2016 Fiscal Year Research-status Report
トポロジカル量子相とその階層構造,不純物に対する頑強性の理論的研究
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15K05131
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
井村 健一郎 広島大学, 先端物質科学研究科, 助教 (90391870)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ワイル半金属 / トポロジカル絶縁体 / バルクエッジ対応 / カイラル表面状態 / 量子輸送 / ナノ薄膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
トポロジカルな性質の次元間クロスオーバー/薄膜,ナノリボン等におけるトポロジカルな特性の研究を行ってきた.トポロジカルな性質は不純物等による摂動に強い反面,有限サイズや形状効果を受けて,発現したり,消失したりする.例えば,トポロジカル絶縁体ナノ薄膜の系では,層数を変えることで金属的な表面状態をスイッチ・オン/オフすることができる.純粋な2次元極限では(1層の場合)自明な絶縁体がただ積層するだけで,例えば,2層積み重ねただけでトポロジカル絶縁体になることもある.最近,トポロジカル絶縁体薄膜に関するこの研究を発展させ,ワイル半金属薄膜とトポロジカル絶縁体薄膜との比較研究をおこなった. ワイル半金属(Weyl semimetal)薄膜の電子状態に関する研究を行った.ワイル半金属はいわばトポロジカル絶縁体のギャップレス版である.価電子帯と伝導帯はワイル点で点接触した分散関係を示すが,これはトポロジカル絶縁体の表面に現れるDirac coneがバルクに潜り込んだものと捉えることもできる.ワイル半金属の表面にはカイラルな表面状態が現れ,これは波数空間でフェルミアークと呼ばれる特徴的な形状を示す. トポロジカルな分類にはしばしば上部構造と下部構造がある.例えば,Z2トポ ロジカル絶縁体の場合,強い指数と弱い指数があり,表面Dirac coneの数で言えば,mod 2の分類の下にmod 4での分類がある.ワイル半金属の場合,Weyl cone の傾き具合によるI型,II型という分類も存在する.また,トポロジカル絶縁体をベースにワイル半金属を構成する場合,時間反転か空間反転のどちらかを破らなければいけない.本研究では,時間反転を破るタイプのワイル半金属について,表面状態の輸送特性という観点から別の分類法を提案した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ワイル半金属(Weyl semimetal)薄膜の電子状態に関する研究を行った.ワイル半金属はいわばトポロジカル絶縁体のギャップレス版である.価電子帯と伝導帯はワイル点で点接触した分散関係を示すが,これはトポロジカル絶縁体の表面に現れるDirac coneがバルクに潜り込んだものと捉えることもできる[1].ワイル半金属の表面にはカイラルな表面状態が現れ,これは波数空間でフェルミアークと呼ばれる特徴的な形状を示す. 薄膜というナノ構造を導入することは母物質である3次元トポロジカル物質を2次元的な系に変質させる一方,2次元的な層状の系を積層していけば系の3次元的特性が強まる.本研究ではこのような次元性の制御により積極的に新奇なトポロジカル特性,あるいはそれに付随した機能性の探索を目指した. 具体的にはワイル半金属薄膜系を考え,不純物の存在下で伝導度の計算を行った.先程「ワイル半金属の表面にはカイラルな表面状態が現れ...」と述べたが,実際には表面状態がそこで示唆されるような純粋なchiralityを持つ場合と,そうでない"non-chiral"な場合と2つの場合が考えられる.ノンカイラルなワイル半金属薄膜の場合,一般に有限幅のナノバー状試料の伝導度はトポロジカルな値と異なる[1]. 一方,不純物強度を増して後方散乱を導入し,トポロジカルに保護されていない寄与を除去してしまうと,伝導度はトポロジカルな値に近づいていく(創発的トポロジカル特性). [1] Y. Yoshimura, et al., Phys. Rev. B. 94, 235414 (2016).
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Strategy for Future Research Activity |
30年以上前に理論的に予言されたトポロジカル量子ポンプが最近,冷却原子系の実験で実現されたのをきっかけに理論・実験の両側面からリバイバルの兆しがある.2次元の量子ホール効果ではホール伝導度が階段状に量子化されるのに対し,対応する1+1次元のポンプ系ではpumped charge, 具体的には冷却原子の波束の重心座標が階段状に変化し,ポンプ1サイクル毎に系を特徴づけるトポロジカル数で指定される量子化値分だけ変化する.一方で,そのようなトポロジカルに非自明な系はエッジ状態によっても特徴づけられ,また両者の間には厳密な1対1の関係も存在する:バルクエッジ対応.本研究ではポンプ系におけるバルクエッジ対応について今後精力的に研究していく. ポンプ系の理論的な解析については2つのアプローチが考えられる.1)時間発展を具体的に追う方法,2)スナップショットを見るやり方.ポンプ系において,意味を持つ量は,ポンプを1サイクル回した時にポンプされる電荷なので,それは先験的には波束等の時間発展を具体的に追ってみて初めて分かる気がする.しかし実際には,端のある有限系で系の分極の時間変化をスナップショットで解析することもできる.もちろん,スナップショットの解析では,分極の時間変化にエッジ状態の存在に起因した跳びが生じ,“netの意味での”pumpingは生データには現れない.しかし,それでも適当な処方箋でその跳びを除去してやれば,netのpumped chargeを可視化することができる.今後,このような視点を発展することで,トポロジカルポンプ系の不純物に対する安定性等を議論していきたい.
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Research Products
(13 results)