そのための旅費が使われなかった。(3) 国際会議に参加する予定だったが、大学での業務の関係で日程が合わず、断念した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は昨年使用しなかった旅費を積極的に活用し、国際会議等に参加して発表を行うと共に、連携研究者と密接に連絡し、効率よく研究を遂行したいと考えている。
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