2015 Fiscal Year Research-status Report
2次元ハニカム格子上のスピン系に現れる特異な磁気ダイナミクス
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15K05149
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
安井 幸夫 明治大学, 理工学部, 准教授 (80345850)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菊地 淳 明治大学, 理工学部, 教授 (90297614)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ハニカム格子 / 磁気ダイナミクス / 反強磁性転移 / incommensurateな磁気構造 / 粉末中性子回折 / 元素置換効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、(i)磁性イオンT=Ni2+,Co2+がハニカム格子を形成するスピン系A3T2A'O6 (A=Li,Na, A'=Sb,Bi)の多結晶試料を合成し、(ii) 磁化率・比熱・誘電率の温度依存性や磁場依存性を調べるとともに、(iii) 中性子回折実験、X線回折実験、7Li-NMRによる微視的な測定を行い、結晶構造・磁気構造や磁気ダイナミクスを調べてきた。下記に得られた主な研究成果を記述する。 (1)Li3Ni2A'O6の多結晶試料を合成して、磁化率・比熱を測定した結果、TN=13.5K(A'=Sb), TN=4K(A'=Bi)で反強磁性転移を起こすことが分かった。さらにLi3Ni2SbO6の磁性を調べた結果、Hc=6T付近の磁場で磁化曲線に異常が現れることも分かった。磁場配向試料を作成し、結晶軸と磁場方向を指定して磁化曲線の振る舞いを詳しく調べ結果、Hc=6Tでの磁化曲線の異常は、H//c軸では出現するが、H//ab面では現れないことから、この異常の起源はスピンフロップ転移であることがわかった。さらにJ-PARCのiMATERIAを用いてLi3Ni2SbO6の粉末中性子回折実験を行った結果、h±δkl(δ~0.165)の指数で説明可能な磁気反射を観測しincommensurateな磁気構造をもつことがわかった。 (2)Li3Co2SbO6の多結晶試料を合成して、磁化率・比熱を測定した結果、TN=110Kで反強磁性相転移を起こすことがわかった。一方、LiサイトをNaに入れ替えたNa3Co2SbO6では7Kで反強磁性転移を起こすことが分かり、両者の間で磁気転移温度が2桁も異なっていた。両者のX線結晶構造解析は途中であるが、Na3Co2SbO6はCo2+イオンがハニカム格子を形成する結晶構造であるのに対し、Li3Co2SbO6はおそらくCo2+イオンが3次元的に配列したFddd構造と呼ばれる結晶構造であると考えられる。両者の結晶構造の違いがスピン間の交換相互作用の違いとなって反映され、このような磁気転移温度の大きな違いが生じたと理解できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度は磁性イオンT=Ni2+,Co2+を含むスピン系A3T2A'O6 (A=Li,Na,A'=Sb,Bi)の組み合わせの中で、Li3Ni2SbO6、Li3Ni2BiO6、Li3Co2SbO6、Na3Co2SbO6の多結晶試料を合成し、磁化率・比熱・誘電率の測定や、X線結晶構造解析、粉末中性子回折実験、7Li-NMRの測定によりこれらの物質の磁性を明らかにしたので、この物質群の基本的な磁気的振る舞いが理解できてきた。その点ではおおむね順調に進展していると考えている。一方では、Li3Ni2SbO6の粉末中性子回折実験を行いincommensurateな磁気構造をもつことがわかったものの詳細な磁気構造がまだ決定できていない。また、Li3Co2SbO6は当初期待していたハニカム構造ではなくCo2+イオンが3次元的に配列したFddd構造と呼ばれる結晶構造とわかったが、詳細な結晶構造はまだ決定できていない。これらを早急に決定する必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)Li3Ni2SbO6の粉末中性子回折の実験結果を解析し、incommensurateな磁気構造を決定する。ハニカム格子をもつスピン系において、理論的には最近接交換相互作用J1, 次近接交換相互作用J2, 第3近接交換相互作用J3を取り入れると相互作用に競合が生じて、J1, J2, J3の非常に狭いパラメーター領域にincommensurateな磁気構造が出現し得るとの提案はなされているが、具体的なハニカム格子磁性体でincommensurateな磁気構造をもつとの報告は私が知る限りなく、この物質が初めての物質例と考えられるので、どのような磁気構造であるか大変興味を持っている。磁化曲線にはHc=6T付近でスピンフロップ転移を示すこともわかっているので、この情報と合わせて磁気構造を決定する。 (2)Li3Co2SbO6とNa3Co2SbO6では反強磁性転移温度が、それぞれTN=110Kと7Kとなっており2桁もの違いがあることがわかったが、その理由はLi3Co2SbO6の結晶構造がハニカム格子ではなくFddd構造と呼ばれる結晶構造に起因すると考えられる。Li3Co2SbO6の詳細な結晶構造を決定し、このような高い転移温度を持ち得る原子配列になっているかを考察する。 (3)Na3Co2SbO6にも磁化曲線にHc=1T付近で異常を観測しており、磁場配向を用いた磁化測定を行い、その起源を調べる (4)A'サイトがBiの化合物では、Bi5+のイオン半径がSb5+と比べて大きいために、ハニカム格子に化学的負圧効果を与えるので、Li3Ni2BiO6以外にも、Biを含む化合物を合成し、その物性を調べ、この物質群の磁気的振る舞いを系統的に理解したい。
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Causes of Carryover |
試料合成に必要な試薬と坩堝の購入と、低温での物性測定を行うのに必要な液体窒素と液体ヘリウムの購入をする予定で物品費を計上したが、2015年度は試料合成と低温での物性実験が予想より順調に進んだので物品費の使用額が計画より下回った。 また、研究を効率よく行うために研究補助員を雇うことで人件費を使用する予定だったが、2015年度は適任者が見つからなかったので人件費を使用しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費は、試料合成に必要な試薬と坩堝の購入、低温での物性測定を行うのに必要な液体窒素と液体ヘリウムの購入、合成した試料の質を評価するためのX線回折実験データ解析プログラムを購入する予定である。試料合成や低温実験はいつも順調に進むとは限らないので、繰り越した研究費を使用する。 人件費を使用して研究補助員を雇い研究を効率よく進める予定である。
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Research Products
(2 results)