2015 Fiscal Year Research-status Report
6次元ボルツマン方程式により探る多次元超新星爆発メカニズム
Project/Area Number |
15K05093
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Research Institution | Numazu National College of Technology |
Principal Investigator |
住吉 光介 沼津工業高等専門学校, 教養科, 教授 (30280720)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 理論核物理 / 理論天文学 / ニュートリノ / 輻射輸送 / 超新星 / 爆発 / 計算科学 / 京コンピュータ |
Outline of Annual Research Achievements |
超新星爆発は、重い星が進化を遂げた最期に起きる華々しい天体現象である。長年の研究により、重力崩壊から爆発へ至るメカニズムの概略は描かれているが、多次元効果の中で起こる爆発の鍵が何であるかは現在でも決着がついていない。本研究の目的は、独自に完成させた6次元ボルツマン方程式ソルバー計算コードを活用して、3次元ニュートリノ輻射輸送を厳密に解く世界で初めての計算を行い、残存する近似を排して爆発メカニズムの主たる要因を特定することにある。今年度の研究では、このうち、多次元ニュートリノ輻射輸送現象の解明を行なうと共に、多次元ニュートリノ輻射流体計算による重力崩壊計算を初めて実現した。また、標準的な星の例だけでなく、多様な環境に対応すべく計算コードの拡張を図ると共に計算手法の評価を行なった。 (1)6次元ボルツマン方程式ソルバーを用いて、物質分布を固定して多次元ニュートリノ輻射輸送の系統的な計算を行い、ニュートリノの角度分布の特性を近似手法(モーメント法)と比較して検証したほか、角度解像度の収束性を調べた。また、コラプサーや超大質量中性子星の場合のニュートリノ放出や加熱にも適用が可能である事が判った。 (2)京コンピュータにおいて6次元ボルツマン方程式ソルバーを組み込んだニュートリノ輻射流体計算コードによる軸対称大規模シミュレーションを行い、太陽質量11, 15倍の星の鉄コア初期条件からの重力崩壊・バウンスによる衝撃波伝搬の様子を追う事に成功した。400ミリ秒を越える長時間発展においても衝撃波が復活せず、どちらのケースも爆発を起こさないことが明らかとなった。これは近似手法による既存の計算結果とは異なるものである。 これらの成果について、国内・国際会議による口頭発表、査読論文による発表を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
6次元ボルツマン方程式を解くニュートリノ輻射輸送計算による多次元輻射輸送現象の研究は、順調に進んでおり、Ray-by-ray法との比較から更に進んで、モーメント法との比較に着手することができた。予備的な分析により相違点が明らかになってきているので、これを系統的に分析して論文において成果報告することが課題である。 多次元ニュートリノ輻射流体計算による重力崩壊と衝撃波伝搬の研究は、順調に進んでいる。完成した計算コードを実際の星へ適用して2次元軸対称での数値シミュレーションが行なう事ができた点は世界に先んじた快挙といって良い。京コンピュータの時間枠を用いても2モデルに限定されるという巨大計算が研究進行上の厳しい点である。得られた巨大データを分析して、ニュートリノ輻射輸送やミクロ物理の取扱いによるニュートリノ加熱とダイナミクスの違いについて詳細を明らかにすることが課題である。また、他のスーパーコンピュータへの移植を行い、計算モデルを増やす努力が急がれる。 核物理データの開発についても並行して進めることができた。特に電子捕獲反応が重力崩壊を引き起こすタイプの超新星の場合への適用部分を球対称コードに組み込む開発を行い、全体のダイナミクスを追う事が可能となった。これにより爆発の詳細を明らかにすることが次の課題である。 爆発復活条件の探求についても、計算コード開発段階からシミュレーション実行に移行して、研究が進んでいる。超新星コア中心部を切り出す手法が巧くいくことが判明しており、長時間計算を行なう事と条件を系統的に変えて行なうことが現在の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については、基本的には申請時の年次計画に沿って進行していくことで問題ないと判断する。ただし、天文分野における新たな発見や、計算資源の確保状況やシミュレーション実行に掛かる期間に依っては、研究の順序や範囲を臨機応変に変更していく必要がある。 6次元ボルツマン方程式を解くニュートリノ輻射輸送計算については、物質分布を固定した場合について多次元ニュートリノ輻射輸送を引き続き調べていくことが有益である。平成27年度に適用が可能であることが判った、超大質量中性子星におけるニュートリノ輻射輸送については、重力波の発見に伴い、中性子星合体のシナリオが注目されており、そこでのニュートリノ放射がガンマ線バーストやrプロセス元素合成との関連が議論されている。本研究による緻密な計算データが関連分野の発展に繋がることが確実なため、通常の超新星シナリオに加えて研究を拡張していく予定である。 ニュートリノ輻射流体計算による研究については、2次元軸対称計算に掛かる時間が半年から1年という長いスパンであるため、年度をまたいで研究を行なって行く必要がある。計算資源の確保の状況により、高解像度の計算が可能かどうか決まるため、計算コードの移植やチューニングなどを行なうことが課題である。これについては、計算科学分野の共同研究者との作業により解決を図っている。 第一原理計算を目指すうえで残る課題として、一般相対論を取り込むことが必要である。これについては、コードの拡張により一部を取り込むことができる見込みであるが、全体を一般相対論にしていくのは長期的な課題となる。また、3次元計算を実現するうえでは、超新星コア中心部の扱いが時間ステップを短くする原因であるため、効率的に扱うための手法を探ることが暫くの課題である。
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Causes of Carryover |
本研究においては、複数の共同利用施設における大規模スーパーコンピュータ群による数値シミュレーションを行なっており、限られた資源における計算実行の状況に依存して、研究の進展に幾らかの不定性があり、これに関連して予算の執行時期に若干の幅を持たせざるを得ない部分がある。具体的には下記のような理由があげられる。平成27年度に導入しているノートブックパソコンについて移行作業を続けているが、ソフトウェアの導入が遅れていた。平成28年1~3月期に複数回の研究打合せを想定していたが、(相手方の事情により)予測よりも回数と遠距離の用件が少なくなった。数値シミュレーションによる実行結果の保全のため、データをアーカイブする必要があるが、この作業については共同利用施設のディスク運用の状況に関連して一時期ストップしていたことがあり、保存用のハードディスク群の導入を延期した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記で述べたように、数値シミュレーションの実行状況に応じて臨機応変に対応して、必要な部分を速やかに執行する予定である。パソコンの整備については、ソフトウェアの更新などを進めており、新年度において順次必要となるものを導入する。これについては、平成28年度に導入する予定のグラフィックス処理計算サーバーの整備とも関連しており、サーバーの性能アップあるいは周辺機器・ソフトウェアに充当する可能性もある。また、研究打合せについては、旧年度から若干遅れたものの、新年度当初の4月や5月にも複数回の出張を行なっており、今後も定期的に実施する見込みである。データの移行については、アーカイブ作業を再開しており、データ整理をした結果により必要なディスク量も明らかになってきているので、これに応じて順次、保存用ハードディスク群の導入を行なう予定である。
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Research Products
(5 results)