2016 Fiscal Year Research-status Report
コヒーレントフォノン生成機構における過渡的準粒子描像の定量的検証
Project/Area Number |
15K05121
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
日野 健一 筑波大学, 数理物質系, 教授 (90228742)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | コヒーレントフォノン / 超高速過程 / 超短パルスレーザー / ファノ共鳴 / プラズモン / ラビ振動 / コヒーレントアーティファクト |
Outline of Annual Research Achievements |
超短パルスをバルク半導体に照射した際誘起されるコヒーレントフォノン(CP)の初期時間領域(ETR:パルス照射後100フェムト秒程度までの超高速時間領域)において発現する量子効果を調べた。ポーラロニック準粒子模型という理論モデルを構築し、当該系を励起キャリアに対応する擬ボゾンとLOフォノンにより構成されるボゾン化描像により記述した。擬ボゾンは、集団励起モード(プラズモン)と個別励起モード(電子対励起)より構成される。これらの運動を時間に関する断熱表示を用いて記述した。本年度は以下のような成果を得た。
(1)ETRにおける過渡的ファノ共鳴はLOフォノン(離散状態)が個別励起モード(連続状態)と結合することにより発現すると解釈できた。Siのような非極性半導体においては、初期時間領域においてのみCPの周波数スペクトルにファノ共鳴特有の非対称性が現れ、この領域以降ではこれが消失した。一方、GaAsのような極性半導体では全時間領域においてファノ共鳴は発現しない。これらの結果は、実験と整合するもので、本研究において初めてその起因が見出された。この成果は、Physi. Rev. B誌に掲載された。
(2)パルスのピーク電場に対して初期時間領域のCPの時間シグナルの振幅と位相を調べると、プラズマ振動数とLOフォノン振動数が共鳴的に結合するところで反交差が現れ、フォノンの自己エネルギーが不連続に大きく変化する。ETRにおけるCP時間シグナルにはこれが不規則な振動パターンとして反映し、振幅の増大および位相の急峻な変動が見出された。一方、照射パルスがπパルスおよび2πパルスの際にも、CPシグナルにラビ振動パターンが直截に反映されることが分かった。以上の特異な現象は、従来のコヒーレントアーティファクトとは全く異なる物理であることが分った。これは、現在Phys. Rev. Lett.誌に投稿中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の動機づけになったCPにおける過渡的ファノ共鳴に内在する物理を、初めて理論的に解明することに成功した。さらに、CP時間シグナルにおける特異現象を見出すことに成功した。これは、今後の実験的研究を促進すると期待できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
従来、ETRは、照射ポンプパルスとプローブパルスの干渉により、不規則なシグナルが発現(コヒーレントアーティファクト)し、内在する物理現象の抽出が困難になるため、積極的な研究対象にはなりにくかった。また、実験観測が容易なETR外のCP生成は、現象論的な古典力学的説明が可能なため、CPにおける量子効果には、過渡的ファノ共鳴を別にすれば、さほど関心はなかったと思われる。今般の研究成果により、ETRには豊穣は量子効果が発現することが理論的に予言できたので、今後より詳細な研究をする価値はあると思われる。
|
Causes of Carryover |
実質的には当該年度予算を使用完了したが、端数として残金が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度予算に繰越して、有効に使いたい。
|