2017 Fiscal Year Research-status Report
宇宙線と星間ガスや大気の相互作用終状態を広帯域で再現するシミュレータの開発
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15K05098
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
釜江 常好 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 名誉教授 (90011618)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奈良 寧 国際教養大学, 国際教養学部, 教授 (70453008)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 宇宙線組成 / 原子核宇宙線の相互作用 / 宇宙線空気シャワー |
Outline of Annual Research Achievements |
宇宙線の電子、陽子や原子核のスペクトルは、銀河系由来の高エネル ギー成分の他に、近傍の連星白色矮星由来の数100GeV 以下の成分の和で成っていることを示した。宇宙線を出す白色矮星は、電子線を放出する磁化された激変星と、陽子・原子核線を爆発的に放出する新星であると仮定した。銀河系成分は、電子線も陽子・原子核線もフェルミ衛星が太陽系周りの銀河系で観測したガンマ線スペクトルから抽出したものを使う。白色矮星起源の電子線スペクトルを硬X線観測データを再現する形状を、陽子・原子核線スペクトルは、フェルミ衛星で観測された新星のガンマ線スペク トルから抽出した形状を初期値とした。モデル・スペクトルは太陽活動に影響されぬよう、太陽系磁気圏の外のものに設定し、多項式で表現した。フィッティンクは、上記の初期スペクトルの形状から出発し、6次以下の多項式との制約の元、Voyager1やAMS02等の衛星や気球搭載の観測装置のデータを再現する方向で行った。ここで大切な仮定を置いた。白色矮星起源の宇宙線は定常的に放出されるではなく、磁化された激変星の活動期や新星の爆発時にだけ放出され、太陽系を包む「ローカル・バブル」に百万年程度の間、貯められるとする。本研究の解析から 重要な結論が2つ得られた。一つは、陽子・原子核宇宙線のスペクトルが数100GeVで折れ曲るのは、白色矮星起源の宇宙線が数100GeV以上に達しないことを反映していること。二つ目は、銀河系中心に太陽系近傍の2.5倍の白色矮星起源の宇宙線が存在し、星間ガスと衝突し、ガンマ線スペクトルに数GeVのバンプを生んでいることである。これらと並行して、宇宙線と星間物質や大気中の原子核との衝突で発生する2次粒子を、幅広いエネルギー領域で高精度でシミュレーションすることを試みた。2016年度にはJAMの改良版を作り、数TeVまでの陽子・原子核衝突をシミュレーションに成功した。数TeVから1000TeVのエネルギー領域では、独自の方法でPythia8を重イオン反応を扱えるよう拡張した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
釜江が担当している部分は、実験データは、主として、FermiLAT グループのものを使うため、グループ全体の了承を得ながら研究を進めている。今年度発表した、太陽系磁気圏の外で観測される宇宙線のスペクトルの論文(学会発表1、論文1)以外にも、FermiLATのデータに基づいた、2TeVまでの電子+陽電子のスペクトルを測定した論文を発表した(論文2)。この測定結果は、近傍のパルサーやパルサー風星雲などから到来する電子+陽電子のフラックスに厳しい上限を与える点で、非常に重要なものと成っている。 奈良が担当している、原子核宇宙線の相互作用では、今後奈良の数TeV/n以下で有効なシミュレーション・プログラム(JAM)と、TeV以上で精度が高いPythia8 とを組み合わせるモデルをつくるために、pythia8を重イオンに 拡張した。
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Strategy for Future Research Activity |
地球に到来する、光速に近い鉄の原子核が大気最上層部で出すチェレンコフ光と、その原子核が大気を構成する窒素や酸素の原子核と衝突し、破砕される時に出るガンマ線のフラックスと角度分布を、日本原子力研究所小川達夫博士にシミュレーションしてもらった。また、光速に近い速度で大気を横切る粒子が出す、チェレンコフ光を、東大宇宙線研究所の大石理子博士に評価してもらった。これらを組み合わせて、高エネルギー鉄原子核の出すチェレンコフ光とその破砕で出るガンマ線由来のチェレンコフ光の同時観測を、CTA国際共同実験のテーマの一つとして提案としてまとめる予定である。 これと並行して、JAM とPythia8 を結合した宇宙線と星間物質の相互作用シミュレータを完成させる。それを使い、発生するガンマ線のスペクトルを、陽子、原子核に分けて、精度良く予測したい。
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Causes of Carryover |
平成29年度中に開催される日本国内での学会(日本物理学会等)で研究成果発表を行う予定であったが、急遽、30年10月に開催される米国での会議(フェルミシンポジウム)での発表を依頼され、研究成果をより広く発信できる国際会議への出張旅費に充てることにした。
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Research Products
(6 results)