2016 Fiscal Year Research-status Report
有機半導体結晶における自由キャリア観測によるバンド伝導性の検証
Project/Area Number |
15K05129
|
Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
秋元 郁子 和歌山大学, システム工学部, 准教授 (00314055)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中 暢子 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10292830)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | サイクロトロン共鳴 / 有機半導体 / 無機半導体 / 光キャリア / 伝導機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、高移動度を示す有機半導体において実験的に自由キャリア運動を捉え、バンド伝導性を裏付けることを目的とする。そのため、サイクロトロン法を用いて伝導の基礎物理量である有効質量やキャリア散乱時間、易動度などを、無機半導体と対比的に研究し、ホッピング伝導とバンド伝導のクロスオーバー領域における伝導機構について新しい知見を得ることを目指す。 H27年度の研究で、ルブレン結晶に光キャリアを電場印加により注入し、マイクロ波共振器内で光照射とマイクロ波照射及び電場印加を実現する方法を確立させた。この時点で明らかになった問題点は、サイクロトロン共鳴法を実施するべき低温で、主キャリアである正孔の密度が極端に減少することであった。そこで、H28年度は、光キャリア密度を増加させる方法を見出すために、(1)ヨウ素ドーピングによる効果の検証、と、(2)励起子発光との競合過程に着目したキャリア生成効率の評価を行った。その結果、マイルドな条件下でのヨウ素ドーピングでは光キャリア密度は変化しないことが分かった。さらに、励起子が電場により解離して生成していることを確かめたが、光キャリアの生成効率が低いことが分かった。また、試料表面状態の変化により、キャリア生成と励起子発光の相関の仕方が変化することも分かった。光キャリア密度を増大させるためにはさらに状況を解明する必要がある。 一方で、対照物質である無機半導体においては、高純度ダイヤモンドおよびシリコン結晶においてサイクロトロン信号を取得し、結晶の純度の違いによるキャリア散乱時間の違いを見出した。これらに関して、国際会議や国内学会で研究成果を報告した。また、シリコンにおける光励起によるキャリア生成過程とバレー選択励起について論文にまとめた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ルブレン単結晶の作製は順調に進んでいる。当初計画していた有機-金属界面への光照射による光キャリア生成は達成できなかったものの、電場印加下でキャリアを光注入することができるようになった。また、励起子発光と光電流を同時に観測することにより、光で生成した励起子が電場印加によりキャリアに解離したことによることが実験的に確かめられた。光照射と電場印加を同時にマイクロ波共振器内で実現する方法は確立できているものの、低温でのキャリア密度を確保できていないので、サイクロトロン共鳴スペクトルを観測するには至っていない。 一方で、対照物質とする無機半導体のサイクロトロン共鳴測定は順調である。特に、炭素と酸素濃度をコントロールした高純度シリコンでのサイクロトロン共鳴の研究を進め、特に炭素の濃度低下が低温でのキャリア散乱低下につながっている可能性を得ている。また、ダイヤモンドにおいても、従来よりも高純度な試料では、キャリア散乱が抑えられているという結果を得ている。 以上のことから、おおむね順調に進展している、と考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでのところ、ルブレン単結晶において光注入したキャリアのサイクロトロン共鳴スペクトルを取得するには至っていない。サイクロトロン共鳴法を実施するべき低温で、主キャリアである正孔の密度が極端に減少することが主な原因である。現状、低温では、励起子解離により生成したキャリアが、直ぐに酸化された結晶表面準位などにトラップされていると予想できる。それを解決するため、 1.あらかじめキャリアを付与するためのヨウ素ドープをより適した条件で行う。 2.試料表面状態でのトラップの影響を受けづらい条件での実験を行う。すなわち、(1)高品位結晶を酸素フリーな希ガス中で取り扱う、(2)二光子励起で結晶内部にキャリアを発生させる、などの工夫と実験を実施し、サイクロトロン共鳴スペクトル観測を実現させる。また、他にも、表面準位や酸化され易さが異なるペンタセンなどの有機半導体材料についても結晶作製を行い、サイクロトロン共鳴法を実施する。 一方、シリコン結晶およびダイヤモンド結晶の無機半導体でのサイクロトロン共鳴法との比較も行い、伝導機構のクロスオーバー領域の伝導性に関する知見を得る。以上の研究内容を適宜、国内学会及び国際会議で研究成果を発表する。
|
Research Products
(8 results)