2015 Fiscal Year Research-status Report
赤外放射光利用に最適化したMCT検出器と有機薄膜解析
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15K05142
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Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
池本 夕佳 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 主幹研究員 (70344398)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 赤外放射光 / 有機薄膜試料 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請課題では、赤外放射光利用に最適化した赤外検出器を設計・導入し、有機薄膜試料の微小領域赤外分光測定を行う。赤外放射光は高輝度性に利点があり、微小領域の赤外分光測定に威力を発揮するが、スペクトルのノイズレベルが実験室光源(熱輻射光源)に比べると高く、吸収が小さい有機薄膜試料の測定は困難なことが多かった。本申請課題では、スペクトルの S/N 比を従来の 5~10 倍改善するために、1.波数領域を限定して検出器の飽和を避ける、2.素子温度を液体窒素温度以下に下げて感度を向上させるなどの対策を施す。改善した検出器を利用して、赤外放射光分光を行い、有機薄膜試料の微小領域における分子構造、キャリア注入のメカニズムを解明する。 本年度、上記1、2に掲げ対策を個別に検討した。検出器としては光起電力型のMCT検出器を使用した。光学フィルターは、当初1300~800cm-1のもので試したが、スペクトル測定に際してより使用頻度の高い900~1700cm-1を透過するフィルターもためした。900~1700cm-1では、スペクトルのS/N比は6倍程度改善することを確かめた。また、MCTを冷却するための液体窒素層を減圧して温度をさげるため、検出器に改造を施した。液体窒素は減圧によりおよそ60Kまで温度が下がり、これによりスペクトルのS/N比が2倍程度改善することを確かめた。対策によってスペクトルの質は改善しており、このことは、微小信号を測定するための重要な要素である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
赤外領域で利用される白色光源は、グローバーランプなどの熱輻射光源が最もよく利用されている。赤外放射光は、熱輻射光源と同様に広帯域をカバーする白色光源だが、熱輻射光源よりも2桁以上輝度が高い点が特徴である。赤外放射光を利用するビームラインは国内外に20本以上あり、その利用は、高輝度性をいかした顕微分光が主として行われている。放射光を光源とした赤外顕微分光では、回折限界に近い数マイクロメートルの空間分解能で多様な物質の測定に利用されている。検出器は、赤外分光で標準的に利用される半導体検出器、HgCdTe (MCT)検出器を利用している。MCT検出器は、感度が高く、応答速度が速い長所がある一方、入力に対する出力の線形性は劣っており飽和しやすい。放射光を入射した場合、検出器が飽和してスペクトルのS/N比を低下させる要因になっていることがわかった。本研究で解明を目指す有機薄膜試料は、有機物の厚みが非常に薄く、分子振動の信号が非常に小さい。本研究は、放射光利用に最適化した検出機を設計・導入し、有機薄膜試料の微小領域赤外分光測定を行い、最終的には電気配線して通電してキャリア伝導のメカニズムなどを解明することを目的としている。 現在までの研究で、光学フィルターを使って輝度の高い放射光を入射することによる検出器の飽和を抑えスペクトルのS/N比の改善を達成し、さらに、検出器の温度を下げることによっても感度向上によるS/N比改善が達成された。これらは研究を遂行する上で重要である。当初計画では、これらと並行して試料作成し、有機薄膜測定を行う予定であったが、試料作成の進捗が計画よりも遅れている。今後、試料作成を行う研究者との連携を強化し、研究を進展させる。
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Strategy for Future Research Activity |
検出器のS/N比を向上させる検討をさらに進める。これまでの研究で、1700~800cm-1の帯域での光学フィルター利用によるS/N比改善、検出器冷却のための液体窒素層を減圧することによって検出器の温度をさらに下げて感度を向上させることができた。今後、検出器の飽和を押されるための光学フィルターの敵広範囲をさらに広げるための検討を進める。また、放射光は連続光ではなく、時間構造を持っている。検出器の飽和しやすさは、入射する光の時間構造にも依存する。SPring-8では様々な時間構造を持つ運転を行っている。大別して、等間隔なモードと、不等間隔なモードがあり、また、パルス間隔・強度も異なっている。検出器の飽和を起こしにくいモードを調査し、最適な時間構造の放射光を利用して実験を行えるようにする。更に、スポットサイズと検出器サイズの最適化も行う。 また、様々な薄膜試料の測定を進展させる。試料は C60、ペリレン単結晶、銅フタロシアニン、その他多様な有機物の薄膜試料の測定を行う予定である。膜厚は数十nm 以下の試料を準備する。従来の検出器と本申請課題で準備する検出器とでスペクトルの S/N 比を比較し、アパーチャーでビームサイズを小さくしてどの程度まで有効に小さくできるか評価を行う。
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Causes of Carryover |
平成27年度研究計画では、赤外MCT検出器の液体窒素層を減圧して冷却温度をさらに低くするため、特注の検出器を購入する予定であった。しかし、MCT検出器は、すでに入手済みで使用していた検出器の改造で、当初性能を達成したため、差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究は、検出器を顕微鏡に搭載して、顕微分光により有機薄膜試料の測定を行う。改造を施した検出器を顕微鏡に搭載するための治具・光学系が新たに発生しており、これを本年度計上して実施する予定である。
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Research Products
(15 results)
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[Journal Article] Synchrotron FTIR Micro-Spectroscopy for Structural Analysis of Lewy Bodies in the Brain of Parkinson’s Disease Patients2015
Author(s)
K. Araki, N. Yagi, Y. Ikemoto, S. Choong, H. Hayakawa, G. Beck, H. Sumi, H. Fujimura, T. Moriwaki, Y. Nagai, Y. Goto and H. Mochizuki
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 5
Pages: 17625
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] 放射光赤外研究会の活動2015
Author(s)
池本夕佳、中野秀之、岡村英一、森脇太郎、木下豊彦
Organizer
SPring-8 シンポジウム 2015
Place of Presentation
九州大学(福岡県福岡市)
Year and Date
2015-09-13 – 2015-09-14