2015 Fiscal Year Research-status Report
超強磁場下におけるCe化合物の圧力誘起価数転移の探索と軌道効果の研究
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15K05146
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
藤原 賢二 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (50238630)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | 強磁場誘起価数転移 / 核磁気共鳴 / 超伝導 / 高圧 / 強磁場 |
Outline of Annual Research Achievements |
CeCu2Si2の高圧強磁場実験は、インデンター型圧力セルを使用して3.3GPaの圧力発生に成功した。このセルは小型であるため、金研強磁場施設での18T高磁場実験を行った後に、そのまま島根大学での7Tの低磁場実験を行うことが可能である。3.3GPa、18Tの磁場中でCu-NMR実験からCu核の核四重極周波数(νQ)を測定したところ、12K以下の温度でνQが僅かに減少することが明らかになった。一方、7Tの実験ではνQの減少は観測されず一定のままであることが示された。これは、周囲のイオンのつくる電場勾配が磁場により変化することを示しており、磁場誘起のCe価数変化を捉えたのではないかと評価した。 そこで、さらに高圧の実験を行うために超高圧アンビルセルを用いて、5.4GPaの圧力発生に成功した。18テスラの磁場下でCu-NQR実験を行ったところ、νQ、ナイトシフト、核磁気緩和率全ての物理量が、20K以下の温度で明瞭に減少することを見出した。これらは、電場勾配の変化を伴う何らかのクロスオーバーか転移が起こっていることを示唆するの実験結果である。ただし、ヒステリシスや2相共存の実験結果は観測されていないので、一次価数転移が有限温度まで上昇した可能性は低いと考えている。磁場誘起のCe価数変化の兆候を捉えることができたので、今後は圧力、磁場の条件を変化させて一次価数転移を探索することが課題である。一次転移が見出されれば、価数揺らぎ超伝導機構の決定的な証拠となるであろう。 重い電子系化合物CeAl2のAl-NMR実験では、連携研究者の本山氏が合成した単結晶試料を用いて、常圧および2.2GPaの圧力下でAl核のνQを決定することができた。低温でのνQの値は多結晶試料の過去の結果と一致している。詳細な温度変化を調べることが今後の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
価数揺らぎ機構の理論的考察から、磁場中で価数転移の臨界終点が有限温度に上昇して,静的な『磁場誘起価数転移』が起こることが予言されている。一方、高圧電気抵抗率測定から、CeCu2Si2の臨界圧力は4.5GPa、臨界終点-8 Kと推定されており、終点温度がゼロに非常に近い物質であることが報告されている。しかしながら、理論計算はあくまで定性的な変化を予言するものであり、計画当初からどの程度磁場をかければ価数転移の臨界終点が有限温度に上昇するかは不明の状況であった。 ところが、平成27年度のCeCu2Si2の5.4GPaの圧力下、18テスラの磁場中Cu-NMR実験から、Ce価数状態の変化を示す挙動を明確に捉えることができた。東北大学金属材料研究所の強磁場施設では、平成28年度中に25テスラ無冷媒超伝導マグネットの供用が開始されるので、CeCu2Si2のCe価数状態を調べるのに十分な磁場環境が整備される予定である。実際に磁場中で価数転移が起これば,Cu核の位置での電場勾配が急変して、価数変化を容易に検知できると予想している。 また、東北大金研での無冷媒超伝導マグネットを用いた強磁場高圧NMR実験は、これまで全く実績が無かったために、νQの精密測定には問題が生じるのではないかという懸念があった。しかしながら、これまでの実験から磁場の安定性や磁場均一度はほとんど問題ないことが明らかになっており、当初のスケジュールより大幅に進捗する要因の一つとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
CeCu2Si2は、価数揺らぎ超伝導機構が成立している可能性が最も高い超伝導物質である。この系で『磁場誘起価数転移』の兆候が捉えられた意義は非常に大きい。そこで、平成28年度は、CeCu2Si2の強磁場・超高圧実験にエフォートを集中させて実験を進めたいと考えている。高圧NMR実験は長時間の実験となること、東北大金研でのマシンタイムが限定されていること、25テスラ無冷媒マグネット用のプローブ作製などの準備が必要であることを考慮に入れると、Ce価数状態の強磁場・高圧・温度変化の全体像を明らかにするには多大な労力が必要である。 平成28年度前半は、CeCu2Si2の実験においては圧力を6GPa程度まで上昇させて、価数状態の磁場変化を詳細に調べる予定である。9月以降には東北大学金属材料研究所の強磁場施設で25テスラ無冷媒超伝導マグネットの供用が開始されるので、より高い22~23テスラの磁場での実験もチャレンジする予定である。また、後半にはゼロ磁場の臨界圧力である4.5GPaでの強磁場実験を行い、3.3、5.4、6.0GPaの結果と合わせて転移の全体像を明らかにしていきたい。 重い電子系化合物CeAl2のAl-NMR実験では、1‐3.5GPaの圧力範囲で2‐7テスラの磁場範囲でAl核のNMRを島根大学において遂行する。臨界圧力は2.7GPaと低いので、インデンター型圧力セルを用いて実験を行う予定である。低温でのナイトシフトが非常に大きいためにNMR線幅が低温で広がってしまい精度の低下の要因となっている。したがって、純良な試料での実験が望ましく、良質な単結晶合成も行う予定である。
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Research Products
(3 results)