2017 Fiscal Year Research-status Report
不安定核のミュオン原子X線観測実験に向けた放射性物質制御の基礎研究
Project/Area Number |
15K05103
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷口 秋洋 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (10273533)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 不安定核ミュオン原子 / 重水素薄膜法 / ドライアイス模擬ターゲット / 放射性物質 / 挙動と制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
原子核の電荷分布の研究は重要な研究テーマの一つであるが、不安定核に対する研究は近年ようやくその端緒に着いたところである。ミュオン原子X線測定はその実験的手法の一つであり、我々はこれを不安定核を対象とした研究へ展開しようとしている。近年、我々は安定核での研究において、重水素薄膜法を開発しミュオン原子の生成効率を飛躍的に高め、不安定核ミュオン原子X線測定の実現可能性を示した。そして現在、その基盤技術の研究が、京都大学複合原子力科学研究所(旧原子炉実験所)の研究用原子炉に附置されているオンライン同位体分離装置(KUR-ISOL)で得られるRIビームを用いて進められている。重水素薄膜法では、重水素薄膜に対象核を注入することで、ミュオンの対象核への移行効率を向上させているが、それなりの数量の不安定核が注入される実験への適用には、薄膜が解消される際における、薄膜に残存する放射性物質の制御や挙動に関する知見が必須である。これまでの研究において、重水素薄膜の模擬としてドライアイス薄膜の生成装置等をISOLに設置し、薄膜法がRIに適用される状況を再現し、残存の放射性物質を回収する有効な手法が示された。 本課題では、薄膜法に関わる放射性物質の挙動や回収法に関する実験が行われるが、一昨年度から実施されていた原子炉の新規制基準に対する規制当局の審査が平成29年8月末まで長引き、さらに審査合格後においても、原子炉付属施設のトラブルやISOLの不調が重なったため、本課題のためのマシンタイムが確保できなかった。このため、平成29年度もより効率的に実験を進めるための技術的改良、1)ドライアイス薄膜生成装置等の温度調整の時間短縮、2)ドライアイス薄膜生成における炭酸ガス供給ラインの改善、3)低温トラップ捕集部の形状について等が検討された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
不安定核のミュオン原子X線観測に向け、高効率ミュオン原子生成法である重水素薄膜法を放射性核種(RI)に適用するため、重水素薄膜にRIビームが注入される体系における技術的課題に関する研究開発が進められている。本課題においては、薄膜へのRI注入時におけるRIの散乱やドライアイス薄膜解消時のRI挙動とその回収方法等に関するより詳細なデータを得るために、様々な条件下での実験が効率的に行えるよう装置を改良し、ISOLからのRIビームを用いた実験を行う予定であるが、平成29年度においても、ISOLが設置されている研究用原子炉に対する規制当局の安全審査が8月末まで長引き、審査合格後も研究炉付属施設のトラブルにより、さらに暫くの間原子炉が運転されなかった。その上、ISOLにおいても不具合が発生し、本課題に関するRIビームを用いた実験は実施できなかった。このため、主に次の事項が実施された。1)ドライアイス薄膜生成装置等の温度調整の時間短縮:様々な条件下で実験を行うために、ドライアイス薄膜生成部の昇温時間の短縮に向け、幾つかの方法が検討されてきた。しかしながら、薄膜生成部は液体窒素の循環により冷却されており、時間短縮のための急速な昇温は、冷却系に残留する液体窒素の気化と急激な圧力上昇を伴い、その安全上の改善が難しいこと、さらに、ドライアイス薄膜の気化速度に、捕集側の捕集能力が追従できず、効率的なRIの捕集効果が期待し難いことが明らかとなった。2)ドライアイス薄膜生成における炭酸ガス供給ラインの改善:炭酸ガス供給ラインに大容量のタンクを設置し薄膜生成の手順の簡略化を図ると共に、そのガス供給バルブをボールバルブからニードルバルブに変更し、薄膜生成部へ穏やかに炭酸ガスを吹き付けられるようにして、薄膜厚を制御し易くした。3)昨年度に引き続き捕集部の形状とその詳細について検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度においては、効率良く実験を進めるため実験装置を改良し、RIビームを利用した実験を実施する。RIビームを用いた実験においては、まず、薄膜中に注入された放射性物質の回収方法(冷却トラップ方式)に関し、回収効率の薄膜厚依存性及び大立体角低温トラップにより回収効率が向上する条件を調べる。そして、ISOLのマシンタイムに応じ、順次、1)注入時の散乱成分の測定、2)薄膜解消時に放出されるRIの挙動などについても、Ge半導体検出器等を用いた放射線計測により定性的・定量的な情報を得ることにする。 研究炉の稼動については、昨年度に再稼働しており、重大な問題が生じない限り問題なく利用でき、またその他の施設・ISOLにおけるトラブル等についても、解決済みであり、RIビームを利用できる状況となっている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:RIビームを利用した実験が行われず、予期せぬ追加的経費が発生する可能性を考慮して予算の執行を控えた。 使用計画:本課題で使用されている真空チェンバー用の排気装置が不調となり、同型のスクロールポンプ(約50万円)、真空部品(約20万円)及びHeガス・炭酸ガス(約10万円)などを購入する。研究補助者に対する打合せや実験参加・情報収集のための旅費を支出する。
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