2015 Fiscal Year Research-status Report
強相関電子系の相転移近傍における特異な光励起状態に関する研究
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15K05122
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
三野 弘文 千葉大学, 普遍教育センター, 准教授 (40323430)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 光励起状態 / 強相関電子系 / ポンプ・プローブ分光 / 偏光変調分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
強相関電子系の相転移近傍に見られる特異な光励起状態について調べるため、広波長領域 (300nm~1.6μm)で高感度スペクトル計測ができるマルチチャンネル差分積算分光システムを構築することとした。27年度では、スペクトル検出は300nm~900nmに限って行った。このシステムでは、励起レーザー光と白色光の強度を時間変調し、光励起で誘起されるスペクトル変化を差分スペクトルの時間積算で極限までノイズを減らした計測を可能とする。白色光源としてENERGETIQ 社製 LDLS 白色光源(Laser-Driven Light Source)を導入し、光源強度の安定だけでなく、空間強度分布も直径0.1㎜まで絞って試料を照射できることを確認した。対象としている相転移現象は磁性転移であることから、極低温(1.5 K)~室温、最大7T の磁場印加下での測定を実現させることとした。磁性転移ではスピン分極の有無を右回り、左回り円偏光に対する応答の差として計測することが重要である。そこで、強度のみでなく、偏光についても変調計測可能なシステムの開発を行った、分光器、CCD、LCVR(液晶可変リターダ) をLabVIEW制御するプログラムを作製し、LCVR の印加電圧を変化させ、右回り偏光と左回り偏光の差を差分スペクトル測定として検出できることを、磁性半導体CdTe/CdMnTe量子井戸などを使用した実験により示した。今後、無機磁性半導体のみでなく、有機系も含めた強相関電子系を対象とした光誘起、磁場印可下でのスペクトル変化の観測を進め、特異な光励起状態について明らかにする。更に、白色光源をラマンレーザーに変えることで、光励起で予想される電荷移動等に関連した分子振動の変化をラマン散乱スペクトルシフトとして捉えることも実行する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度において、300nm~900nmの領域におけるマルチチャンネル差分積算分光システムを構築した。本システムは、光誘起スペクトル変化システムと偏光変調計測システムの2種類からなる。前者はレーザー光照射によって生じるスペクトル変化を高感度で計測するもので、励起レーザー光、スペクトル検出用白色光の試料への照射と、CCD検出のタイミングを制御するプログラムの開発が必要不可欠であり、これを行った。具体的には、スマートシャッターなどを用いて、レーザー光、白色光同時入射から各白色のみ、レーザーのみでのシグナルを引き、積算することで光誘起に伴うスペクトル変化を300nm~900nmの領域で観測可能とした。後者の偏光変調計測システムは、分光器、CCD、LCVR(液晶可変リターダ) を制御するプログラムを作製し、LCVR の印加電圧を変化させ、右回り偏光と左回り偏光の差を差分スペクトル測定として検出するものである。このシステムの測定精度の評価や、パラメータの最適化などを行うため、現在、磁性半導体CdTe/CdMnTe量子井戸に磁場を印可した状態での巨大ゼーマン分裂(磁性不純物の影響で右回り偏光と左回り偏光で吸収スペクトルピークに大きな分裂が生じる)の観測を行っている。本試料では、温度上昇によるゼーマン分裂量の減少、吸収スペクトルピークのシフト量の変化について調べられているので、高温領域における偏光変調計測から、CCDの検出時間の増大、宇宙線の除去、データ解析等によってどこまで高感度な計測が可能かについての定量評価にも着手した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度で構築したマルチチャンネル差分積算分光システムは、300nm~900nmの領域での計測となっている。これは光学系に色収差の影響を減らすアクロマティックレンズなどを使用していることも要因の一つであるが、更に近赤外まで対応させるため、放物面鏡を用いた光学系の導入を進める。また、検出器として、現有のInGaAsフォトダイオードアレーを使用するが、付随する分光器も含めて計測に必要な制御プログラムの作製を行う。構築したマルチチャンネル差分積算分光システムは、偏光変調計測システムと光誘起スペクトル変化計測システムの2種類あるが、それぞれのシステムにおいて測定精度の評価や測定パラメータの最適化などを進める必要があるのでこれを行う。テストサンプルとしては、磁場や温度によってゼーマン分裂、偏光スペクトルの変化が顕著で、よく知られている磁性半導体CdTe/CdMnTe量子井戸を用いる。最適化などの後、強相関電子系を対象とした実験を実施し、光誘起スペクトル変化の観測から、特徴的な光励起状態の詳細に関して明らかにする。また、上記、光誘起スペクトル計測システムに偏光変調も組み込むことや、白色光源をラマンレーザーに置き換えて光励起下でのラマン計測への展開を行う。これにより、本研究の主要な目的の一つである、有機 Mott 絶縁体 β'(BEDT-TTF)(TCNQ)結晶で、反強磁性転移近傍においてのみ光誘起される広帯域に及ぶ光学スペ クトル変化の要因と分子構造の変化の有無について明らかにする。
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Research Products
(5 results)