2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K05119
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
須藤 彰三 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40171277)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | Si(110)表面 / 水素終端シリコン表面 / 1次元フォノン / 1次元電子状態 / 2次元電子状態 / DFT計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、我々の研究グループで開発した高品位な水素終端Si(110)-(1×1)[H:Si(110)]表面を用い、その表面及びバルク構造に由来する1次元・2次元物性、特に、フォノンと電子状態を明らかにすることにある。加えて、水素終端Si(111)-(1×1)[H:Si(111)]表面も含め、表面の物性研究やデバイスへの応用を目指した基礎研究も行う。H:Si(110)表面は、二つの直交した方向、Γ-Χ方向およびΓ-Χ'方向が存在し、強い異方性が存在する表面である。本年度は、表面フォノン、表面及びバルクの電子状態を中心に実験と理論解析を行った。(1)高分解能電子エネルギー損失分光法を用い、損失エネルギーの角度依存性を観測し、H:Si(110)表面の表面フォノン分散を実験的に決定した。その結果、Γ-Χ方向に伝播する1次元フォンの存在を明らかにした。(2)密度汎関数法を用いた第一原理計算によりH:Si(110)表面の表面フォノン分散を計算した。その結果により、実験より求められた表面フォノン分散の背後にある物理的意味を明らかにすることができた。一方、H-Si伸縮振動および変角振動モードに、実験と理論の比較で説明できない不一致も明らかになった。(3)高分解能角度分解光電子分光法を用いて、H:Si(110)表面をHeI、HeII、Xe光源で励起し、放出される光電子の角度依存性を観測し、電子バンドの分散を決定した。バルクにΓ-Χ方向に1次元バンドが存在すること、表面にH-Siの2次元バンドが存在することを実験的に明らかにした。(4)走査トンネル顕微鏡およびトンネル分光法を用いて、表面の原子配列及びトンネル電流のバイアス電圧依存性を観察した。(5) 原子間力顕微鏡によりH:Si(110)表面のエッチング過程を観察し、Γ-Χ方向に伸びた特異な1次元構造を観察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
a. 表面フォノンの研究を通して得られるH:Si(110)表面の構造及び結合状態の理解は、電子エネルイギー損失分光法による観測、密度汎関数法による計算とも順調に進行し、既に論文として公表した。一方、実験と理論の不一致も明らかになってきた。 b. 電子状態の研究を通して得られるH:Si(110)表面の電子状態、バルクSi(110)の電子状態に関しては、高分解能角度分解光電子分光法により、実験的にエネルギーバンド構造を精度よく決定することができた。この実験の大きな問題は、大気中で作成したH:Si(110)試料を超高真空中に導入し、光電子分光により測定が可能かということであった。実際試したところ、問題なく高分解能で観測ができることが明らかになった。この結果は、本表面が大気中においても安定し、不活性な表面であることを示す。 c. 本年度計画にある上記a、b、2項目に加え、走査トンネル顕微鏡およびトンネル分光によるによるH:Si(110)表面の構造と電子状態の観察、原子間力顕微鏡によるH:Si(110)表面のエッチング過程の観察、低速電子線回折によるH:Si(111)表面でのAgクラスターの成長過程の観察も遂行することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
a. 表面フォノンの研究に関して明らかになった実験と理論の不一致を明らかにするために、新たに重水素終端Si(110)-(1×1)表面[D:Si(110)]表面を開発する計画である。HとDの同位体効果を頼りに実験および理論計算を進める。 b. 電子状態の研究に関しては、本実験によりエネルギーバンド構造が明らかになった。その物理的起源を明らかにするために理論計算を行い、比較する計画である。加えて、デバイスへの応用の基礎研究として、ホール易動度の見積もりも行う計画である。 c. 本年度得られた走査トンネル顕微鏡およびトンネル分光の観察結果、原子間力顕微鏡の観察結果、低速電子線回折による観察結果の解析を行う。 d. 申請書に従って、デバイス応用に向けてH:Si(110)表面およびH:Si(111)表面の原子レベルでの酸化過程の研究を進める計画である。
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